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地域人史-Interview-

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利益を追い求めるよりも人から感謝される仕事がしてみたい。率先して地域住民との関係性を築きながら伝えるまちの魅力

愛媛県松野町

今回は松本 綾乃さんに
お話を伺いました
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松本 綾乃(まつもと あやの)さん

兵庫県明石市出身。2021年6月1日に総務省地域おこし協力隊制度を活用して愛媛県松野町へ移住。えひめ暮らしネットワーク会員。松野町在住。

お金を稼ぐ喜びより社会貢献や人に喜ばれること。人はどちらを選ぶでしょうか?また、便利で何でも手に入るものの、無言化社会が浸透して周囲に気を遣わなくてもよい都市部と、生きていくための最低限のお金をもらいながら幸せに暮らせる地域ならどうでしょうか?


今回は地域との関係性を大切することで、そこで豊かな暮らしを続けるための糸口を見い出した松本さんのお話です。


松本さんのお話を聞くことで、地方で暮らすのは自分で仕事をつくることがいちばんだと思っていたことが今一度立ち止まって考える良い機会となりました。

周辺から批判されることを意識しながら率先してファーストペンギンになることで得たものとは?


「私がこれまで歩んできた人生の中で印象に残っているのは小学校の文化祭だと思います。みんなで何か作り上げたり人に喜んでもらえることを率先するのが好きだったんです」(松本さん)


そう話す松本さんは、児童会や生徒会にも立候補するなど主体的に行動することが多かったそうだ。その性格は小さい頃から備わっていたそうで、母親やその身の回りの人からも周知されていた。しかし、松本さんにとっては自己中心的でわがままな存在だとも聞かされていた。


「当時は自分の中で全てをハンドリングしていると感じていたのが時間の経過とともに人と接していく中、大学進学によって大阪に出ることで自分ってそんなに勢いのある大きな存在ではなかったと気づき始めたんです」(松本さん)


自己の成長とともに視点を広げることで、自らを客観的にふりかえることで多様な人の価値観に触れることに


自分が自己中心的だと思うことにとてもコンプレックスを感じながらも、必ずしもそうではなく誰かの役に立っているのでは?と感じながらも少しずつ自分を変えていけるよう日々を過ごしていったという。そんな中、ある驚きから気づいたことが自分にとって大きな影響を受けた。


「私は兵庫県から出たことがなかったので自分の言葉が大阪の人と全然違うことが初めて分かって衝撃を受けました。当たり前だったことがそうじゃなかったんだと知ると自分って小さい存在なんだと改めて思いましたね。


それをものがたる出来事として幼稚園からずっと高校生まで続けていたダンスがあったんですが、大きな舞台やパレードに出場のため大阪に行った時、兵庫県内では結構有名でも大阪では全然周知されていないことを知ったことです」(松本さん)


いろんな人に出会うことは人の価値観に触れること。松本さんが話されたように、自分がやってきたことはマイナスな一面もあったり、何かをやる時に劣等感があると感じるのも自分自身を見つめ直すことができている証ではないか。



苦しみもがきながらアップデートすることで乗り越えた言葉の壁の先に見えるもの


また、過ごす環境が変わることは言葉の文化も違うので、その地の言葉に順応していくことも求められる。誰かに指摘を受けることによって否定されているように思えて傷つくことがあるが松本さんもそうであった。


「大阪の大学に通うようになって友だちもたくさんできたんです。気兼ねなく話し合える仲になったんですが、彼らと話していて私の地元の方言が自然に出て言葉の違いにびっくりしてしまうことがあったので、人に合わせる協調性は大事だなと思いました」(松本さん)


自分の言葉の表現方法で周りを驚かせてしまったり、あるいはそのことが原因で誰かに指摘を受けることによって否定されているように思えて傷つくことがある。


しかしそれが結果的に自分自身の成長ともなるだろう。人との接し方で活かされていることに気づいたのは次のように語った出来事だった。


「大学を卒業して就職して東京で働いている時に、上司に『関西弁きついよ。ここは東京だから標準語で話してね』と言われた時、最初はショックでした。でもよくよく考えたらお客様に悪い印象を与えないための私に対する教育として守ってくれた言葉なんだとふりかえっています」(松本さん)


