埼玉県杉戸町
有機稲作を通して健康な暮らし方を提供したい
~微生物の能力を活かした農法で人にも環境にもイイ農業を~
コロナ禍でデジタル化が進んでいる今、農業においてもネット販売を通して有機栽培で育てた野菜や米といった食材をベンチャー企業や大手の事業者が、ネット上で追求する取り組みが増えています。
その中で、運営者の物腰の柔らかい個性を活かし、より持続可能な農業に近づけることや、食を通して心も体も健康にあり続けるために、植物の力を最大限引き出せる育て方を目指し、あらゆる生態系が生き続けられる農業を浸透させ、農作物を消費していただけるエシカルなオンラインマルシェを通して、生産者と共創しながら消費者とつなぐ取り組みがあります。
今回は、その中でも有機農業を通して、人にも環境にも優しい生態系を育まれている有限会社アールキューブ エコの網本 朝香さんのお話をお届け。
土壌にいる微生物群の能力を活かした農作物の育て方で人にも環境にもイイ農業に迫ります。
\網本さんのお米が買える購入サイトはこちらから/
稲が本来持っている力を発揮することで、環境にも優しいオーガニック農法が実現する
「埼玉の杉戸には20年ほど前に夫とともに移住して来ました。元々、このまちには農家さんとご縁で農業を勧められたこともあって今は有機農業に力を入れています」(網本さん)
写真左> 網本 朝香(あみもと あさか)さん:有限会社 アールキューブエコ /京都府出身。埼玉県杉戸町在住。玄米食によって崩した体調が改善して以降、自然食や農業に興味を持つようになる。杉戸町に移住後、オーガニックな米作りを学ぶ過程で、様々なジャンルの研究者の方々の影響を受け、作物の収量、品質が向上。現在は様々な地域で、農業に関わるサポートやアドバイザーも務めている。
アールキューブエコ
facebook>https://bit.ly/3kPs8pO
Instagram>https://www.instagram.com/r_cube_eco/
「運営者の金田さんとは、生きもの認証推進協会 代表の林 鷹央さんのつながりでご縁をいただいたんです。ものすごい勉強家で、とても良い刺激を受けていますし、色々お付き合いさせていただいています」(網本さん)
日本の農業の現状は非常に厳しい中、有機をがむしゃらにやってきた網本さんは、農地が草だらけになって、収量が全く上がらない時期が6年間あった。
そして、NPO法人 民間稲作研究所の稲葉 光圀 *1氏の講座を受けて、慣行栽培では稲が人間の都合によって機械や市場に合わせて育てられると知った。稲の生命力が犠牲になるんじゃないかと感じた。
*1 稲葉 光圀(いなば みつくに)氏 1944年~2020年/栃木県河内郡上三川町生まれ。東京教育大学農学研究科修士課程(農村経済学専攻)修了。1969年より栃木県立栃木農業高校、1971年真岡農業高校勤務。2001年退職。NPO法人民間稲作研究所代表。「環境創造型有機稲作」の普及に取り組んだ。
また、土壌分析から土の化学性を整えることを土壌分析の専門家、池上洋助氏に、有用微生物群とそのエネルギー源である電子の事なども学び、土壌と土に活きる微生物の生態系、稲を含めた農作物が本来の力を発揮すれば、農薬や除草剤への依存体質が減らしてゆけると考えるようになった。
様々な研究者の方々から教わり、自然の摂理に添って農作業技術を組み立て、地域資源を活かして稲作が難しい地域でも収量向上に
「今は、全国の有機農家の担い手のサポートやアドバイザーをさせてもらっています。2020年から土壌分析や電子水を活用したり、土壌の有用微生物群の研究をされてきた先生に教わりまして、そこからは先生の120種の菌体群を使わせていただいています」(網本さん)
その結果、日本でも稲作が難しい埼玉で画期的な結果を出すことに成功し、「この基本概念は様々な地域に応用できる」と網本さんは話す。
「当初は夫が草だらけの田んぼで草取りしていますが、有機農業を何も考えずに行うとこうなります(資料1右下写真)。
