今回取材させていただいたのは、愛媛県西条市の安形 真(あがた まこと)さん。まちを面白くしたい人の応援や、異業種交流会の開催など、さまざまな形でまちづくりに携わられています。
そんな中で、コミュニティ財団設立に向けて動き始められました。立ち上げに際して試行錯誤されている姿や、その想いをお届けします。
安形さんの思い描くまちづくりとは?
自分たちのまちは自分たちで考えていくことが、未来を創ることにつながる
中野(モデレーター:以下、省略):安形さんの活動内容や、コミュニティ財団を設立しようと思った経緯についてお伺いできればと思います。
安形さん(以下、敬称略):私は愛知県新城市出身で、今は愛媛県西条市に住んでいます。西条市に来るまでは、愛知県からほとんど出たことがありませんでした。
安形 真(あがた まこと)さん:一般社団法人リズカーレ 代表理事/愛知県出身。愛媛県西条市在住。起業支援をしながらまちづくりに携わる。コワーキングスペース「サカエマチHOLIC」を運営。地方特有の起業支援が得意分野。今回、コミュニティ財団設立に向けて始動中。
一般社団法人リズカーレ
サカエマチHOLIC
安形:愛知県にいた頃からずっとまちづくり・まちの活性化をしたくて。最初に起業した時のテーマが「農業でまちづくりをしよう」というものだったんです。農家レストランや市民農園をやったり、人が農業を通じてまちに触れ合うようなきっかけを作りながら活動してきました。
その後、起業家を育てる活動を行う中で、Next Commons Lab 西条の立ち上げに関わることになり、2018年の3月に愛媛県西条市に移住。
ローカルベンチャーの先進地域が中国・四国、九州地方ですので、その辺りで自分を試してみようという気持ちで西条市のローカルベンチャー事業を立ち上げました。
総務省の地域おこし協力隊制度を活用したため任期も3年間という形で現在は満了し、今は一般社団法人リズカーレという法人を立ち上げ、代表をしています。起業支援をしながらまちづくりの仕事を初志貫徹でやっているのですが、その中で、コミュニティ財団を作ることに関心を持ち始めました。
郷里の愛知県のあいちコミュニティ財団はずっと拝見していて。まちの持続性を上げていこうとした時に、市民が行政に依存する状態は良くない。自分たちのまちは自分たちで作り、作りたい未来を自分たちで作る。そのようなコミュニティ財団を作り上げていくことが、西条市にはフィットしていると思い、活動をしています。
地域をなんとかしたい想いを持った人を発掘することが地域活性化につながり、その支援をコミュニティ財団で担う
中野:何でもない人たちが意外にも「地域をなんとかしたい」と思っている部分は絶対にあると思っていて。そういう人たちをどんどん発掘していくことが地域活性化につながるのかなと思います。
中野 隆行(なかの たかゆき)町おこしロケーションタイムス ファウンダー/愛媛県松山市出身。地域での写真活動を機に出会った地域の人たちの素晴らしい価値観に触れたことがきっかけで、自身の好きな旅をテーマに、全国の地域で暮らす人たちの何気ない姿を価値として発信する地域メディア「町おこしロケーションタイムス」を立ち上げる。地域で、やりたいことに挑戦するひとを応援するために、地域と行政や団体の間に入り、必要な情報や知識、人材をつなぐことにも取り組んでいる。
中野:そうは言っても、地域づくりのための資金を集めていくのがなかなか難しい時代じゃないですか。行政はどうしても医療や福祉にお金を回さないといけないので。そうなってくると、民間が行政の役割を担っていく時代が来ているのかなと感じています。
安形:そうですね。僕の地元は愛知県の新城市というところで、西条市と同じくらいの面積なんですが、人口が4万8千人。西条市は10万8千人なので、半分以下の過疎のまちなんですね。
新城市は他の地域と同様に、時代の流れといいますか、人口減少や産業の衰退に伴って行政も試行錯誤されている中で、自力でまちづくりをしていくのは限界を感じていて。どこかでティッピングポイント *1 があって、それを超えてしまったまちは、どうなってしまうのかと思っていたんです。
*1 ティッピングポイント
ティッピングポイント(tipping point)とは、物事がある一定の閾値を超えると一気に全体に広まっていく際の閾値やその時期、時点のこと。
参考文献:https://makitani.net/shimauma/tipping-point
そんな感情を持ちながら西条市に来た時に、未来からタイムスリップしてきた感覚がありました。西条市もどんどん人口が減っていくのは目に見えていて、減っていった先に何が起こるのかが何となく分かるんです。そうならないために、必要なものを仕組みとして用意していこうという意識が強いですね。
中野:地域住民一人ひとりができることを形にしていくことが大事だと思っています。そこに対してコミュニティ財団から応援できる部分があるのではないかと思って。
地域のために何かしたい想いを持っていて、助成や支援に関心のある人って絶対いると思うんです。
そういった人を発掘するイベントをこれまでされていますが、地域を超越するまちづくりが良い働きになるのかなと思います。
安形:そうですね。地域外の人との接点を増やすことも重要だと思います。外の人たちも、西条の人たちと絡み合うことによって、面白い刺激を得て文化や社会が変わっていく中のいちばん最初の場所になればと思っています。
今、財団設立及び最初の助成事業を開始するための寄付を集める「呼びかけ人」を試行錯誤しながら募集しているのですが、西条市以外の方も歓迎する形を取っています。
地域の問題は、地域内で解決できる仕組み作りが地域力向上につながる
中野:西条市に来て最初にやりたいと思っていたことと、今向かっている方向で、気持ちや行動の変化はありますか?
