暮らす旅を通して見えてきたもの
~さまざまな地域おこしのカタチ~
福島県二本松市
今回は橋本 花梨さんに
お話を伺いました
橋本 花梨(はしもと かりん)さん:チーズケーキ工房・カフェ風花&もりのこうぼう クリエイティブディレクター
福島県二本松市在住。沖縄県・徳島県・石川県を巡る「暮らす旅」を経て、地域おこしについて学ぶ。石川県在住時は移住コーディネーターを務める。現在は実家である「チーズケーキ工房・カフェ風花&もりのこうぼう」から二本松を盛り上げようと日々奮闘中。
チーズケーキ工房・カフェ風花&もりのこうぼう
Instagram>https://www.instagram.com/fuka_morikobo/
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今回取材させていただいたのは、福島県二本松市に住む橋本 花梨(はしもと かりん>以下、花梨さん)さん。現在は地元の二本松市で、チーズケーキ工房・カフェ風花&もりのこうぼうにてクリエイティブディレクターを務める傍ら、地域活動にも積極的に参画。
そんな彼女は数年前、各地を暮らしながら旅をする「暮らす旅」をされていました。いろいろな地域で暮らすことで見えてきた地域に対する想いをお届け。
花梨さんが考えている現在のまちづくり・地域おこしに対する考えとは?
地域おこしにおいて理想の形は、地域資源を使うことで地域全体にお金が行き渡ること
花梨さんが理想とするまちづくりや地域おこしとはどのようなものなのだろうか。
「基本的には、自分のお店であるチーズケーキ工房・カフェ風花&もりのこうぼうを通して、まちを盛り上げたいという気持ちで活動しています。
地域おこしと一口に言ってもさまざまだと思っています。私の考え方としては、ある程度収益化することが必要だということです。
ボランティアでのやり方はどこの地域にもあるんですが、お金が回らないと結局疲弊して続かない。理想としては、モノを作っている生産者までお金が行き届くことだと思っています」(花梨さん)
やはりベーシックインカムは大事である。せっかく移住してきても、暮らしていけなかったら地域おこしは続かないだろう。
ただ理想と現実との兼ね合いは難しい。無理のない範囲で理想に近づいていく作業が必要ではないだろうか。
「理想ではすべて地域の資源を使用したいところですが、現実的にはオペレーションを考えると難しかったり、利益が出なかったりするのでバランスを取りつつやっています。
その甲斐あってここ2年ほどは、地域資源を商品に活かすことができるようになりました」(花梨さん)
今までは、お店で花梨さんだけが取り組んでいたのが、最近では同じ思いに共感してくれるスタッフに恵まれるようになった。
そんなスタッフを巻き込みながらチャレンジしていくことで、活動はますます加速し、持続可能な形になっていくだろう。
地元をモチーフにした物語を作り、読んでもらうことでその地域の魅力を知ってもらいたい
最近の取り組みとしては、二本松市の安達太良(あだたら)という地域をモチーフにした物語を作っていることだ。それを軸にしてお店のブランド展開をすることが目標である。
「物語をきっかけにもっと地域のことを知ってもらえたり、お店の商品を合わせて楽しんでもらえるような仕組みを作っていく予定です」(花梨さん)
常に先陣を切って面白いことをする人でありたいと話す花梨さん。彼女の作り出す物語とは、一体どのような内容になっているのだろうか。
「歴史や風土を織り交ぜたフィクションに加え、私の両親がお店を始めた話だったり、私が全国いろいろな地域を巡ってきた話も全てミックスして、人生の旅の話を絵本として作っています。
また、この地域が酪農地帯なので、生産者や関係する登場人物が出てきて、安達太良の風土が伝わる作風にしようと思っていて。人生に悩んだ人や、まちづくりに携わっている人が何かを感じることができる物語になったらと思っています」(花梨さん)
大切にしているのは「ここに来たら安達太良のことがよく分かる」と言われるような地域の玄関となるお店を目指す姿。いわゆる地域と地域の外をつなぐパイプ役である。製作中の物語も、きっとそのきっかけになるに違いない。
いろいろな世界を知るために「暮らす旅」に出て、まちを良くしたいという自分の気持ちを知る
さまざまな地域を暮らしながら巡る「暮らす旅」をされていた花梨さん。旅のきっかけは一体何だったのか。
「東日本大震災だったんです。大学1年の終わり頃でした。実家のお店に観光客が来ない、ちょっと厳しいから戻って手伝ってと言われて。
そこから、がむしゃらにいろいろ取り組んではいたのですが、いまいち成果に結びつかないことが多くて。孤独感と地域特有の日常にモヤモヤ感がだんだん強くなってきたんですね。
3年ほど経ったころ、観光や地域づくりなどの勉強をしたら、もっと面白いことがお店で出来るのではないかと思い、地域の外に出て事例を勉強するために旅に出ることにしたんです」(花梨さん)
そこで思いついたのはお金をかけずに旅をしながら働くことだった。
「最初に行ったのは沖縄県です。その理由は、とりあえず苦手な寒いところから離れることと、遠方に行きたいと思ったからです。
その時は、まず観光の勉強がしたかったので、当時本を読んで知っていた大手の観光リゾートホテルに身を置くことにしました」(花梨さん)
沖縄にて
「島での生活を堪能する中で、リゾートホテルや小さいゲストハウスで仕事をしてみて思ったのは、私が学びたかったことは観光ではなく、地域づくりや町おこしに近いなと気づいたんです」(花梨さん)
そして一度実家に戻り、SNSで調べていたところ、株式会社あわえの地域おこし人材スクールの募集に出会う。そこを通じて3ヶ月ほど徳島県に滞在。
