地域人史-Interview-

珈琲を起点として、まちの人と人が集う場所に
〜父が守り続けた写真館から、地域の居場所へ〜
富山県朝日町
今回は植野 尚美さんに
お話を伺いました

植野 尚美(うえの なおみ)さん:studio&gallery cafe ふかみ店主
富山県朝 日町出身・在住。10年前から父・弘夫さんが50年間経営してきた(有)ふかみスタジオ・カメラ本店内にてカフェを経営。弘夫さんが守り続けてきたお店をつなぎながら、地域住民が心安らげる居場所を提供。
半世紀以上にわたり、地域の暮らしを見つめ続けてきた写真館があります。
時代の移り変わりとともに、写真を取り巻く環境や人々の過ごし方は大きく変化しました。それでも、この場所には変わらず人が訪れ、言葉を交わし、思い思いの時間を過ごしています。
富山県朝日町にある「studio&gallery cafe ふかみ」。かつて父・弘夫さんが守り続けてきた写真館の空間を受け継ぎながら、現在は植野 尚美さんが店主として新たな形でお店を営んでいます。
珈琲をきっかけに人が集い、地域の日常の中にそっと居場所をつくる。その営みは、訪れる人や町の景色が少しずつ変わっていく中でも続いています。
今回は、植野さんにお話を伺いながら、家族がつないできた店の歴史と、地域に開かれた場づくりへの想いについて、弊社インターン生の平野とともにお届けします。
父が守り続けた写真館を、新しい形で受け継ぐ
写真館の空間を活かして「studio&gallery cafe ふかみ」を始めてから十数年。父・弘夫さんが半世紀にわたり営んできた(有)ふかみスタジオ・カメラ本店の歴史を受け継ぎながら、新たな形で店を営んでいる。
「カフェ開店前は父も年を取ってきたし、今後お店をどうしていくか家族皆で悩みました。空き店舗にしてしまうことには反対でした。
私にはカメラの知識がなく、カメラ屋を引き継ぐことはできなかったので、考えた結果、私がカフェをやっていく形に落ち着いたんです。そういうお店なら、私が”ふかみ”という看板を背負っていけると思いました」(植野さん)
父の弘夫さんが守ってきたこの場所をこれからも大事にしていきたい想いが強く、その想いを珈琲が引き寄せてくれたという。
ゼロベースでお店を立ち上げたよりは、弘夫さんがカメラ屋のプラットフォームにカフェをオープンさせたので、「父と伴走している感覚だった」と話す植野さん。
オープン当時は、植野さんの娘さんも手伝いに加わり、家族皆で新しいお店の形をスタートさせた。

「オープンまでに娘と色々な地域を回り、勉強をしてきました。主に神戸と東京に行ったのですが、カメラ屋と喫茶店が一緒になっているお店を事前に調べて、そこを中心に視察をしたんです。
面白いお店がたくさんありました。そこで勉強してきたことが今に活かされています」(植野さん)
店舗を経営していく中で、その形もだんだん変化していった。

「スマートフォンの普及に伴い、写真をわざわざプリントするお客様は減りました。時代と共にカメラの需要が減っていったんです。
その結果、現在はカメラに関する業務は縮小しましたが、たまにお客様から引き受けた写真の現像を、取次でプリント取扱店へ出しています」(植野さん)
写真館からカフェへと形を変えながら続いてきた背景には、家族が積み重ねてきた時間と、この場所を残したいという想いがあるように感じた 。
植野さんによると、近年は県外や海外から訪れる人も増え、店を訪れる顔ぶれにも変化が生まれているという。一方で、地域の人が気軽に立ち寄れる空気感はこれからも大切にしていきたいと話してくれた。
変化の中でも変わらなかった、店とお客様の距離感
そんな中で2020年、外出自粛によって飲食店にも大きな影響が広がる中、植野さんは店の形を模索していた。
「コロナが流行し始めた当初、商工会議所の人たちが飲食店応援のために、デリバリーサービスの事業を開始したんです。うちも加盟しているので、その事業に参加しました。
実際はなかなか大変でした。一つ一つ丁寧に作り上げていくので指定の時間までにお届けするのが難しくて。それならと注文があった時点でお作りして、取りに来てもらうテイクアウトにした方が、負担が減るのではないかと思いついたんです」(植野さん)