安形:西条市に来た時は、起業家がまちに増えていく仕組みができれば活性化するだろうと仮説を大切にしながら、ローカルベンチャー事業に着手しました。
そこで「まちの持続性を高める」ためには、地域の中でお互いが助け合えるリレーションシップが、持続可能なコミュニティにつながると感じたんです。
もう少し社会的にインパクトを出していかなければと考えた時に、上手くネットワーキングして、ヒト・モノ・カネが回って地域内の経済・問題が解決できる仕組み作りが必要だと思い、コミュニティ財団を作ろうと動き始めました。
当たり前のことを当たり前に自分たちで地域課題を解決して、楽しいまちにできるのが地域の良いところです。
「地域の課題解決をしましょう」と打ち出し方が少し堅くなっていますが、どちらかというともっとポップに、カジュアルな形で、コミュニティ財団を通してまちづくりをしたくなる人たちが増えてくるよう願っています。
中野:「地域課題解決をしたい」というのも大事な部分ではありますが、その中でキーワードになってくるのが、やっぱり面白くて楽しいことなのかなと思いますね。ゆるくふわっとした感じで誰でも関われるような場が出来れば、会議では出てこないアイデアが生まれそうですよね。
安形:そうですね。「コミュニティ」や「財団」という固い概念をもう少しフランクにして、共感してくれる人たちとお酒でも飲みながら話せるような、もっと簡単で単純で参加しやすいまちづくりが良いのかなと思います。
コミュニティ財団づくりを通して、市民のまちへの想いを高めていきたい
中野:これだけは伝えておきたいことはありますか?
安形:財団設立のために、西条市の人口10万人のうち、1%の1,000人から寄付をもらえたら良いなと思っているんです。今までまちのために主体的に行動していない1%の1,000人が、寄付をするアクションをまちのためにするインパクトってかなり大きいと思うんです。
そういった人たちとのコミュニケーションが、SNSなどを通じて昔よりも効率的に出来る時代ですので、雪だるま方式でどんどん広がっていけば良いなと。
市民の人たちに、より身近に思っていただきながら、まちと関わっていく。コミュニティ財団はそのための装置としての役割がいちばん大きいと思います。
社会課題の解決やまちの活性化は、その副次的な効果なんです。そういう活動自体が意識的に活発になれば、結局お金がなくてもまちづくりはそれで成功する気がするんですよ。
中野:皆が持ち寄れるものを持ち寄って、協力し合えば何かができる。その結果として、社会課題や地域課題が解決されていく感じですね。
安形:例えば、コミュニティ財団ができたことによって、いろいろな社会課題や自分の身の回りにある問題が目についてきて、「じゃあとちょっと動いてみようか」となれば良いかなと。必ずしもコミュニティ財団を使わなくても良いんですよ。自助・共助で解決できないことをコミュニティ財団でお手伝いできるような気がするんですよね。
中野:何か小さいことからでも良いですよね。そういうのが一つ一つ積み重なって、まちを良くしたいと思う人がどんどん集まれば、もっと形が変わってくるのかなと思います。
安形:そうですね。コミュニティ財団は、自然とそういう困りごとの相談が集まる場所になっていたりするんです。「そういう困りごとなら行政に行けば対応してくれるよ」と教えてあげられるかもしれない。そんな役割ができたら良いなとも思いますね。
コミュニティ財団というのは、きっかけづくりなのかなというのが今の気持ちです。お金を集めるんだというのが先に出ると気持ち悪いでしょ。よく分からないものに対して人から寄付を集めることで、信用を失う可能性がありますよね。どちらかというと寄付を集めるのは、二の次というか。財団づくりを通じて、市民の人のまちへの想いを高めていく。その活動のほうが本質的だなと思いながら活動しています。
住みやすい豊かな暮らしができて、これからの可能性を感じるまちがプレーヤーを育てていく
中野:最後に、西条市を訪れる人や興味を持ってくれている人たちに対して何かメッセージを頂けますか。
安形:西条市は、宝島社の『田舎暮らしの本』の中で、10万人以上のまちの中で、最も移住したいまちランキングで総合部門や、各部門でナンバーワンを取っているのですが、非常に暮らしやすいまちです。自然環境や、まちの環境がすごくちょうど良くて住みやすい。
また、新しい文化も生まれかけています。いろいろなチャレンジャーが増えてきていますし、元々そういう人たちも多いです。
安形:自分らしく活動しやすい環境であり、地域の人たちも、自分たちの力だけじゃ変わりきれないと分かっているからこそ、私たちと共創してくれる人たちもおり、これからの可能性を感じるまちだと思っています。
ある程度規模があるのでビジネスもしやすいです。田舎に行けば行くほど、移住者が来て何かをやり始めたら、インパクトが広がりやすいのですが、規模がないから成長しにくいんですよね。そう考えると、西条市はとてもちょうど良い規模です。ビジネスを始めたらある程度軌道に乗せやすいですし、ある程度自由も保証されています。
編集後記
とても住みやすく、これからの可能性を感じる魅力あるまち、西条市。そこで安形さんの立ち上げるコミュニティ財団はこれからどのような役割を担っていくのでしょうか。今後の展開がますます楽しみです。
また記事の中でもご紹介いたしましたが、財団設立及び最初の助成事業を開始するための寄付を集める「呼びかけ人」を、現在募集中です。
ご興味のある方は下記サイトからお申し込みください。(西条市以外の方も歓迎!)
町おこしロケーションタイムス編集部
【取材データ】
2021.07.31 オンライン
【監修・取材協力・資料提供】
・一般社団法人 リズカーレ
安形 真 様
取材にご協力いただきました関係各諸機関のほか、関係各位に厚く御礼申し上げます。