
-まちの取組-
今回はシーバース 玲名さん
樋田 奨悟さんに
お話を伺いました

「巻き込まれた側」から、つなぐ側へ。
〜人と人が交わるentohouseから見えた、野村の「巻き込み力」〜
愛媛県西予市(野村地区)
愛媛県西予市野村町にあるゲストハウス「entohouse BAR&GUESTHOUSE(以下、entohouse)」。ここには、旅人や学生、地域で暮らす人など、さまざまな人が行き交います。
大阪大学の学生、樋田 奨悟さんも、大学の授業をきっかけに野村を訪れ、この場所に泊まり、やがて住み込みスタッフとして地域に関わるようになった一人です。
「巻き込まれた側」と話す樋田さんと、外から訪れる人と地域との間をつないできたentohouseのシーバース 玲名さん。二人の対話から見えてきたのは、人に役割を託し、酒の席を囲み、いつの間にか仲間として迎え入れていく野村の姿でした。
人は地域と出会うことで、どう変わっていくのか。そして外から来た人は、地域に何をもたらすのか。entohouseを舞台に交わされた鼎談をお届けします。
大阪で聞いた「愛媛」の話から始まった、野村とのつながり
中野(モデレーター):まず、樋田さんが野村に関わるようになったきっかけを教えてください。
樋田さん(以下、敬称略): 大阪大学人間科学部の4年生で、出身は愛媛県西条市です。大学1年生の時、授業で野村に関わっている先生から、西日本豪雨の後に大阪大学が野村で取り組んできたことや、一般社団法人「NEOのむら」の活動について聞きました。
大阪にいるのに、なぜこんなに愛媛の話を聞くんだろうと思ったのが最初でした。自分の地元も愛媛なので興味を持って、NEOのむらの学生メンバーになりました。
それまで野村には一度も来たことがなくて、メンバーになった後、年が明けてから初めて野村を訪れました。

中野:初めて野村を訪れて、どのような印象を持ちましたか?

樋田: スーパーやドラッグストアなどが歩いて行ける範囲にあって、町がコンパクトにまとまっているので、生活しやすそうだと思いました。
それ以上に印象に残ったのが、地域の皆さんの温かさです。初めて来た自分にもいろいろ話しかけてくださって、「すごくいい町だな」と思いました。
中野:その時、初めて宿泊したのがentohouseだったんですね。
樋田: はい。最初に思ったのは、「めっちゃきれいなところだな」って。木の匂いも印象に残っています。
その日は学生が何人か一緒に泊まっていて、夜になるとみんなでゆっくり話をしていました。
合宿所みたいな雰囲気もあって、こういう宿泊施設に泊まった経験がなかったので、すごく新鮮でした。
地元の西条でも、自分が生まれた頃からあるようなホテルはありますが、entohouseはできて間もない頃でした。「こんな素敵な宿が田舎にあるんだ」と思いました。
「泊まる人」から「地域で動く人」へ
中野:entohouseとの出会いから、樋田さんと野村との関係は少しずつ深まっていったようですね。
何度も野村へ足を運び、地域の活動やイベントに参加するようになった樋田さんですが、玲名さんから見ても、その姿は次第に変化していったと。
玲名さんから見て、最初の頃の樋田さんはどんな印象でしたか?
玲名さん(以下、敬称略): 最初にちゃんと話したのは、NEOのむらの関係で、宿泊する代わりに地域のお手伝いをするプログラムについて相談に来てくれた時だったと思います。

玲名:資料も丁寧に作って、「こんなイメージなんですけど」と送ってくれたので、「すごくしっかりしているな」というのが最初の印象でした。
その後、野村に来るたびに飲み会などで会うようになって(笑)。朝霧湖マラソンの運営をサポートしたり、地域のプレイヤーの一人として率先して動いてくれている印象に変わっていきました。
それで、「住み込みスタッフなら滞在費がかからないから、うちを手伝いながら地域の活動にも参加したらいいよ」と話したら、結構すぐに連絡してくれました。
中野:実際に一緒に過ごすようになって、さらに見えてきた一面はありますか?
玲名: ありますね。周りをよく見ていると思います。一緒に働いていた年上のスタッフとは弟分みたいな感じで上手に付き合っていて、「今、自分が入るべきポジションはここだ」と自然に読み取れるタイプなのかなと。そういうところは頼もしいです。
樋田: NEOのむらでも、一時期、学生の中でリーダーのような立場になったことはありました。
中野:entohouseで暮らすようになって、特に印象に残っている経験はありますか?
樋田: ここで地域の方々の宴会があった時に、飲食店のスタッフのような役割をしたことですね。
僕は飲食店でアルバイトをした経験がなかったので、最初はどう動けばいいのか全然分かりませんでした。
一緒にいた飲食経験のあるスタッフの動きを見ながら真似していて、「ここにいると、こんな経験もできるんだ」と思いました。