資料1:稲の生命を発揮した稲作(アールキューブエコ)より
有機をチャレンジしたい人に最もネックになっているのは、この田んぼの雑草で、稲の収量が低下する原因となるんです。
しかし、弊社は今では一度も草取りをしません。株元を見てもらったら草があまり見当たらないことが確認できると思います(資料2右上写真)」(網本さん)
色んな自然のシステムや力が稲の成長を育み、土壌のミネラルやPHのバランスを整えることで、微生物本来の役割も発揮されるようにする。
「ちまたには多くの技術力がありますが、対処療法の前に土壌のPHを整えることや、そもそも土ってどういう組成だったのかを知るところから始めると、微生物も活き地力が上がることを知りました」(網本さん)
このように、土台からのステップをしっかりと踏むことで、雑草の増殖を抑えられることにもなり、有機は「非常にやりやすくなる」という。
「このやり方がどんどん浸透していくと、有機でも慣行栽培以上に、収量を上げることができるんです。それに、有機にチャレンジしたい人たちの間口を広げる事ができるはずなんです」(網本さん)
資料2:稲の生命を発揮した稲作(アールキューブエコ)より
土壌分析は土が抱えきれないほどのたい肥や肥料が飽和状態にならないよう、適切な施肥設計にもつながる
土壌分析の円グラフを見て欲しい(資料3)。実測実線が塩基ミネラル、カルシウムやカリウムやマグネシウムのバランスや色んな要素の上限である実線を遥かに超えていることが分かる。
現代の日本の農業はこのように、土が過剰状態になっていることも多く見られる。しかも、土壌が成分過多の状態で植物を育てると、作物はまるで痩せた土であるかのような症状をみせるという。
「症状だけを見ると、農家さんは『栄養が足りない』と誤解するでしょう。現実は成分・養分が多すぎるから作物が吸収できてない状態にもかかわらず、過剰な施肥設計につながりかねないのです。
さらに深刻なのは、排水や大雨、台風で、土が抱えきれない余剰な成分が溢れ出て、結果として河川や海洋汚染という非常に矛盾を抱えた状態になっているんです」(網本さん)
資料3:稲の生命を発揮した稲作(アールキューブエコ)より
この事態を避けるために土壌分析を活かして減肥をし、過剰な施肥設計を避け、微生物の生態系で地力を上げて、植物が元々あった力を発揮できる栽培方法を積み重ねる。
自然のメカニズムに添った農業をどれだけ取り入れるかで地球環境が変わり、できた作物が地域の人にとって栄養価が豊かな美味しいモノへ変化していくのだろう。
稲刈り後の夕暮れ(網本さん撮影)
微生物群が活きづく土で育った作物を食から摂り入れることが、結果として腸内環境を整える事につながる
網本さんは、腸内環境のことを考えるなら玄米をよく噛んで食べることだという。網本さんのお米を注文される方も6割が玄米を購入している。どのようにすれば玄米をもっと美味しく食べることができるのかも教えてくれた。
メルシーマルシェでは、玄米には炊いたときの香ばしさがあるが、ひと手間加えて黒米や小豆を入れて炊き込んで、三日ほど保温すれば発酵玄米にするのがオススメだという(下の動画)。見た目は赤飯そのもの。食感もモチモチ感が出て腹持ちも良くなる。
「玄米の胚芽の部分には微生物を蓄える働きがあるんだそう。胚芽を除かずに、玄米のまま食べることで、食べ物からも微生物を身体に取り入れることで、腸内環境を整えることができると良いですよね」(網本さん)
例えば、ほうれん草の根元ごと調理するとき、綺麗に洗いきることができないが、そこに含まれる微生物が勝手に菌活をしてくれる。今は土壌の微生物生態系が貧相なことが多く、菌体を取り入れられないから、腸内環境が悪くなるのだそうだ。
人間と土の間で微生物や水の循環を作ることが人にも環境にも優しい形を作るためのキーワードになる
