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漁協組合長と対談
これからの時代に求められる持続可能な漁協づくりとは

富山県朝日町

今回は徳田 聖一郎さんと
脇山 正美さんに
お話を伺いました
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徳田聖一郎(とくだ せいいちろう)さん:富山県朝日町地域おこし協力隊/愛知県豊田市出身。大手製造業を経て二年前から富山県朝日町に移住してJF泊(富山県朝日町泊漁業協同組合)で漁師として働いている(地域おこし協力隊)。冬は荒れる日本海で寒さでかじかむ手をよそに刺網を扱い、夏はフェーン現象で猛暑の中、海面に照りつける太陽の熱風のもと仕事に励む。

脇山正美(わきやま まさみ)さん:JF泊(富山県朝日町泊漁業協同組合)代表理事組合長/富山県朝日町在住。まちづくりのキーパーソンの一人。富山一小さな漁協ではあるものの、知識や経験を生かし、漁協という枠組みを越えて朝日町全体の地域活性化を実現するべく、持続可能なまちづくり活動を行う。

2019年4月、春の四重奏で名を馳せる富山県朝日町。サクラが見ごろを迎える舟川べりに多くの観光客が行き交う中、その一角に「朝日町産本ズワイガニ、漁師のかに汁」と幟が出たテントで若者たちが商品を販売しています。


そのうちの一人、漁師である男性との出会いました。現在はわな猟免許なども取得し、海と山の恵みに囲まれた朝日町で楽しく暮らしています。


しかし、決して楽ではないように見える漁師の仕事に打ち込む姿に、地域の人たちとの関わりを半年近く取材させてもらう中、ある日、漁協組合長を交えて将来の展望について対談。その様子をお届け。

田舎暮らしと自主性を求めて選んだ、海と山の恵み豊かな朝日町での挑戦


まちロケ:まず一番気になることですが、移住するに当たって大変なことはありましたか。


徳田さん(以下、敬称略):う~ん、特には。というのも僕、元々田舎が好きだったので、こっちの方が合ってるのかなって思いますね。前に働いていた会社は受け身の労働と言うか何のために働いているのか分からない状態というのが一番嫌だったので。土日という休日とお金のためだけに働いている感じが面白くなくて。



それで自分に合った土地を調べて色々行きました。北は北海道の利尻島に、本州は三重県、和歌山県とか。僕は素潜りがしたかったんですよね。


電話とかでも聞きまくってました。でも、募集して受け入れてくれるところが少なかったですね。三重県の場合は地域おこし協力隊として募集していたんですが、自分の求めた条件ではなかったので、最終的には富山県の朝日町になりました。


僕は自分で獲った海産物を売ったりもしたかったんですが、ほとんどが市場に卸さないといけないんです。直販がダメだったりとか。それがここ、※泊漁協では特にそんな決まりがなかったんですよね。小さい漁協だから小回りが利くのかなと。


それが一番大きかったかなぁと思います。自分で色々考えてやっていけるのがここの面白いところでもありますね。


あと、山の狩猟もやりたいっていう夢もあったんです。狩猟免許は取ったのですが、後は止め刺しができるようになりたいですね。朝日町は海だけでなくて山もあるし、資源がとても豊富ですよね。


※富山県漁業協同組合連合会に加盟している漁協の中で、最も小さな組織


漁に出る徳田さんら漁師たち
漁に出る徳田さんら漁師たち

寒さと荒波に挑む冬の漁、時化との闘いが生む海の現実


まちロケ:漁をやってて大変なことはありますか?冬とかとても寒そうですけど。


冬でも基本的に軍手一枚。滴る日本海の海水が凍てつき手の感覚はなくなるという。
冬でも基本的に軍手一枚。滴る日本海の海水が凍てつき手の感覚はなくなるという。

徳田:冬は寒さと時化でしょうか。寒さで手の感覚がなくなりますね。寒い日でも基本的にカニとか網から外したりするので軍手一枚なんです。


でも、何だかんだ言っても次第に慣れる感じがしますね。となるとやはり時化で、どんなに波が荒れていても漁に出られると判断すれば出ます。


あと、沖で急に風が強まって時化る時があるんです。そういう時は急いで網だけ船に上げて魚を外さずに陸に逃げてきます。


脇山さん(以下、敬称略):ホント、沖で風吹いたら半端ないですよ。陸から見える所で2~3メートルぐらいだと目で見ると弧を描くような感じですけど、沖だと大地が浮き上がるような感じがするんです。気持ち悪いよね、あれは。


