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「身の丈に合ったチャレンジ」が地域を動かす。地域住民が主体的になって創る「まちづくり」の在りかた

愛媛県西条市

今回は松村 光雄さんに
お話を伺いました
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松村 光雄(まつむら みつお)さん:古民家カフェ“Cafe Pilz”代表

埼玉県桶川市出身。東洋大学大学院修了。半導体エンジニアとして伊藤忠ケミカルフロンティア株式会社へ就職後、住友化学株式会社を経て古民家カフェ“Cafe Pilz”を夫婦で創業。自家製天然酵母パン製造販売“アヒルパン@Cafe Pilz”の経営の傍ら、まちづくり活動に力を注ぐ。

Cafe Pilz
HP:https://cafepilz0815.wixsite.com/home3
Facebook:https://www.facebook.com/cafepilz
Instagram:https://www.instagram.com/cafepilz0815/

地域で何かをやりたいと思った時、どこから手をつけたらいいと思いますか?まちのためにとか、まちを変えたいとか人によって様々ですが、壁に当たってもがいているのではないでしょうか?今回のお話はそんな人たちの活動のヒントになるはずです。


今回は愛媛県西条市で猫パンというとてもユニークなパンを製造・販売しながら地域に寄り添う人のお話をお届け。


他県から地域に移住した松村 光雄さん(カフェ ピルツ)は、自分のやりたいこととまちづくりの掛け合わせで地域を盛り上げようと日々奮闘しています。


松村さんのサラリーマン人生から古民家カフェに転換するに至ったストーリー、そして、まちづくりを通して地域活動に当たる人たちを繋ぐことで得られるものの先に見える未来とは。

古民家カフェという箱をハブとしてまちを良くしたい想いを広げるために、人と寄り添いながら地域のニーズを掬い取る


オンライン取材中に可愛らしいネコが顔を出した。今ではすっかり甘えん坊のドラネコだが、元々は保護センターで預かっていたのを松村さんが引き取ったという。


松村さんは地域で様々な団体や行事に参画しているが、共通しているのは「まちを良くしたい」こと。その想いを自身で運営しているCafe Pilz(カフェ ピルツ)をハブとして広げていきたいという。その起源は一体何だろうか?


「もう始めて8年半くらい経ちます。当時は勢いで脱サラして嫁と始めたんですが、ちょうどそのころ、地域でお子様を連れて行くことができるお店が非常に少なかったんです。


そんな背景もあって最初は口コミと言いますか、お客様の要望もあって子育て支援だったり地域の情報発信で機能を果たせないだろうかという想いが合わさり、今の形になったんです」(松村さん)



松村さんご夫妻はもともと2人でいつかカフェをやりたいという願望があった。その当時はサラリーマンで、ある程度の年齢までいくと管理職になるのが一般的で面白くないと考えた松村さんは、現場業務が好きなこともあり地域の人と寄り添う仕事もやってみたいと思い立ちこの世界に飛び込んだ。


地域から寄ってくる情報を基にして事業スタイルの形成を行い、地域資源を活用したフードロス問題に尽力する


松村さんのミッションは食に関する事業を展開する中、地域課題解決やまちの資源を活用してフードロス問題のために尽力することである。ここに辿り着くまでも試行錯誤しながら事業を通してそのような意識を高く持ちながら活動していた。


松村さんのフードロス問題の取り組みとしては、規格外の農産物を農家から譲り受けてフレーバーとしてパンに混ぜ込む形で応用。地産地消をコンセプトに近隣地域の野菜や果樹園の柑橘系果実をピール状にしてパンに混ぜ込むことで地域資源を活かしているのだ。では事業形成はどのような形で作ったのだろうか?


「料理とか作るのは元々好きだったのですが、今の事業スタイルができたのはこちらから探したのではなく地域から情報が寄ってきた文脈が正しくて。


事業を始めた最初の年、地元のラジオで紹介してもらったおかげで自然栽培をされている農家さんと知り合ったんです。


その方が甘酒事業をやりはじめていたのですが、甘酒以外にもできることはないかと考えていた時に、僕の妻がパンのことに詳しくて米麹で甘酒酵母で作る商品を提案をして今の形になったんです」(松村さん)


甘酒酵母とパンの組み合わせはとてもユニーク。今までにない発想で地域の生産者とともに新たな事業を作っていくことは、持続可能なまちづくりにも繋がっていくのではないだろうか。


松村さんの取り組みはSDGs(持続可能な開発目標)の項目「11と12」にも反映している。西条市は2021年5月に国連の提唱するSDGs達成のため積極的に取り組む都市として「SDGs未来都市」に選定されているが、さまざまなステークホルダーとの繋がりがあることがきっかけで、松村さんも真剣に取り組んでいる。


次世代が生きる未来に自らも希望が持てるまちを実現するべく地域振興に参画して課題を解決し、人と人をつなぐ中間支援機能の充実に力を入れること(11.住み続けられるまちづくりを)。