商工会議所に問い合わせたところ、テイクアウト形式でも許可が出たとのことで、すぐに切り替えた。コロナ禍で多くのお店が打撃を受け形を変えていく中で、自分のお店を守るためにさまざまな工夫を凝らしているが、店舗を訪れる人にも変化はあったのだろうか。
「来てくださるお客様の顔ぶれはあまり変わりません。とてもありがたいことですよね。ただ、感染者数が多い時は”お店に行きたいけど、もう少し社会情勢が落ち着いてから行きますね”と言う方もいました。
最近は人々が慣れてきたのか、割と皆さん以前のように来店してくださるようになりました。それでも気になる人たちはテイクアウトを利用していただいているので、現在も通常営業と並行しておこなっています」(植野さん)
店舗を訪れる人は、朝日町の人々だけでなく富山県内各地から来ているそうだ。店を訪れる人の顔ぶれや過ごし方は少しずつ変化しても、この場所が地域の日常の延長線上にあり続けていることが印象的だった。
取材から時間が経った現在は、県外や海外から立ち寄る来店者も増え、店を取り巻く環境にも変化が生まれているという。
翻訳アプリを介して会話を楽しむ場面もある一方で、植野さんは「地域の人が変わらず過ごせる場所」でありたいという想いを大切にしている。

珈琲をきっかけに、人と人がつながる場所へ
取材を進める中で、この店が地域の人にとって日常の延長線上にある場所であることが伝わってきた。 例えばこうだ。
「今は中々難しいとは思うのですが、以前は商工会議所が主催するまちゼミの講師として、”珈琲の淹れ方伝授”の講座を開いていました。
参加者は朝日町の方ばかりで人数も結構集まったのですが、ほとんど女子会のようでしたね。19時開始でしたが、あまりにもお喋りが盛り上がり、気づけば深夜になっていました。笑」(植野さん)

珈琲を起点に地域住民が集まり、他愛もない話に花を咲かせる。”ふかみカメラ”はそんな地域住民の心の拠り所にもなっているのだろう。
また、植野さんは以前から趣味としてタロット占いや姓名判断にも親しみ、その話題をきっかけに来店する人もいるという。
「タロットも姓名判断も、もう随分昔から趣味としてやっていました。占いは女性には大変人気ですよね。遠方から来られる方もいらっしゃいます。
タロット占いはカードをあらかじめ朝日に当てて浄化しないといけないので、希望される方は事前にお伝えくださると助かりますね。
姓名判断も色々な方のお名前を拝見させていただいてます。名前はその人の”お守り”なんです。もし私が判断してお名前に”塞がり”があれば、画数を変えた方が良いとお伝えします。良い画数で名刺を作るだけでも効果があるんです」(植野さん)

そんなユニークな特技を持ち合わせている植野さんだからこそ、多くの人が惹きつけられるのだろう。そんな植野さんが思う「人との出会い」についての価値観は何だろうか。
「人と人は引き合うのだと思います。この広い宇宙のもとで、どうして知り合うんだろう?と感じますよね。
人に恵まれるというのは、結局自分が人に恩送りをしているから、それが返ってきているだけなんですよ。
お金儲けというよりは、人が喜んでくれることが嬉しいんです。それが結果として良い出会いにつながるのだと思います」(植野さん)
植野さんの言葉に耳を傾けていると、この場所に人が集まる理由は、珈琲や空間そのものだけではなく、一人ひとりとの関わりを大切にする姿勢にあるのかもしれないと感じた。
受け継いだ想いとともに、“ふかみ”のこれからを考える
父・弘夫さんを見送ってから年月が流れた今も、植野さんは店を受け継ぎながら、この場所のこれからについて考え続けている。
「お店の2階のスタジオが、父が亡くなった時のままの状態になっているんです。そこが空いているから、どなたかにそのスペースを活用していただけると嬉しいなと思っています。ただ……」(植野さん)
そう話す植野さんは、少し言葉を止めた。誰かに使ってもらいたい気持ちはある。一方で、そこには簡単には動かせない想いも残っていた。

