高校を卒業し、地域を離れて大学に進学した後、卒業生として学校との関わりを続けることは中々難しい。
そんな中、高校を卒業後も「地域」と関わりを続ける大正大学 地域創生学部の平野さん(三重県立飯南高等学校卒業生)と、同校職員でありながら、地域と生徒をつなぐ活動を続ける五十子先生の2人と弊社代表が、学校と地域との関わり方についてお届け。若い世代が抱く地域の「未来」について語りました。
学校側も生徒に寄り添い伴走する姿が、地域を巻き込んで生徒が卒業しても学校と関わり続ける源
中野(モデレーター:以下、省略):お二人は飯南高校の先生と卒業生という関係性ですが、平野さんのように卒業してからも学校と関わってくれる担い手はどのくらいいらっしゃるのでしょうか?
中野 隆行(なかの たかゆき)町おこしロケーションタイムス ファウンダー/愛媛県松山市出身。地域での写真活動を機に出会った地域の人たちの素晴らしい価値観に触れたことがきっかけで、自身の好きな旅をテーマに、全国の地域で暮らす人たちの何気ない姿を価値として発信する地域メディア「町おこしロケーションタイムス」を立ち上げる。
五十子さん(以下、敬称略):平野のように卒業後も学校と積極的に関わってくれる卒業生は珍しいですね。
平野は高校時代に取り組んだ学習テーマ「空き家片付けプロジェクト」を進学後も学び続け、深掘りしています。そのような姿はとても頼もしく、現役の高校生に良い影響を与えるような仕組みやつながりが作れないかと考えています。
五十子 幸成(いらご こうせい)さん:三重県立飯南高等学校 應援團Circle顧問/出身は三重県伊勢市。生徒がやりたいことができる環境をサポートしたいと生徒の声から應援團circleの取り組みを始めた。野球部の顧問も務めている。
平野さん(以下、敬称略):私としても自分だけではなく他の卒業生も、地域のために何かしたいという地域愛があると思っております。
高校でせっかく良い関係性を築けていても、卒業して関わりが途切れてしまうと次につながらないのでもったいない気がするのです。同じような思いを持っている卒業生とつながりながら、高校の関係者と連携し、実りあるリレーションを築いていきたいと思っています。
平野 彩音(ひらの あやね)さん:大正大学 地域創生学部2年/三重県松阪市飯高町出身。三重県立飯南高等学校在学中に空き家片付けプロジェクトなどに取り組み、卒業後も地域と関わりを続けて空き家問題などの地域課題に取り組んでいる。最近はwebでの情報発信も開始。
中野:平野さんのように地域愛をもって関係性を続けているというのは素敵なことです。高校を卒業するとどうしても関係性は薄くなってしまうケースをよく耳にします。
五十子:そうですよね。学校という場所に学びや気づきに救われたり成長させてもらった経験が僕自身も学生時代にあることが、この仕事を選ぶきっかけにもなっているので、飯南高校の生徒に対しても何かサポートができないかなと思うのです。
中野:教育の現場というと、どうしても「教える」という見え方をしてしまう場合が多くあるのですが、生徒に寄り添い伴走する姿がとても素敵だなと思います。
平野:私が地域に出て活動する中でも五十子先生を始め、学校の先生方にサポートをいただきました。高校の授業や應援團を通して、学校も地域も巻き込んで活動したことが楽しくて、今でも活動のモチベーションになっています。
身近にあった「空き家問題」という地域課題が、課題に取り組む生徒の意識を変えて地域と学校のつながりを深めていく
中野:高校の時の地域での活動というところで、平野さんが取り組まれた 空き家片付けプロジェクトについてのお話を伺いました。地域の課題解決という視点よりも地域の幸せづくりに貢献しているのではないかとも思います。その活動のきっかけについてお話いただけますか?