パン・ベーグルの製造販売における食品ロス削減を念頭に、地域農産物を活用した商品開発や規格外農産物の活用することで付加価値の高い商品の開発、お客様に喜んでいただける商品を提供することを目標に掲げている(12.つくる責任つかう責任)。


地域住民が主体的になって地域に根差した活動の自走化が、保守的な地域にセンス良く新たな風を送り込む形に


松村さんは地域活動に関心があり、それに関連するイベントや地域への声かけに積極的になっていたのだが、大きく関わることになったのはまちづくりを行っている愛知県出身で地域おこし協力隊制度を活用して移住した安形 真さんの存在だったという。


「僕はまちづくりに興味があってこれまでイベントに関わってきた中で、安形さんから『地域イベントのSAIJO SOUP *1をやるので手伝って欲しい』とお声がけいただいたことが、本格的に地域活動に関わるきっかけになったと思っています。


SAIJO SOUPのVol.2までは安形さんが主体的に取りまとめる形で準備と運営をしていましたが、Vol.3を開催する話になった時に『市民活動は地域住民が主体的になって創る地域に根差した活動でないといけないので、地域の人たちが持続的に関わっているのであればその人たちにバトンタッチして自走化へ持っていくべき』と話されたんです」(松村さん)


SAIJO SOUP *1  アメリカのデトロイト州で生まれた『デトロイトスープ』を元にしたイベントで、日本では島根県津和野町に次いで2番目に取り組み始めたのが西条市である。あらかじめまちのために何かをしたい人を登壇者として募集して集まったプレゼンターの課題に対する解決策や思いを発表している様子を参加者はスープや軽食を食べながら、最も応援したいと思ったプレゼンターに投票するもの。最も多く得票数を得た1人が集められた資金を事業のために使うことができる。


SAIJO SOUP 

Facebookページ:https://www.facebook.com/SAIJO.SOUP/


特定の人が対象ではなく、地域住民の誰もが参加できるイベントにすることで垣根を解すことを表舞台で取り組んでいく


とてもアクティブな松村さんだが、実は表舞台に立つことが苦手で裏方でいることが好きだという。しかし松村さん自身、保守的な地域は新しい刺激を与える取り組みがないと低迷していくのではないかと危機感を抱いた。


その中で運営メンバーから背中を押されて一生懸命やってみたいと思い、運営を引き受けたそうだ。このような取り組みが結果として、地域に根ざしたコミュニケーションを作った集合体が織りなし、保守的な人たちが変わっていくための火つけ役になっていくのではないか。




松村さんは過去に体験した出来事から学んだことを活かし、物事を考えてもポジティブやネガティブなことを考えるよりも、自分たちで今できることを武器にやっていくスタイルを貫き通すことが大事だという。そして松村さんは続ける。


「SAIJO SOUPは"世界一ユルいビジコン"と位置付けてハードルを下げることによって誰でも参加しやすいイベントだとエッジを効かせて地域内外に伝えていきたいです。地域のために何かをやりたいと発信したい人がいればSAIJO SOUPを通してその場を提供する形が創れたらと思います」(松村さん)


プレゼンターを経験された人からは「実際に登壇して自分たちの活動が整理できてより外向きの活動ができるようになった」と評価をいただいたことがとても嬉しかったと松村さんは話す。


地域の様々なステークホルダーと接しながら信頼関係を構築し、試行錯誤しながら今できることを貫き通す


松村さんはこの他にも地域活動の主体となるイベント企画運営を行っているが、以前は一般の出店者の立場だった。元々、商店街のイベントに毎月出店していたところに、いろんな業種の人と接することが増えてきたり、地域商社で仕事をする時に農家の方たちとも繋がりが深まることがきっかけで、行政や自治体の方たちとも交流する機会が増えて地域との信頼を育んできた。


また松村さんはコロナ禍の緊急事態宣言下で顧客が途絶えた状況が続いて飲食業や物販が立ち行かなくなった時に、松村さんの実店舗の敷地内駐車場を活用して感染症対策をしながらミニマルシェの実証実験をやろうと考え実行。そこで学んだことが今に活かされているという。



「僕らはパンという商材が元々ありましたが、周辺地域もマルシェイベントができなくなってハンドメイド作家さんや物販をやられている方々も困っていました。そこで皆さんにもお声がけをして実施したんです。


あの頃のチャレンジとして思うことは、後ろ向きなことを考えても前に進まないし、僕としては体力はあったので、今できることをやるスタイルを貫き通したんです。そこで学んだことがとても多くて今に活かされているように思います」(松村さん)


求めるべきは当たり前にある既存のビジネスモデルを打破し顧客の心に突き刺さる発想


そんな松村さんのビジネスモデルはとても気になるところ。一般的には「安い・美味しい・早い」か「高級路線」の二つだと思うが、松村さんの場合は家族経営でブランド要素もあると思うが本人はどう意識しているのだろうか。