徳田:そう、なんか気持ち悪い波の時ってありますね。酔いそうな波みたいな。


魚を傷つけないよう丁寧にかつ迅速に刺網から外す徳田さん。
魚を傷つけないよう丁寧にかつ迅速に刺網から外す徳田さん。

若手漁師の育成と収益確保を両立させる、地域密着型の新たな挑戦


まちロケ:漁も大変ですが、船に乗らない時も色んな活動をされていますよね。地域おこし協力隊卒業後も見据えたマネタイズを生むことも色々考えていると伺いましたが、その辺のお話を聞かせてください。


春の四重奏でズワイガニのカニ汁を売る様子。左から小暮さん(昭和女子大)、徳田さん、玉生さん、近藤さん(昭和女子大)、脇山さん。
春の四重奏でズワイガニのカニ汁を売る様子。左から小暮さん(昭和女子大)、徳田さん、玉生さん、近藤さん(昭和女子大)、脇山さん。

徳田:地域おこし協力隊の三年の任期が満了し、卒隊後も漁師は続けたいと思っています。あと、春の四重奏のように近隣のイベントに自分たちが獲った海の幸やそれらを使った料理を作って持って行って直接消費者と接して届けるのもいいですよね。


もちろん主たるは漁師をやっていたいので、空き時間を利用してできるような事としてやっていきたいです。例えば海が時化て漁に行けない日とか何をやるのかとか。漁師としてだけでは食べて行くのは難しいですのでマネタイズを生んで行くことも考えて行かないと。


脇山:そう、徳田君だけでなく玉生君もいますので、二人を育てていくには、私も必死になって泊漁協と言うネームバリューを使って、色んなところと折衝・交渉する


例えば、関西電力の敷地内である黒部峡谷鉄道の宇奈月駅とか。それら販売現場を徳田君たちは見てきています。もちろん売れるところもあればそうでないところもあるわけで。その土地に合わない食材もあるというのも経験してきているんです。


泊漁協開発商品の「さけの燻製」を手にする徳田さん。
泊漁協開発商品の「さけの燻製」を手にする徳田さん。

徳田:そう。あと出店料と売上を考えると採算が取れない所もありますし。


季節や客層に合わせた商品戦略で、持続可能な漁協経営と世代継承を実現する


まちロケ:お客さんがどんなものを求めているかっていうことが重要なんでしょうか。


脇山:そう。徳田君らにも言うのですが、そのイベント会場に来る年齢層を見なさいと。要するに年齢層が高くなればなるほど和の食材が好まれ、ダンスパーティーの会場のように若い方たちが多く集まる場所なら洋食とかオシャレなものが選ばれます。


徳田:観光客であれば例えば、牡蠣を使ったならアヒージョよりもシンプルな蒸し牡蠣とか。


協力隊の玉生(たもう)さんが考案し作成した泊漁協特製の「牡蠣のアヒージョ」。
協力隊の玉生(たもう)さんが考案し作成した泊漁協特製の「牡蠣のアヒージョ」。

脇山:あと、気候にもよりますね。今年の春の四重奏はまだ寒い時期だったのでカニ汁がよく売れたんですよ。


今後は地域の農家さんとコラボして農家さんの食材とカニだったり、特別栽培米と干物とか組み合わせて販売する。夏は牡蠣やサザエと言ったバーベキュー向けにもなる貝類、冬はカレイなどの干物というように季節にあった食材×農産物とセットでお客さんに食べてもらうと喜ばれるんじゃないかと。