自分自身がアップデートしていく時はすごく苦しい。一時的には塞ぎ込んでしまうかもしれない。しかし、時間が経ってみると何となく受け入れられる部分は変えていくべきと改心することが多い。


しかし、誰だれかから否定される動きがあったとしても自分の中で大事に思っているブレない軸は残すべきであると思っている。


就職後に得た経験によって自分を活かして周囲の関係性をつくりながら地域と外を繋ぐパイプ役に


このように松本さんの転機は就職時ではと感じている。率先して自らやることは評価されるべきことである一方、自分勝手にやっていると思われることと二分する思いがあるのかもしない。


話を聞いていると周囲に配慮しながら関係性を大事にする松本さんの人柄が伝わってくる。例えば地域おこし協力隊の活動報告のイベントを行ったときも松本さんの知らない地域の人が駆けつけて「来てよかった」と人伝で聞いて本人は心から感謝したそうだ。


都市部で暮らしながら社会の中に身を置いた後に、このまちへ移って三年が経つ中で、松本さんはえひめ地域移住相談員として地域の外と中を繋ぐパイプ役も担っている。そんなポジショニングの中で松本さんの故郷にいる親しい間柄ではこのようなやり取りがあったそうだ。



「私の故郷にいる友達は地元で根付いていることが多いんです。時々連絡を取り合っている友達が、私が単身で四国に渡って松野町で続けてきた地域活動がすごい行動力だと驚いていると同時にずっと応援してくれているんです」(松本さん)


そう嬉しそうに話す松本さんだが、誰にでも真似できないことを当たり前のように実践していることが印象的だ。このような行動はとても勇気を要したのではと感じる。


都市部で感じた人との距離感と周囲からの影響を受けながら地域で人から感謝される仕事がしたいと思うように


松本さんが移住するに至ったきっかけは海外旅行にもよく行かれていたことだけではない。コロナ禍で就職のために東京で暮らし始めたとき、マスクで表情が分からなかったり、隣がパーテーションで仕切られたりと人を近くにい感じる都市部でも距離感を感じて寂しさを感じたという。そんな時に拍車をかけることが起こる。


「同じ会社の先輩が結婚することになり、旦那さんが国の制度を活用して地域で活動しながら暮らしていたことを知ったんです」(松本さん)


地域での暮らしかたを知った松本さんは、これまでの生き方の中で身についた何かに貢献することが自分のモチベーションにもなる、と前向きな姿勢を持つようになった。


青年海外協力隊の取り組みにも興味があったこともあり、コロナのタイミングだけでなく、そう言った過去の流れも相まって地域での暮らしにシフトしていったのではなかろうか。


それはお金を稼ぐ喜びよりも社会貢献で評価されることの素晴らしさを知っている松本さんだからこそできたことだと思える。それは次の体験を話してくれたことからも納得がいく。



「前職は教育関係の営業だったんです。ターゲット層に会社側は出来高を求めていて自分の意思とは無関係に営業電話で進めていく必要があったので、利益を追い求めるよりも人から感謝される仕事がしてみたいと思うようになったんです。そんな想いもあったからこそ、ここで暮らせているのだと思います」(松本さん)


人から喜んでもらえることを実践することは自分自身も嬉しくなるものだ。その原点は小学生時代の体験が現在に贈られているギフトではなかろうか。


語らずともまちに愛着を持っているひとや地域の当たり前のコトが魅力に溢れていてよそ者を惹きつけること


松本さんは松野町に移って定住したいと思えるまちに出会えたのが宝物だと話す。今後は地域で根付いて仕事をしながら、親しくなった人たちと一緒に過ごしていきたいという。


松本さんは移住してこれまで暮らしの中で伴走してくれた人たちを紹介したいと話す。そんなまちで暮らしていると毎日会う人と会話するとき、誰もが肩書きから入らず寄り添ってくれる。地域にとっては当たり前であるようでも都市部の人間にとっては新鮮味があって魅力を感じるところだ。


「私は表面にはあまり出てこなくて語らずともまちに対してに愛着を持っている人は潜在的に多くいるものの、そんな人たちをもっとみんなに知ってほしいです」(松本さん)