平野:地域活動に取り組むきっかけは、当たり前のことに目を向ける視点を持ったことです。その中で真っ先に目の前に見えてきたのが、周辺の空き家問題でした。
授業の一環である「いいなんゼミ」の活動で、市役所の方や移住者の方の話を聞きながら、空き家についての課題を調べていきました。
すると、松阪市の「空き家バンク」に登録することで空き家の利活用につながると知り、まずは空き家を貸し出せる状態にするために片付けをしようと思ったのです。その活動は今でも、五十子先生が率いる「應援團(おうえんだん)circle」に引き継いでいただいています。
五十子:平野の取り組みによって、生徒たちの空き家への理解も深まり、空き家の片付けを「應援團circle」という部活で活動を引き継いでいます。
活動を通して生徒たちも、「地域課題の解決に何かできることがあるんだ」という実感を持てています。しかも、「空き家を片付けるだけで良いのかな?自分たちが空き家を有効活用することはできないかな?」と、課題に向き合う生徒たちの意識が変わってきているのです。
「全国高校生マイプロジェクトアワード」でも、高校生が空き家を活用したカフェをするというテーマで出場しました。
中野:生徒たちの意識に変化が出てくるのは良い動きですね。應援團やいいなんゼミなど、飯南高校全体として、地域活動に関わる仕組みづくりを積極的に取り組まれていると感じます。五十子先生はどのように関わっているのでしょうか。
五十子:應援團は、「学校も地域も応援して元気に」という志のもと活動している部活動です。僕と、もう1人の顧問の先生と一緒に、地域と生徒をつなぐ活動のサポートをしています。
中野:そのひとつが、木の端材を活用した「木の手帳」*1ですね。僕も先日購入させていただいたのですが、木の質感を感じていてとても手触りが良いですね。友達との間でやりとりしている手書きの「交換ノート」がアイデアとなったというお話が面白いですね。
それに、地元企業に高校生が外部人材として関わり、年齢や立場の垣根を超えて意見を出し合い、ひとつの商品を作るというのは、地域の当事者として課題にも向き合って根付いていく取り組みだと思います。
五十子:そうなんです。地域にはどのような仕事があり、どのような人が活躍しているのかも知らず、「なにもない」と感じている生徒が大半でした。
しかし、さまざまな工夫をしながらフィールドワークを行うことで生徒と地域との距離が縮まり、地域で輝く大人の方と触れ合うことで、高校生の自分たちでも何かできるのではないかと考えて行動する、平野のような生徒が現れました。そんな活動が徐々に広がり、地域の方と信頼関係ができるようになってきています。
中でも、木の手帳は反響がとても大きくって。企業も生徒も、こんなことができるのかとお互いに良い気づきになった他、学校も地域も一緒になり、若者が活躍する場づくりや人が根付く仕組みを創りたいというように意識が変わってきています。
生徒には地域の良さを知り、魅力のある仕事ができるのだと感じてほしいです。そして、平野のような卒業生が、地域で根付いていけるよう道すじを作る形を提供してくれるといいですね。そういう取り組みしやすい環境づくりにとても必要性を感じています。
中野:そうですか。全国的にも珍しい取り組みだと思うのですが、飯南高校独自のキャリア教育が地域活動の一環でもあるのかと思います。
五十子:そうですね。飯南高校の校長が主体となって、地域と他の中学校・高校連携しながら教育する流れができています。地域との対話などから学びを深め、インターンシップという形で地域社会に触れます。そして最終的には、研究テーマを決めて発表という形まで3年間かけて仕上げていくのです。
客観的な視点から当たり前の光景に価値を見い出し、発信することで皆が地域の良さを実感する
中野:なるほど。素敵な取り組みですよね。飯南町はどちらかというと中山間地域に当たり、学校のすぐそばにお茶畑が広がる景色はとても新鮮で素敵なんですが、市内の中心市街地との関わりについて取り組まれていることはありますか?
平野:地元にある道の駅でのイベントに飯南高校も出店してTシャツや木の手帳を販売をしました。そういったイベントに市街地の高校にも来てもらって交流やコラボができたら、高校間の連携もできて面白いと思います。
中野:なるほど。面白そうですね。人の流れが生まれて、お互いの良いところに気づくきっかけにもなるかと思います。地域の当たり前としてある光景って、実は他から見ると新鮮で価値があることなので、発信していくことは大事なことですよね。
平野:私も飯高の景色が当たり前だったので、客観的に見てみたいと思い、東京の大学に進学しました。
平野:東京に出て思ったことは、やはり、当たり前は当たり前ではないということ。東京にいて地域のためにできることは限られていますが、都市部と地域を情報発信という形でつなぐことはできると可能性を感じています。
五十子:一度地域から離れた平野や、移住者のように客観的な視点で話をしてもらうことで、教員の私たちを含め、地域の人たちは改めて地域の良さに気づくことがありますね。
生徒たちにはいろんな経験をして欲しいと思っています。多様な価値観や視点を持った人と生徒とをつなげる場所も創っていきたいですね。
学校としても、平野のような意欲的に活動している卒業生に講演してもらう機会を設けてはどうかという意見も出てきています。
高校を卒業しても学校や地域と関わり続けたい想いを育てる機会を増やすことが、高校の魅力化にもつながる
中野:なるほど。高校を卒業して地域を離れてしまっても、地域や高校と関わっていける仕組みを作りたいという取り組みの事例 *2が他の地域にもあるんですよね。平野さんにとっても、共感できる部分は多いのではないかと思うのですがいかがですか?