「お前、今から飲むんやけど来るか?」いつの間にか地域に巻き込まれていく
中野:野村で過ごす時間が増えるにつれ、樋田さんと地域の人との距離も縮まっているようですね。
その関係は、誰かが用意した交流会だけで生まれたものだけでなく、何気ない日常から、突然始まることもあったそうですが。
樋田: 野村を散歩していた時に、地域のおっちゃんから「おい、ちょっと来いや」って声をかけられたことがあります。
「この車の直し方分かるか?」って聞かれて、「分かりません」と答えたら、その話はすぐ終わって(笑)。
その後、急に「お前、今から飲むんやけど来るか?」って誘われたんです。ほとんど話したことのないおっちゃんたちと一緒に飲んで、そのまま二軒目まで行きました。
野村では、こうやって急に飲みに誘ってもらうことがあるのが印象に残っています。
玲名: 野村は若い人が少なくなっているから、「若者がいるぞ、声をかけてみよう」みたいなところはあるのかもしれません。
外から来た人に対しても、あまり壁がないんですよね。外国の人が歩いていても、「お前どこから来たんだ」って声をかけて、お酒を一杯おごったりする。
外から来た人を自然に引き込む力が、野村の人にはあると感じています。

中野:樋田さん自身も「巻き込まれた側」なのでしょうか。
樋田: はい、巻き込まれた側です(笑)。朝霧湖マラソンの民泊を復活させる取り組みで声をかけてもらったり、イベントの慰労会で知り合った方から、アルバイトやお手伝いに呼んでもらったりするようになりました。地域の中で少しずつ役割を与えてもらっているような感覚があります。
玲名: 野村には、役割を上手に与えてくれる人が多い気がします。「こんな私でもできるなら、やってみようかな」と思わせてもらえる。
entohouseのスタッフも、地域の人から声をかけてもらって、「ここで働く」「このイベントを手伝う」と、どんどん地域に入っていくことがあります。
中野:外から来た人を「お客さん」のままにしておくのではなく、声をかけ、誘い、時には役割を託す。
樋田さんもまた、そんな野村の人たちとの関わりの中で、地域に迎え入れられる側から、地域で動く一人へと変わり始めていたんですね。
若者が来ると、地域も動き出す。人と人をつなぐ「入口」としてのentohouse
中野:地域に「巻き込まれた側」だと話す樋田さんですが、外から来た若者は、地域から何かを受け取るだけの存在ではないと思うんです。
樋田さんが野村で動き始めたことで、周囲にも新しい変化が生まれていたんじゃないかと。外から若者が来ることで、地域にはどんな変化が起きると思いますか?
樋田: 人手が増えるだけではなくて、地域の皆さんが元気になるような感じがあります。
若者が知らないことがあると、「お前、そんなことも知らんのか。教えてあげんといかん」みたいに、嬉しそうに教えてくれるんです。
そうやって若者と一緒にやっていくことで、地域が少し活気づく。若者も教えてもらったことを受け継いで、地域のいい部分が残っていくのかなと思います。
玲名: 私も野村に移住して8年ぐらいになるので、付き合う人たちが少しずつ固まってきているところがあります。
そこに、もう一回り若い樋田くんが入って動いてくれる。すると、樋田くんだから呼び込める人がentohouseへ来て、私自身も新しい人とつながるんです。
「実はこんなことを一緒にやりたかったよね」という話が生まれることもあります。本当に、来てもらっているおかげだと思っています。

中野:一方でentohouseもまた、外から訪れた人と地域との間にある距離を縮める役割を担っているんじゃないですか。
玲名: そうですね。チェックインの時には、「夕食はどうしますか?」と聞くようにしています。
特に外国の方など、地域の居酒屋へ一人では入りにくい人もいるので、お店を紹介して、必要なら予約の電話もします。
そのワンクッションがあることで、お店も「entohouseからお客さんが来る」と準備できる。できるだけ地域との間をつなぐ、コンシェルジュのような役割をしたいと思っています。
樋田: 僕もチェックインを担当する時は、そうするように教えてもらっています。
中野:なるほど。樋田さんが言うように、野村には人と人をつなぐキーパーソンが何人もいるわけですね。
そしてentohouseもまた、宿泊するだけでは出会わなかった人や場所へ踏み出すための、地域への「入口」になっているように感じます。
「スタッフから学ぶことの方が多い」互いに持っていないものを学び合う
中野:entohouseでは、玲名さんが若者に何かを教えるだけではなく、共に働き、暮らす時間の中で、玲名さん自身もスタッフから学んでいるということですが、具体的に玲名さんが樋田さんから学んだことはなんですか?
玲名:周りを見て、「この人とはこういうふうに付き合う」と自然に変えられるところですね。
7月に一緒だった年上の女性スタッフとは、弟分みたいな立場で上手に付き合っていました。
8月にフランス人のスタッフが来たら、今度は友達みたいな関係になって(笑)。相手や状況に合わせながら、どんな時でも楽しめるのがすごいと思います。
私は24時間誰かと一緒に暮らすシェアハウスのような生活は、多分できないんです。だから、人と一緒に過ごしながら自然に関係をつくっていけるところは尊敬しています。

