
-まちの取組-
今回は地域の
キーパーソンに
お話を伺いました

やりたいことがあるならまずは地域を知れ!
〜プロボノがローカルで浸透すると地域はどう変わるのか?〜
鹿児島県霧島市
まちロケはまちの来訪者を増やすための仕組み作りをサステナブルな形で実現しようというプロジェクトを立ち上げました。
プロジェクトを進めるにあたり、企業や団体の枠組みを超えた協力体制を構築するため、プロボノ型副業人材プログラム「Beyonders*1」を活用しました。このプログラムを通じて、ITコンサルタントなど3名の外部人材を起用し、3か月という期間限定でプロジェクトを進めました。
*1 Beyondersとは個人が組織を飛び出し、自由に挑戦・成長する機会を提供するもので、誰かが始めた「まだ名もない挑戦」に友人の起業を手伝うように参加してみるイメージで、試行錯誤しながら組織もスキルも関係なく、ワクワクするから参加する新しいチャレンジの形を提供するプログラム。
公式サイト https://beyonders.etic.or.jp/
その中で、無償で作業や労働力を提供することは役割によって呼び方が異なることや、人によって捉え方がさまざまです。私たちが募集したプロボノ人材が人口急減地域で活動することで、地域にどんな影響を与えるのか。また、外部の人たちがどんな目的を持って地域に関わり、無償で仕事をすることの役割と意義について話し合いました。
※Beyonders参加者元企業との契約により、Beyondersメンバー(外部人材)側の個人情報は伏せております。よって記載された地名、個人名は、架空もしくは仮名であり事実とは一切関係ありません。
IT、土木、移住者目線で挑む地域活性化。Beyondersメンバーと語る実践と課題
那須(モデレーター):今日の座談会は白水さんだけでなく、現地入りしているBeyondersメンバーのお二方にもパネラーとして参加していただきました。私は今回、このプロジェクトにコーディネーターとして参加しています。
今回のプロジェクトを通して、自分が本当にやりたいことを改めて見つめ直しながらコーディネーターとして貢献したいと思っています。みなさん今日はよろしくお願いします。

白水さん(以下、敬称略):白水と申します。私は鹿児島市内出身で、2020年にこの町へIターン移住しました。現在は、地域にある空き家を活用しながら、町の活性化に取り組んでいます。
また、官民連携の事業や移住者を呼び込むための取り組みにも関わっています。かつて3.11の震災復興支援にも携わり、現在も地域おこし協力隊関連の案件などで全国を回っています。よろしくお願いいたします。

薗部さん(仮名:以下、敬称略):初めまして。薗部と申します。本業では札幌でコンサルタントをしています。主に商業産業界向けに、デベロッパーの業務効率化をDX観点で支援する仕事をしております。
今回Beyondersに参加したのは、まちの来訪者を増やすための仕組み作りをサステナブルな形で実現しようというプロジェクトに共感し、その体験をしたいと思ったからです。これまで地域創生や活性化に直接関わったことはなかったので、現場を通じて学びたいと思っています。
佐伯さん(仮名:以下、敬称略):私は大学で土木系を学び、現在は北陸の不動産会社で住宅地開発を行っています。これまでマンションや戸建てのコミュニティ作りに取り組んできましたが、一度手を離すと自然消滅してしまう課題も感じています。
今回のプロジェクトでは、自分の経験を活かしつつ、新しい学びを得て何かに貢献できればと思い、参加しました。
地域で挑む手段と目的の本質。カフェ運営を通じて見えた自分主体の地域づくり
那須:まずはボランティアとかインターン、プロボノなど、いろいろ無償で提供できる労働力があると思うんです。私は復興創生インターンなどで地域のプロジェクトに関わったり、大学の地域実習で南三陸町でも地域活動をしていました。
そこで得たものは地域の人のためだけで動くのではなくて、自分主体で何かやりたい思いがあったほうが楽しくできるし、協力してくれる人がたくさんいたことをすごく感じました。