「そうですね。飲食店に関わることで意識しているのが、同業他社とは差別化を必ず図ることを常に意識しています。個人事業主は体力にも限りがあるので価格競争になってしまうと続きません。


他の店にない特色を出せる形を追求することが重要なんです。ネコの形をしたパンは珍しくも実は他にも散見しているので、自家製甘酒酵母*2 を使用し、パンの見た目を可愛くするために妻と相談しながら『三毛猫やハチワレ模様を作ったら面白そう』という発想が結果的にお客様の心に刺さったんです」(松村さん)


今では一定の顧客がいて販促活動も続けていることから「ねこパン」とはうちの猫パンっていうと松村さんのパンを指すようになったそうだ。


*2 パンに使用する材料は西条市の自然栽培米農家「土と暮らす」の米麹、塩田法により精製された天然塩(天日塩)、そして西条市の地下水を使用し、などから作る自家製甘酒酵母



顧客が価値を感じて対価を払うための優位性を見い出し、地域活動をする人たちを牽引する二足わらじで地域に根付くこと


とても面白い発想だとは思うが、パンを売ることで地域活性化や地域課題解決をしていると訴えても顧客はどこに価値を感じてお金を払うべきか分からない。まして、愛媛県は全国でパン販売店数がトップの京都に次いで二位の地域に当たるため競争も激しい。


結果的に何らかの差別化を図らないと生き残れないのは明白だ。地域活性化だったり課題解決を軸に置きながらも自分でできることを活かして競合と差別化できるポイントを見い出し、かつ、地域資源を活用して地域の顧客に消費していただくことが結果的に課題解決に繋がっていくのだ。


「差別化を図る考え方で意識しているのは、私がサラリーマン時代に、いろんな商品を売るために営業に回っていた時に他にはない優位性のあるものしか売れなかったことを経験していたことが今になって活かされているからだと思うのです」(松村さん)



自身の生業で生きていくために商材の差別化を図りながらまちづくりにも注力する。とても気の抜けない大変な事だとは思うが、松村さんとしてはその取り組みを続けていくための覚悟や理想像はどのように描いているのだろうか?


「西条市は市民活動をされてる団体は100以上はあることが分かっています。このようなまちづくり団体を少しでも牽引するきっかけを作ることが大切であり、その手段の一つがSAIJO SOUPの取り組みと考えると自分にマッチングした活動の一つになっているんですね」(松村さん)


裏方の立場でいながら得意分野を活かして身の丈にあったチャレンジを続けることが地域課題を解決する糸口に


本来は黒子的な人間であり続けたいと話す松村さん。例えば地域を盛り上げるためにマルシェイベント企画を進めるのであれば行政の手続きや調整・事務的なところのサポートをする地域コーディネーターでありたいという。


地域のためにやりたいことはたくさんある。でもどこから手をつければ良いか分からない。そう思った時はやりたいことを自分自身が思っている地域課題と得意分野に分解して考えるといいと聞いたことがある。後者を優先して取り組んでいくと自然に課題も解決されるというが、松村さんも同じ考えではないかと思うのだがどうだろうか。


「そうですね。でも、背伸びはしません。僕は自分たちのできることをやってるだけなんです。高い目標を掲げてやってるわけではなく、身の丈に合ったことを実行しているだけなんです。故にいろんなことができていると思います。


これからはまちづくりにおいてはプロモーションもしっかりやっていくことが必要ですね。また、クラウドファンディングを活用して地域内外の人たちとの接点や関係人口を生み出すチャレンジも今後していくことも考えないといけないと思ってます。あとはいかにこのイベントが楽しいんだよと伝えていくことが重要ですから」(松村さん)



結び-Ending-

SAIJO SOUP vol.4はコロナ禍を経て初の現地開催。松村さんはマルシェイベントも同時に主催だったため体力的にも精神的にも負担がかかり、開催日翌日はほとんど1日寝込んでいたが振り返ってみればチャレンジして良かったと話されていました。


無理されているのではと思いましたが、それでもやっちゃうところはとても共感できて僕自身同じ境遇であったら突っ走れるんじゃないかなと思いました。


でも身の丈にあったこと、自分たちにできることを実行していくことが松村さんの大切にされていることでとても学びあるお話を伺えたと感じています。

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■企画・著作
中野 隆行(Nakano Takayuki)
地域での写真活動を機に
地域の人たちの価値観に触れたことがきっかけで
このメディアを立ち上げる

【取材データ】
2022年11月10日 オンライン取材
【監修・取材協力】
Cafe Pilz
・松村 光雄様
SAIJO SOUP実行委員会
一般社団法人 リズカーレ

取材にご協力いただきました関係各諸機関のほか、関係各位に厚く御礼申し上げます。

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