
-まちの取組-
今回は二つのコミュニティ財団
「HATA!」と
「えひめ西条つながり基金」に
お話を伺いました

地方に息づく未来をつくる。「挑戦」と「協働」が紡ぐ地域活性化のリアル
高知県幡多地域×愛媛県西条市
高知県西南部の幡多地域で活動する「みんなでつくるまちづくり財団HATA!」は、2025年5月8日付で県より公益財団法人の認定を受け、「公益財団法人HATA」へと移行しました。これにより、寄附金が税額控除の対象となり、支援の輪をさらに広げる体制が整ったことになります。
認定を受ける2年前に、実は財団関係者や支援者に座談会としてお話を伺ったことがあり、当事者の方々や地域の関係者の広い範囲に伝わればと思い、記事を執筆させていただきました。
この中で感じたことは地域を活性化するカギは、挑戦する人を増やし、協働の輪を広げることにあります。この座談会では、愛媛西条つながり基金の安形さんと、幡多地域でコミュニティ財団「HATA!」を立ち上げる今村さんが、それぞれの経験や思いを語りました。
地域課題への挑戦を続ける中で、地元住民の信頼を得る大切さや、現場の苦労、そして人材不足といったリアルな課題が浮き彫りになりました。一方で、地域の垣根を越えた連携の可能性や、新たな仕組みをつくる希望も見えてきます。
改めて当時をふりかえってみて財団設立へのプロセスの重要キーワードをインプットしながら読んでいただき、「地方で生きる覚悟」を胸に進む二人の言葉から、地域づくりに関わる全ての人に共感とヒントを届けることができれば幸いです。
※記事本文座談会は2023年8月のものです。
人口減少に伴う課題に挑む愛媛西条つながり基金の市民主導の挑戦とその意義
まちロケ:今日はよろしくお願いします。まずは安形さんと今村さん、自己紹介をしていただければと考えております。まずは安形さん、お願いしてもよろしいでしょうか?
安形:安形と申します。まず最近の状況についてお話しさせてもらいます。我々が愛媛西条つながり基金を立ち上げた背景について少しお話しします。
まず、当財団について、どんなことができるのか、そして実績や展望についてお話しいたします。まず、私たちがこの活動を始めた背景として、人口減少を発端とする公共施設の老朽化などにより、行政の仕事が非常に困難になっている状況があります。

そうした中で、私たち市民が自分たちの力でまちをより住みやすい場所にしていく必要性を感じ、この財団を立ち上げました。
四国で初めてのコミュニティ財団として、2022年4月に401名から428万円の寄付をもとに設立しました。その後、2022年12月に公益法人として認定を受け、現在は公益財団法人として活動しています。
公益財団法人として活動する意義は、寄付者に安心感を提供するための厳しいルールに基づいて運営されている点にあります。支援先の審査や資金の使用用途の確認、報告などの透明性を保つことで、寄付者に信頼してもらえる体制を整えています。

大自然と高齢化が交差する幡多地域を活性化するHATA!の挑戦と支援活動
まちロケ:ありがとうございます。私も西条市について接することが多いのですが、100ほどの市民団体が活動していると聞いています。非常に多くの方が「何かをしたい」という熱意を持って活動していると感じています。
それでは今村さん、これから幡多地域で取り組まれることについてご紹介いただければと思います。よろしくお願いいたします。
今村:今村です。「HATA!」について紹介します。幡多地域では現在、コアメンバー5人ほどで活動しています。宿毛市のパン工場で働く人や地域で音楽活動をされている方、私たちが運営している林邸のメンバーなどが中心となっています。

幡多地域は高知県の西部に位置し、東京からは最も遠い地域とも言われています。しかし、森林率84%で日本一、海の魚種も日本一、さらには国立公園があるなど大自然が魅力の場所です。
一方で、6市町村を含むこの地域の面積は約1500km²にもかかわらず人口は8万人弱。高齢化率は41%を超えています。
地域では様々な課題が顕在化しています。たとえば、ある市では花火大会が規模縮小したり、スーパーや居酒屋が閉店してしまった行政区もあります。車で20分以上かけて隣町に行かないと買い物ができないという状況です。
私たち「HATA!」は、この地域に新たな活力を生み出すことを目指しています。具体的には、助成金を創設して地域活動や事業を支援し地域課題を解決したり、地域のNPOや活動家を広く知ってもらうための情報発信を行ったり、地域の人々と外部の支援者をマッチングしたりする取り組みを進めています。