那須:大学3年生の時に、南三陸町で高校生たちが自分の地域の魅力を知れる機会を作りたい思いがあって、そのカフェを運営したことがありました。その経験から、社会人になってもカフェを開きたい夢がずっとあって、そのために試行錯誤してきました。
でも今、それが地域の人が喜ぶ一つの手段であっただけで、本当に自分がそれを生涯絶対やりたいかと言われると、「求められていなくてもそれをやりたいのか?」と問われた時に、それはちょっと違うのではないかと思ったのです。
白水:私も実はカフェやゲストハウスは特にやりたかったわけではないですからね。それこそ、今の手段と目的の話で、私はこの町が好きになって、よそから引っ越してきたんですよ。夫も普通に市街地で仕事をしているので、家族5人で引っ越してきました。
とにかくこの町に外から人を連れてくるのが大きな目標で、そのための手段としてカフェとゲストハウスを選んだのです。
地域貢献と持続可能性を両立するための視点から考える無償活動に必要な線引きとは?
那須:空き家をリノベーションして作ったんですよね。2年間で70名くらい、ボランティアで、いろんな人が関わってくれて、無償で関わってくれた人もたくさんいるんじゃないかなって。
その中で、地域で無償で労働力を提供することはこれまでにあったのかどうかは知らないですが、それが当たり前に根付いている地域もたくさんある中で気になることがあります。
白水さんのホームページを拝見して気づいたんですけど、視察に来られる方や、いろんな問い合わせを受けることが結構増えてきていると書かれていましたよね。
そういった部分を見て、これまで無償でやってきたことを今後も続けていく「しんどさ」を感じていたのではないかと思ったのですがいかがですか?

白水:しんどさというより、それは無償であっても「何が返ってくるのか」を考えることが必要だと気づいたんです。
例えば、地元の中学校の中学生向けに「自分たちの地元のまち歩き」を授業の一環でやることがあるんですけど、そういうのは別にお金とか求めず、「必要だ」と思うからやるのです。
最近は無償で関わることに対して線引きをする必要があると感じました。いろいろと考えさせられるプロセスを経て、自分のホームページに「無償活動のスタンス」を明記しました。
「これは良い活動だ」「関わりたい」と思っても、結果的に負担が大きすぎて他が疎かになることを避けないといけない。それでも、自分の気持ちと理性を切り分けて判断することが大切だと学びました。
地域活動のジレンマに向き合い、やりたい気持ちと持続可能性のバランスを考えること
那須:私もそう思います。特に、地域での活動やボランティアは、自分のやりたい気持ちがあるからこそ成り立つ部分が大きいですよね。でも、その「やりたい」気持ちが過剰になると、自分自身が疲弊してしまうこともある。
私も以前NPO法人で働いていた時、同じような経験をしました。いろんな依頼が集中して、自分の時間がどんどん削られていく。
でも、どれも「やりたい」と思ってしまうから断りにくい。結果的に、やりすぎて体を壊すこともありました。その時に、自分が本当に向き合うべきことを見極める必要性を感じたんです。いろんな人との関係性が絡むので、余計に断りづらい部分がありますよね。

白水:そうですね。断ること自体が悪いわけではなく、どう伝えるかが大事なんだと思います。断り方にも誠意が必要で、「自分には難しい」理由を丁寧に説明することで、相手も理解してくれることが多いです。
那須:活動を通じて築いた人間関係や信頼は、やはり大きな財産であり、それを大切にしつつ自分のペースで進むことが持続可能な形だと改めて感じます。
外と内がつながる新たなきっかけ作りで主体性が生む地域のイノベーションをつくる
那須:主体性とやりがいとか、これが2つのポイントかなって思ったんですよね。皆さんもそういう部分で重なるところが絶対あると思います。それは誰でも共通の言語ではないかと思うのです。そのような形で地域とつながっていけたらいいなと思っていて。
外の人と中の人が融合して新しい結合が生まれるのは、イノベーションにつながる部分がすごく強いと思うのです。
それは自分たちが知らないことを意外と知っていたり、その逆のパターンもあるので、その両方のさじ加減で良い関係性を築けたらいいかなと思っています。今回が初めての機会ではありますが、また来る機会があればいいかなと。
佐伯:先ほどおっしゃってたように、外から人を呼ぶというよりは、まず近隣の鹿児島市や県南部から来てもらうきっかけ作りが第一歩なのではないかと、お話を聞きながら思いました。