「徳島では、地域おこしの人材を育成するプログラムで、地域の食材を使ったレストランのメニューの開発を行いました。また、AdobeのIllustratorやPhotoshop、カメラの使い方やプレゼン・企画の作り方などを学びました。
そこで「地域おこしがしたい」という気持ちを持った各地の人たちとのつながりも増えました」(花梨さん)
暮らす旅を通して、地域にはそれぞれ違った魅力があることに気づかされた
徳島での滞在終了後、今後について考えていた時に、とあるご縁があったそうだ。 「地元の二本松市に株式会社ぶなの森の代表の方が仕事で来ていたんです。
その時に、たまたまうちの両親と会って『娘は今、地域おこしの人材スクールに通っているんです』という話をしたら、『では石川県で働きませんか?』と声を掛けていただいたんです。
当時は石川県については何もわからない状況でしたが、『一度来てみてはいかがですか』と言われたので行ってみました。
案内してもらっているうちに『石川県って最高だな』という気持ちになりました」(花梨さん)
花梨さんにとっては、加賀市と能登の地域で働く選択肢があったが、温泉のある観光地の加賀市が、故郷の二本松市といろいろな条件も近いため、加賀市で働くことを決めた。
「加賀市に移住してからは、移住コーディネーターとして働き始めました。加賀市には地域に関わる面白い人たちが沢山いて、とても楽しい毎日を過ごしました。
結果として加賀市には、体調面や家業の関係で、半年ほどしか滞在しませんでしたが、加賀で暮らすのが本当に楽しくて戻りたくない気持ちも芽生えましたね」(花梨さん)
地元へ戻ってから、現在4年程経過。改めて「暮らす旅」について振り返る。
「旅に出る前は、都市から離れた地域はどこも同じだと思っていたのが、暮らす旅を通して各地域には良い特色があって、それぞれ違うということを学びました。
地元の福島県の良さって何だろうと思っていたのが、一度離れて得た客観的視点によって、福島県の『らしさ』には風土や県民性があって、他とは違う良さがあるのだなと思いました。
旅を通して得たものは、面白い挑戦をしている友達にたくさん出会えたことですね。SNSのおかげで今でもつながってお互い励まし合えるので、一人じゃないと思えるのが大きいですね」(花梨さん)
自分自身が楽しんで地域活動をすることで、やがてそれが大きなムーブメントとなっていく
花梨さんがされていた「暮らす旅」のように、多拠点で仕事ができる多拠点居住サービスというものがある。移住コーディネーターとしても働いていた花梨さんだが「移住」に関してはどのように考えていたのだろうか。
「移住人口を増やすことだけに注力するのは違う気がしています。関係人口が増えて楽しければそれでいいのではないかと。
これから人口の絶対数が減っていくから、"ヒト"というパイを奪い合うよりは、面白い人と出会い、"コト"をおこして楽しく生きることが重要だと思っています。
私が加賀市にいた頃、行政の移住担当の方が"人口の数ではなく幸福度で地域おこしは決まる"と言っていたので、その言葉に影響された部分はありますね。
そんな考え方や価値観が加賀市には根付き始めているおかげで、よそ者を受け入れる風土が整っていると思うので、私の活動にもそこを取り入れることができればと思っています」(花梨さん)
二本松市に地域で共創できる仲間をもっと増やすことで、加賀市のような形にしたいと話す花梨さん。それには試行錯誤しながら時間をかけていくことが必要だという。
「加賀市で見てきたプレーヤーたちは、自分たちの活動にしっかりと当事者意識を持っており、そこから信頼を得ているイメージが強いです。
私としても、まず自分自身が地域おこしとして考えている主軸をしっかりと持ちながら、
地域とのリレーションシップを大事にしたいと思っています」(花梨さん)
地域おこしにおいて、自分の活動を楽しむことが最も大事なことであると思う。地域の幸せづくりや楽しい生活を追求することの副産物が、地域課題の解決の糸口になるはずである。
高村光太郎の詩集から紐解く安達太良山の良さを、二本松市の魅力の一つとしてプロモーションすること
二本松市の魅力を改めて振り返ってもらうと、最もおすすめしたいものは「ほんとの空」だという。
「『智恵子抄』という高村光太郎の詩集の中に、妻の智恵子が『安達太良山の山の上に毎日出ている青い空がほんとの空だと言った』という一節があります。それもあって、二本松市は「ほんとの空」を売りにしている部分があって。
もちろんお酒も食べ物も美味しいし、酪農の高原地帯も良い部分ではあるのですが、やっぱり安達太良山とその上に出ている空は、特別感があります」(花梨さん)
安達太良山と高原がセットになった、草原と空の風景がとても癒されるものだと思っているので、それを見てゆっくりして欲しいなと思いますね」(花梨さん)
地域それぞれに魅力があるのだと話す花梨さん。いろいろな地域を巡ってきたからこそ、改めて地元の良さにも気づけたのだろう。
「旅行の選択肢であったり、誰かが人生の中で訪れた時に、二本松市との出会いが面白い体験であって欲しいと願っています。その旅が少しでも楽しくなるようなお手伝いがしたいと思っています」(花梨さん)
結び-Ending-
地元の地域活動に積極的に関わり続ける花梨さん。一旦地域を飛び出して「暮らす旅」を経験したからこそ、今の活動に深みが出ているのだなと思います。
花梨さんの言葉からは、地元を愛する気持ちが溢れ出ていました。今後の二本松市の動きや、彼女の活動にも注目していきたいです。
■企画・著作 町おこしロケーションタイムス編集部
【取材データ】
2021.08.03 オンライン
【監修・取材協力・資料提供】
・チーズケーキ工房・カフェ風花&もりのこうぼう
橋本 花梨 様
取材にご協力いただきました関係各諸機関のほか、関係各位に厚く御礼申し上げます。