*2 高校を卒業後も母校を訪ずれ、在校生に向けたワークショップを開くといった取り組みもある。
参考記事>トピック:津和野高校を卒業しても地域と関われる関係人口の窓口を
https://www.chiokotimes.com/tsuwanosoup
平野:私も何かできないかなと考えてました。高校を卒業しても学校だけではなく、授業などでつながりを持った地域や企業と関わり続けたいと思う人は、私以外にもたくさんいると思うのです。
平野:卒業してつながりが途切れてしまうと、自分たちが大切にしてきた想いまで消えてしまうようで。思いを伝えるための機会も必要です。
中野:そうですよね。今後そのような場が増えていったらいいなと思います。
地域に飛び込む勇気が結果として「地域外」の目線で、地域の魅力を掘り起こし、地域の人にも刺激を与えていく
中野:今は都市部の一極集中から地域へ関心が向いてきているので、地域も移住する人にとっても大きなチャンスだと思います。その中で、平野さんも地元の地域に移住された人たちともつながりがあると伺ったのですが、その方たちとはどのように関わっていらっしゃるんでしょうか?
平野:この地域で、どんな活動がしていきたいのかなどを情報交換をしながら、良い関係を築いています。また、最近では高校の授業にも関わっていただいていることもあり、今後もさらに高校と地域との交流が深まるんじゃないかなと思います。
中野:なるほど。移住された方もそうですが、平野さんも地域活動で色んな地域のお話を聞いて情報発信されているように、地域に飛び込んでくれるって大事なことですよね。勇気があるというか。どうしても遠慮しがちなところを、中立的な立場で地域を捉えてくれる存在は地域にとっても大きな存在ではないでしょうか。
五十子:僕らのように、この土地で暮らして見えている視点や経験は大きいのですが、住んでいてもまちの魅力になかなか気づけないところがあって。
その点、この町に魅力を感じて、地域外からやってきた人には、地域を客観視できるので、そういうところからまちの良さを教えてもらったりするんですね。それが大きな刺激になっています。
高校に携わる人全てが、地域と連携してワクワクできて学びのある場所づくりが、クリエイティブな地域をデザインすることにつながる
中野:最後にお2人の今後の目標や活動などについてお聞かせいただけますか?
五十子:飯南高校に赴任してきて8年目になります。地域も学校も連携していくことで、お互いの良さに気づいて良い関係ができてきたなと、そう実感が持てるようになりました。
今後は、もっと高校という垣根を超えて地域の人たちと伴走しながら、交流を重ねる仕組みや教育環境を創りあげる形をサポートをしていきたいです。そして、ワクワクするような楽しく学べる場所づくりをしていきたいなと強く思っています。
平野:私の地元の飯高町は、一度都市部に出てから戻ってくる方が多いと感じております。帰ってきたいと思う人のために、高校を卒業して社会に出ても、高校とつながりができる環境や、自分のやりたいことを見つけて実現できるような場づくりをしていきたいです。
私も含めて高校に携わる全ての人が、地域の方や地域の企業と一緒に、地域で幸せに暮らせるような取り組みをしていけたら私としても幸せなことです。
編集後記
まちづくりはひとづくりだと言われることもありますが、地域と学校が連携して地域全体で行う教育の在り方は、とても素敵な仕組みだなと感じます。
高校生という様々な感情が動く多感な時期から地域での豊富な経験を培うことは、きっと地域を想う気持ちにつながるはず。
そして、地域を思いながら当事者として活動を続ける平野さんや五十子先生のような存在は「地域」に飛び込みたい人の支えとなる、大きな魅力のひとつではないでしょうか。
お二人の今後の活動に注目しつつ応援していきたいです。
Writer:がのちゃん
元地域おこし協力隊。現在は地域コミュニティの活性化や起業者育成、サテライトオフィス誘致などの事業に携わっています。好奇心旺盛な平和主義者です。
【取材データ】
2021.03.22 オンライン
【監修・取材協力】
・三重県立飯南高等学校
【資料提供】
・五十子 幸成様
取材にご協力いただきました関係各諸機関のほか、関係各位に厚く御礼申し上げます。