薗部:そうですよね。そこまで僕はまだ思考が至ってなくて、現時点では地域の状況や求められている関わりかたを知れたことが良かったと思っています。
お互いに、自分の情報とか、地域で求められていることを話し合って、それが「何か発展するかも」というアイデアにつながる場が今回の場になったと思っています。実はこれが非常に大事で、きっかけ作りになるはずです。
僕の実家は旅館を2つ経営しているんですけど、つながりがなければ生まれる話もないので、もっとお話をさせていただきたいと思いました。
関係人口が生む多様なつながりで移住以外でも地域に貢献する方法
那須:ありがとうございます。やはり、地域との関わりかたは住んでいる人たちが中心になることが多いと思うんです。
でも、移住まではまだ考えていなくても、地域に貢献したい思いで地域活動に参加されている方々がいますが、移住以外の形で地域に関わる方法はどんな形が理想的なんだろうと思うのですが、白水さんいかがですか?
白水:そうですね。実はこの町、結構関係人口が多いんですよ。私が来る前から、例えば、このまちの駅の保存活用をするための市民団体には40人くらいいて、その中に地元の人もメインでいますが、会員の中には地元じゃないけど駅が好きで応援したい人もいます。
例えば、物理的に日々の清掃活動には来れないんですが、年会費を払う形でもいいし、たまたま年に一度、友達を連れて観光と合わせて訪れてくれるとか、そういう形でもすごく嬉しいですね。

地域を知り、つながりを深めることで関わり方を考える貴重な対話の場に
那須:ありがとうございます。私は、オンラインでつながれる時代ではありますが、やはり現地で話を聞かないと雰囲気や本音が分からなかったり、つかみきれないことが多いと思いました。直接来ないと作れないつながりがたくさんあると感じているので、こういう機会を作っていただけたのは本当にありがたいです。佐伯さんはいかがですか?
佐伯:そうですね。私としては、こうして地域の方々の取り組みや活動をお話いただいて、実際に関わる方法を考える機会ができたのは良かったです。
私は今回、改めてボランティアって何なんだろうということを考えるきっかけにもなりました。短い時間ではありましたが、実際に自分がどう貢献できるのか、何が必要なのかということを考える時間になったので、非常に良い経験になったと思います。
薗部:お話を伺う中で、いろんな関わり方があるんだなということを感じました。どの程度関わるかのレベル感も含めて、さまざまだなと。
さらに、その中で断らざるを得ない時もあるし、地域の事情に合わせた対応が必要なんだなというのも実感しました。この3か月間でプロジェクトの中で自分ができることを考えていきたいと思います。ありがとうございました。
白水:まずは、このまちのことを知ってもらいたいです。そして、好きになってもらえたらとても嬉しいです。面白いところや、もったいないなと思うところ、ここは少し残念だなと感じるポイントなど、そういう発見をまず探してもらえたらと思います。
まちを知り合えたからこそできることや、可能性というのがたくさんあると思いますので、これからのオンラインの期間も、そういったお話やお手伝いができることを探していただけたら嬉しいです。

その後の進捗について~地域との関係構築の重要性とプロジェクトを白紙に~
私たち地域外に住む者にとってプロジェクトなど、やりたいことを進める以前にまちのことを知り、関係性を築いていかなければならないことの重要性を改めて認識しました。
結果的にこの状態では何もできないと判断し、私たちのプロジェクトは白紙に戻しました。ここに集まった外部人材のうち1人は離れることになり、残った方たちは期間中何ができるのかを考えて終える形となりました。
私たちの活動は無駄ではなかったのかと問われると答えに戸惑う部分もありますが、このことがきっかけに関わってくれたいろんな人たちが地域で何かを始めるきっかけになってもらえると嬉しいです。

結び-Ending-
プロボノという言葉は地域で浸透していなくとも、それに似た形は存在しており、古くから地域の習慣として根付いていることがこの記事を通して分かってきます。
また、地域活性化における多様な関わり方や、その可能性の広がりを感じました。特に、佐伯さんや薗部さんの視点を通じて「地域外の人々が無理なく関わる方法」が具体的に語られ、移住や長期滞在だけが貢献の形ではないことが明確に示されています。
地域の人口規模によっては法や秩序に重きを置いていて合意形成なくして生業を起こすことの難しさをプロジェクトを通して改めて認識しました。今後は、彼らの活動がどんなことをもたらすのか注視していきたいです。
読者のみなさんは、チャレンジしやすいまちはどんな条件が整っている必要があるのか、この記事を通して考えていただければ幸いです。

■企画・著作
中野 隆行(Nakano Takayuki)
地域での写真活動を機に
地域の人たちの価値観に触れたことがきっかけで
このメディアを立ち上げる
【取材データ】
2024年12月7日
【取材協力】
一般社団法人 横川kito
・白水 梨恵様
【編成・編集】町おこしロケーションタイムス編集部
取材にご協力いただきました関係各諸機関のほか、関係各位に厚く御礼申し上げます。本誌の無断転載を禁じます。