地域に寄り添い未来を描くHATA!の活動と住民への理解促進の取り組み
まちロケ:ありがとうございます。今村さんは現在「HATA!」の立ち上げ発起人の一人という位置付けで事業全体を成功させるために事業作りに注力されています。
その中で地域住民への説明は丁寧に話すことが重要ですが、今村さんは以前、林邸で説明会を開催されていましたよね。その際に感じた難しさや課題はどのような点でしたか?
今村:コミュニティ財団の仕組みを伝えるのは難しいので、「みんなで幡多の未来をワクワクしながら作ろう」というメッセージを前面に出しています。
地域の人たちも「新しいことが起きそうだ」と前向きな反応をしてくれる一方で、「本当に大丈夫なの?」といった不安の声も少なからずあり、簡単でわかりやすい説明をもっと考えなければいけないと感じています。
ですが、少しずつ理解が広がり、応援してくれる人たちが増えているのは間違いないです。

まちロケ:ありがとうございます。地域住民一人ひとりに納得してもらうまで説明し続けるというのは非常に大変なことだと思います。
財団設立を経て見えた課題と取り組みの優先順位の変化
まちロケ:では安形さんに伺いたいのですが、財団設立前と設立後では、課題や取り組みに対する認識がどのように変化しましたか?
安形:設立前は、正直言って「何でもできる」感覚で、不可能はないと考えていました。しかし、実際に動いてみると、できることとできないことが明確に分かってきました。
財団として取り組むべき課題については変化を感じます。設立当初、7つの課題をテーマに設立時助成プログラムを行いましたが、実際に活動を進めていく中で、子どもや若者、そして、助成の支援に注力したいという意識が強まりました。
一方で、水や環境に関する課題は、財団だけで解決するのは難しいと痛感しています。多様な関係者と連携しつつ、財団が果たすべき役割を担うことは可能ですが、全てを自分たちで解決することは不可能です。このように課題の切り取り方や優先順位は、活動を通じて変わってきたと感じています。

公益認定がもたらした運営の現実と計画の重要性
まちロケ:そうですか、公益認定を受けるのは非常に難しいことだと聞きますが、西条でも短期間で認定を受けられています。一般法人から公益法人に認定されたことで、その辺りの状況に変化はありましたか?ポイントとなる部分や公益認定後の運営についてもお話いただけますか?
安形:大きく変わるわけではありませんが、一般法人でも公益法人でも、結局できることには限界があります。公益財団法人に認定されるには、計画の実効性が大事でそれを実行できる体制をいかに審査側に伝えられるかが重要です。
実績も大事だという都道府県もありますが、実際に他県では公益認定までに非常に長い時間がかかっているところが多いです。私たちは岡山、長野、雲南など、他地域の資料を参考にしながら進めました。迅速に動いた方が、結果的に楽だったと思います。
認定後の運営は大変です。全国コミュニティ財団協会などの支援を受けながら進めていますが、自力だけでは無理だと感じます。例えば事業報告で「収支相償」や「遊休財産」など、公益法人特有のチェック項目をクリアする必要があり、初めての決算では苦労しました。
幡多地域を盛り上げるHATA!の現状と地域ネットワーク構築への取り組み
まちロケ:ありがとうございます。今村さんは先ほど「HATA!」の取り組みについて話していただきましたが、現在の進捗状況はいかがでしょうか?また、現地とのやり取りで感じる課題なども教えていただけますか?
今村:私は現在、高知県いの町に住んでおり、幡多地域まで行くのに1時間から3時間ほどかかります。それでも毎週のように現地に足を運び、地域のキーマンや行政、JCなどの団体とこれからメイン担当となる者と共に直接会っています。
現在は財団の立ち上げに向けて説明会を開き、地域の方々に活動を知ってもらう段階です。

「HATA!」は幡多地域の「幡多」と、旗揚げや応援の旗という意味を掛け合わせたものです。地域に活気をもたらす旗を掲げるというイメージでロゴやホームページの制作も進行中です。地域の人たちが一体となり、幡多を盛り上げていけるネットワーク作りを進めています。
移住者が築く信頼関係と地域活性化への実践的アプローチ
まちロケ:ありがとうございます。安形さんも今村さんと同様でネイティブな人ではなく、地域との接点が元々なかったわけですが、大事にしたことは何ですか?
安形:地域の前向きな人たちと仲良くすることです。私の場合、飲み会などの場で信頼関係を築きつつ、活動の実績を通じて信頼を得てきたと思います。
特に保守的な方や否定的な意見を持つ方を巻き込むためには、人間関係を深めることが大事です。その積み重ねが、活動を進める上で重要な要素だと感じています。
ただ、どこの地域でも、何か新しいことを始める際には否定的な意見が出るのが普通です。特にコミュニティ財団のように分かりにくい概念を持ち込むと、6割くらいしか伝わらない印象があります。
それでも関係を築いて寄付をいただけるようになることが重要です。人間関係を作り、信頼を得ることで、「安形がやるなら寄付してやろうか」という形に持っていくことがポイントでした。飲み会などを通じて、信頼関係を少しずつ築いていきました。