「父が2階に遺していった設備を、片付けるのはまだ抵抗があるんです。1階にも父が撮影した写真が数多く飾ってあるのですが、“まだ俺の撮った写真を飾っておいてくれ”と言っているような気がして。
お店に来られるお客様の中にも“これお父さんの撮った写真でしょ?”と懐かしんでくださる方もいらっしゃいます。
そこから“成人式などの人生の節目には、お父さんに写真を撮ってもらったわ”と、父を懐かしんで話してくださる方もたくさんいるんです」(植野さん)
店内に飾られた写真は、長年この町とともに歩んできた記録でもある。その風景に触れながら、今も弘夫さんを思い出す人がいる。

「常連さんの中にも、写真を撮るのがとても好きな方がいらっしゃるので、その方の写真をここに飾っても素敵だなとは思いますね。
そういった方の写真を飾ったりすると、そのお友達も見に来て下さったりして、より輪が広がっていくのではないかと思います。でも、なぜかまだ外すことができないんです」(植野さん)
受け継ぐことは、何も変えずに残すことだけではない。父が大切にしてきた空間を残しながら、新しい人との出会いや表現も受け入れていく。
その間で揺れ動く気持ちもまた、この場所を守っていく営みの一部なのかもしれない。
そして、弘夫さんの大切な家族の一人である孫(植野さんにとっては娘)は、この場所の未来をどう考えているのだろうか。
「娘も私と同じ考えです。2階に関しては“誰かが使ってくれるならおじいちゃんも喜ぶよね”と言っています。2人でよくそういう話をします。
でも、やっぱり綺麗さっぱり無くしてしまうのは嫌なんですよね。父はみんなから愛された人でしたから」(植野さん)
誰かの想いを受け継ぐことに、ひとつの正解はない。けれど植野さんの言葉からは、これまで積み重ねられてきた時間を大切に抱えながら、少しずつ次の世代へつないでいこうとする姿勢が伝わってきた。

【店舗情報】
Studio&Gallery Cafe ふかみ
住所|富山県下新川郡朝日町平柳228-2
営業時間|11:30〜16:00(平日)/11:30〜18:00(土日祝)
定休日|火曜日(臨時休業の場合あり)
電話|0765-83-3030
アクセス|泊駅 徒歩約3分 駐車場|あり(詳細は店舗案内をご確認ください)
結び-Ending-
今回の取材を通して印象的だったのは、「受け継ぐ」という言葉の意味でした。
そこにあったのは、何も変えずに残すことではなく、大切にしてきた想いを抱えながら、その時々に合った形へ少しずつ変化させていく姿でした。
父・弘夫さんが守ってきた写真館は、植野さんによって珈琲をきっかけに人が集う場所へと姿を変え、今も地域の日常の中にあり続けています。
訪れる人や町の景色が変わっていく中でも、この場所には変わらない空気が流れていました。
久しぶりに再会して感じたのは、時間の流れは人を弱くするだけではないということ。
植野さんをはじめ、地域で日々を積み重ねる人たちの姿には、穏やかさと力強さが同居しているように感じられました。
そんな時間の積み重ねに触れながら、これから先の“ふかみ”がどのような景色をつくっていくのか、また静かに見守っていきたいと思います。

■企画・著作
中野 隆行(Nakano Takayuki)
地域での写真活動を機に
地域の人たちの価値観に触れたことがきっかけで
このメディアを立ち上げる
【取材データ】
2022.05.04 ※現地取材
【監修・取材協力】
・studio&gallery cafe ふかみ
植野 尚美様
取材にご協力いただきました関係各諸機関のほか、関係各位に厚く御礼申し上げます。本記事の無断転載を禁じます。