そう話す松本さんは、まちの人たちを知ってほしいと話すが、具体的にどんな人かとすれば不特定多数の人というより地域を大切に思ってくれる人たちの意味合いが強い。



百聞は一見に如かず。加えて実際に住んで分かる地域の豊かな暮らしをどう伝えるか


それは地域に多くの人を呼び込むことにはならないが、そういった人たちが来ることのほうが、まちの人も安心感があるし「あのまちは良かったよ」と周囲に共有してもらえる。結果としてコアなファンが少しずつ増えてくるのではないか。しかし、自分の思いを伝えたくても中々伝わらずにモヤモヤしていることもあるという。


まちの良さや暮らしの豊かさを地域の外へ伝えたくても中々伝わらなくて。友達にも言われることですが、『なんで地方移住するの?同世代がどのくらいいるのか気になるし遊ぶところある?』と結構ネガティブなことを言われるんですね」(松本さん)


人によって地域での暮らしや良さが合うか合わないかは実際に住んでみないと分からないと話す松本さん。それをどう伝えていくかが今後の課題なのだろう。



まちの魅力はひとにある。人とのふれあいを伝えることで地域に人を呼び込むためのきっかけづくりを実践


コロナ禍では非対面交流が主流だったが、今ではフェーズも変わってきて現地に人を呼び込む形に戻りつつある。地域へ行かなければ理解できない魅力は絶対にあると思っており、松本さんは、その接点づくりとして地域の人たちとのふれあいを伝えることで地域に人を呼び込むためのきっかけづくりを実践しているようだ。


「SNSを使って地域の人と遊んでいる様子や地域のイベントの様子を載せているんです。それを見て興味を持ってくれる友達が、私がここに住んでいるので『四国に行ったら寄るね』と言ってまちに足を運んでくれてとても嬉しいのですが、それだけではなく、まちの魅力が結果として伝えられるのが良いことだとも思っています」(松本さん)


今後もプライベートでもまちの魅力を伝えていくと話す松本さんは、まちの魅力はひとにあるという。SNSアカウントのプロフィール写真は役場の人が書いたスマイリーフェイスだ。何気に書かれたかわいらしさを敢えてそこで使用することで書いた本人もきっと心の中で温かい気持ちになっているだろう。


住み続けることで醸成される地域愛。まちのファンを増やすためにできることは率先して自分からアクションを起こすこと


地域の魅力が伝われば解像度も深まる。一般的なモノやコトに触れる地域観光は持続可能性を求めることは難しい。しかし、そこに人が掛け合わせることで他の地域にはない良さも生まれてくる。


例えば森林組合で仕事をしている人が何か新しいことを始めたり、乳牛を飼育している農家の人が生産された食品を活かして率先してカフェを開いたりするなど、人にふれあえる場所が生まれることで一度会いに行った人にまた会いたい思う場づくりが地域のファンが根付いていく。松本さんは地域に住み続けることで魅力の他にもそういった地域の良さを今後も言語化していくに違いない。


地域の小さな課題や言葉だけでは住まないと分からないことはたくさんあります。私は松野町に来てまだ3年目ですが、地域活動を通して少しずつですが実感しています。これから働く先は変わりますが今後も松野町のことは大切にしていきます」(松本さん)



結び-Ending-

取材の終わり際に松本さんから地域でチャレンジする人を応援したい想いを大切にする側として地域に移住することはないかと質問を受けました。


記事本文最後に続くお話だったのですが、松本さんはそうすることで地域をもっと感じられるはずとふりかえりで感じました。


自分自身のビジョンを問われているようでとても鋭い視点を感じたと同時に、客観的視点と主観的視点の他に様々な地域を見てきて感じることで考えられる過去・現在・未来といった時の流れを読む自分自身の信念を再認識した瞬間でした。また是非お話を伺いたいと思います。

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■企画・著作
中野 隆行(Nakano Takayuki)
地域での写真活動を機に
地域の人たちの価値観に触れたことがきっかけで
このメディアを立ち上げる

【取材データ】
2024年5月17日 
【監修・取材協力】
松野町役場ふるさと創生課
・土居 孝二郎様
・松本 綾乃様
【資料提供】
・松本 綾乃様
【編成・編集】町おこしロケーションタイムス編集部
取材にご協力いただきました関係各諸機関のほか、関係各位に厚く御礼申し上げます。

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