中野:では反対に、樋田さんから見た玲名さんは、どのような存在ですか。
樋田: 行動力もそうですし、企画するときに順序を立てて考えていくところです。僕は何から考えればいいのか分からなくなることがあるので、すごいと思います。
もう一つは、何があっても最初に「ありがとう」と言ってくれることです。僕が指示と違うことをしてしまっても、「ありがとう。でも、これはこうだったから、次はこうしてね」と言ってくれる。そこは見習いたいと思っています。
玲名: 子育てを始めてから、そうなったのかもしれません。その人はその人なりに考えて、やろうとしてくれたわけですよね。
だから、やってくれたこと自体には、まず「ありがとう」だと思うんです。いきなり「これ違うよ」と言われたら嫌だろうなって。
中野:地域に来た若者が一方的に何かを教わり、成長するわけではないと言うことですね。
若者が持つ視点や人との接し方から、受け入れる側もまた新しいものを受け取っているんじゃないかと感じます。
教える人と教わる人ではなく、互いに持っていないものを持ち寄る。entohouseには、そんな関係が少しずつ育っていくように思います。
「野村でできた人とのつながりは絶やさない」学生から社会人へ、その先も続く関係
中野:entohouseでの住み込み生活にも、まもなく終わりですね。大学卒業後は地域で就職する予定の樋田さんですが、野村で過ごした時間を、これからどのようにつないでいきたいですか?また、これから社会人になる中で、野村との関係をどうしていきたいですか?
樋田:野村でできた人とのつながりは、絶やさないようにしたいです。仕事をする場所は野村ではないので、どうなるかはまだ分かりません。
でも、ここでできたつながりは大切にしたいと思っています。
玲名: 私も野村に来て8年ぐらいになりますが、いちばんの財産は人とのつながりだと思っています。
何かやりたいと思った時、相談するのは自分より経験のある人だったり、誰かとつながっている人だったりする。
そのつながりや知識があるから、自分の「やってみたい」を実現する方法も見えてくるんですよね。
樋田くんは、人とのつながりをつくるのが上手なタイプだと思います。それをこれからの財産にできるかは自分次第だし、仕事だけがすべてでもない。
もし何年か経って「やっぱり野村がいいな」と思ったら、いつでも野村に帰ってきたらいいと思います。

中野:樋田さんは今、entohouseを舞台に、新しい挑戦にも動き始めているそうで。野村の人たちが普段考えていることを持ち寄り、地域の内と外にいる人が互いの価値観を共有する場を、自ら企画しているそうですね。
玲名: 企画の中心になって、自分で「やりたい」と言って動いています。私にはなかったアイデアなので、すごく面白いと思っています。彼にしかない視点だと思うんです。
中野:玲名さんは、樋田さんが今後どんな未来を描いていくのか知りたいですか?
玲名: はい、もっといろいろ知りたいですね。何年か後でも、また野村に遊びに来てくれた時に、「社会人になって、どう変わった?」って聞いてみたいです。

結び-Ending-
今回の鼎談で印象に残ったのは、野村では外から来た人が「お客さん」のままで終わらないことでした。
声をかけられ、酒席を囲み、時には役割を任される。その積み重ねの中で、いつの間にか地域に関わる一人になっていきます。
一方で、地域が若者に何かを与えるだけではありません。樋田さんが新しい人を連れてきたり、企画を生み出したりすることで、玲名さんや地域にも新たなつながりが生まれていました。
迎える人と、迎えられる人。その関係が固定されず、互いに影響し合いながら変わっていく。
entohouseは、そんな関係が始まる入口の一つなのだと感じました。

■企画・著作
中野 隆行(Nakano Takayuki)
北海道夕張市での写真活動を機に
地域の人たちの価値観に触れたことがきっかけで
このメディアを立ち上げる
【取材データ】
2026年8月10日
【監修・取材協力】
entohouse BAR&GUESTHOUSE
シーバース 玲名様
取材にご協力いただきました関係各諸機関のほか、関係各位に厚く御礼申し上げます。本記事の無断転載を禁じます。