四国をつなぐ越境連携と挑戦を支える広域的な取り組みの可能性
まちロケ:地域に住んでいるからこそできることが多いと感じますね。周辺地域の住民にも安形さんの活動が伝わりやすくなったのではないでしょうか。
四国初のコミュニティ財団ということで、愛媛西条つながり基金さんと幡多地域が将来的にどのように連携できるのか気になります。今村さん、どうお考えですか?
今村:四国全体で広域の連携が可能だと思います。地理的にも近いので、例えば共同で基金を立ち上げ、外部の補助金を受けて実行団体に提供するといったことが考えられます。
また、空き家活用などのテーマで勉強会を開催することも可能でしょう。オンラインでのつながりを活用しながら、双方の状況に応じて柔軟に取り組みを進めていけると思います。
まちロケ:ありがとうございます。安形さんはいかがでしょうか?
安形:今村さんのプレゼンを聞いて、愛媛西条つながり基金というよりは、私たちの一般社団法人リズカーレとの親和性が高いと感じました。リズカーレは「挑戦」と「協働」をテーマに活動しており、チャレンジャーを生み出すという点で共通しています。
幡多地域と西条地域で越境連携(コンソーシアム)をして、例えば休眠預金を活用したプロジェクトを展開するのは現実的でわかりやすいと思います。また、空き家事業については、私たちはまだ模索中で、今村さんの知識や経験をぜひ教えていただきたいです。

幡多から広がるつながりと挑戦!仲間と築く新たな仕組みづくりへの招待
まちロケ:ありがとうございます。最後に、今村さん。地域内外の皆さんに取り組みを伝えるために、記事として発信したいと考えています。今、特に伝えたいことがありましたら、ぜひ教えていただけますか?
今村:「HATA!」がこれから始まります。幡多地域の転出者は延べ人数だと非常に多いですが、逆に言うと幡多に関わりを持った人たちが多く外に出ていることでもあります。
地域内に閉じこもらず、外の人々とつながりながら、戻って来られる環境や、オンラインで交流やサポートができる仕組みを作りたいと考えています。その仕組みづくりに一緒に取り組んでみたい方がいれば、ぜひ仲間になってほしいです。

取材から2年・・・
公益財団法人HATAが本格的に始動し、幡多地域の未来へ新たな一歩を歩み始めた中で、代表理事の竹村優香氏は、「地域やチャレンジャー、支援者の皆さまへの感謝とともに、公益法人として幡多地域の“ワクワクする未来”に向けて、より一層尽力してまいります」と話しています。
HATAはこれまで、若者のチャレンジ支援や、地域住民が主役となる「まちの作戦会議」などを展開。公益法人化により信頼性が高まり、行政・企業との連携や資金調達の面でも強化が期待されています。
今後は、助成プログラムの拡充や、地域内外をつなぐネットワークの深化を通じて、多様な主体が関わる持続可能なまちづくりのモデルを目指していくことになります。
結び-Ending-
この座談会を通じて、地域活性化の現場で奮闘する二人の情熱と課題感が鮮明に伝わりました。
安形さんが語る「覚悟を持って地域で生きる」という言葉や、今村さんの「外の人々ともつながりながら地域を支える仕組みをつくる」というビジョンには、多くの気づきと共感を覚えます。
一方で、属人的な運営や人材不足といった現場の厳しさも浮き彫りになり、地域づくりには地道な信頼構築や柔軟な発想が欠かせないと実感しました。
また、四国全体を視野に入れた連携や、挑戦する人々を支える環境づくりの可能性には大きな希望を感じます。
この座談会は、地方の未来を切り拓こうとする全ての人にとって、勇気と行動を促す内容でした。

■企画・著作
中野 隆行(Nakano Takayuki)
地域での写真活動を機に
地域の人たちの価値観に触れたことがきっかけで
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