とにかく僕は持続可能な漁協づくりを目指して行きたいんですよ。僕が引退後、徳田君たちが世代を引き継いだ時に、漁協が瀕死の状態だと可愛そうじゃないですか。


だから今、彼らには大変な思いをさせるかもしれないけれど、彼らが売った商品の売り上げのいくらかを漁協に回してもらえれば漁協が持続可能な地域団体になる。


そうすると、漁協の利益になれば、漁協が彼らに給料を払ってくれる。頑張れば頑張るほど後で大きな金額が還ってくる仕組みを作る。


今の状態だと、どこの漁協もボランティアみたいな金額しか出ない。理事になってくれる人もいない。


なので何とかしたい思いが僕の中にあって、漁協で作って行く6次産業化商品を世に出して行きたい。それが売れて漁協が潤えば、理事に回せるお金も増えて来る。そういう流れを作りたいな、と。


でも、食べるものに評判がつくまでには時間がかかる。一度は食べてみようかという流れにはなるけれども、そうではなくて、この商品を食べてみたいという風に思わせるには時間がかかったり、赤字覚悟である程度配布をしたりしていかないといけない。


泊漁協が力を入れた漁協開発商品「もぞこ」は徳田さんの似顔絵が載ったユニークな商品。
泊漁協が力を入れた漁協開発商品「もぞこ」は徳田さんの似顔絵が載ったユニークな商品。

移住には明確な目的と覚悟を、理想の暮らし方を見据えた選択のすすめ


まちロケ:そうですよね。それにしても皆さんとても頑張っていますよね!これからも朝日町には協力隊も含めた移住者が増えて来ると思います。そんな彼らに何かアドバイスいただけるとしたら何でしょうか?


徳田:地域によっては協力隊の方の中にはあんまり目的なく着任される方がいらっしゃると思います。その辺って意味あるのかなと。


地域でそんな方たちの活動が自分に合うのかなぁと疑問に思います。ちゃんと地域に定住するために目的というか、しっかりとした思いを持って来てほしいですね。そうでないと意味がないと思うので。今後人口減が進んで行く中で地域の人たちは移住者に対する思いも大きくなってくると思うんですよね。


脇山:僕もスローライフの人たちを見てきたけれども、自分の生活のどこに意義を見出すかですよね。


高収入を選ぶのかとか、行きたい会社とか仕事を選ぶかで決まってくるんじゃないかと。だから幸せというのがどこにあるのかという着地点を考えた時のことを考えて欲しい。


毎日上司に怒られることのない自分でのんびりと好きなように稼げる環境で生活していきたいのであれば今の徳田君のようなスタイルを選択すればいい。


もっと上を目指して行くのであれば、自分でグループを作り、代表あるいは社長になって部下を持ち、指示していける会社にしなければならない。


あとは地域の会社員になっていくとか。でも徳田君は会社員になりたくないというのが前提で来ているんじゃないかと思うんだけど。


徳田:・・・(笑)。


まちロケ:それは私も同じです!!


全員:

結び-Ending-

取材時の徳田さんは、地域おこし協力隊として漁業に携わりながら、将来の暮らし方や漁協の在り方について真剣に語ってくださいました。


あれから任期を満了し、自分の船を持つという一つの大きな夢を叶えられたことは、まさにその言葉どおりの実践の結果だと思います。


今では漁獲した海産物を自ら加工し、ECサイトで販売したり、イベントに出展して消費者と直接つながる場をつくるなど、漁業の枠を超えた多角的な取り組みを展開中です。


その姿は、地域資源を最大限に活かしながら新しい価値を生み出す、次世代型の漁師像そのもの。漁業という一次産業は厳しい現実もありますが、そこに創意工夫と行動力を掛け合わせることで、持続可能な形に変えていけることを改めて感じました。


今後も徳田さんが築く“海と人をつなぐ物語”が、朝日町の豊かさと活力をさらに広げていくことを願っています。

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■企画・著作
中野 隆行(Nakano Takayuki)
地域での写真活動を機に
地域の人たちの価値観に触れたことがきっかけで
このメディアを立ち上げる

【取材データ】
2019.4.7~10.23 富山県下新川郡朝日町
取材にご協力いただきました関係各諸機関のほか、関係各位に厚くお礼申し上げます。

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