お米の素材を余すことなくいただく。でもそれだけに留まらず、お米のもみ殻も稲作に活用することで、栄養を取り入れることができると網本さんは話す。
「最近は、厄介ものとして田んぼの外に出してしまうことが多いもみ殻は、ケイ酸が多く含まれています。ただ、もみ殻を田んぼに戻さないことで、近年土壌に含まれるケイ酸が減少しており、作物が土壌から吸収して我々の身体に入るはずのケイ酸も不足してきているそうなんです。
人間にとって髪や爪だったり、細胞壁、内蔵、あと血管壁などにとって大事なケイ酸は、自分の体では生成できないので、食事から取る必要があるんです」(網本さん)
ただ単にもみ殻を土に戻せばいいのではない。「御礼肥」の言葉があるように、私たち人間がしっかり手を加えて発酵させて土に戻すことが必要だと網本さんは話す。
もみ殻に限らず、人間と土の間で微生物や水の循環を作ることで土が活きてくる。昔は当たり前に利用されていた肥溜がそうである。かつての人たちは田や畑にいる微生物をうまく体内に取り入れていたことで、免疫をもっていたのだが、今では昔のような仕組みに戻すのは難しい。
「菌体と作物やヒトの関係は、協働・共存しているはずが、現代ではそういった循環がブチブチと切られている状態だと思います。
古き時代のような循環が再生するのかと思った時に、やっぱり農業で出来ることはたくさんある。人にも環境にも優しい循環型社会を創るための一つのキーワードではないかと思います」(網本さん)
農業体験に参加することで、農業の魅力を知って発信してもらうことが、一次産業や形ある産業を底上げすることになる
そんな大事なことは、情報発信で伝えていくことだ。網本さんは美大出身の経験を活かし、「田んぼ便り」というニュースを毎月発行。お米購入者にも一緒に折込みとして送っている。
インターネットの主流時代。このような成果物が、幅広い年齢層に魅力を訴えることができるのだ。そこから農業を知ってもらうきっかけができると、田んぼに行ってみたいと思うようになるのではないか。
そしてそういう人達が実際に土に触れて農業体験に参加することで、農業の魅力を知り、もっともっと若い人達に知ってもらえるはず。
「私は農業体験のイベントを20年弱続けているんですが、親子連れの参加者も多くて。その中でイベントに参加してくれたお子さんのお母さんから手紙をもらったことがとても嬉しかったことがあって」(網本さん)
コロナ前の稲刈り(杉戸町)
お子さんの学校の授業で1年で最も印象に残ったことを絵にかく授業があったそうで、学校行事もたくさんある中、『農業体験で田植えに行ったこと』を書いてくれたんです」(網本さん)
今の世の中、バーチャルで数字を右から左へ動かすだけの産業になる中で、一次産業や形ある産業が廃れていくと国力にも影響してくるのではないか。
その中で、農業を通した原体験のある子どもたちが大きくなった時に、これからの世の中に可能性のある有機農業という選択肢を選んだ人たちにとって、技術指導でも受け皿になりたいと網本さんは話す。そして、今後新たな挑戦を聞くことができた。
「高知県の四万十川の清らかな清流を取り戻すために東京の仲間が現地に移住しました。彼と四万十そのものをブランド化し、オーガニックを通して、甦った生態系を見てもらいながら魅力のある四万十を農業から創っていくプランに私たち夫婦も参画してアドバイザーを担っています。
そのようにオーガニックに関することが分かる拠点を都道府県に1つずつ置いて、ハブとなる農家さんがいる形を作って、農業体験や物販を緩い形でネットワーク化していきたいです。
そうすることで、作物を送料をかけずに各家庭に届けることにもつながるかと思いますので、金田さんとも一緒に活動を盛り上げていきたいですね」(網本さん)
\網本さんのお米が買える購入サイトはこちらから/
編集後記
土壌の役割をしっかり理解したうえで、農作物の本来持っている能力を最大限に活かすことで、結果として私たち人間が健康体でいられる環境を大切にする網本さん。難しいと言われてきたオーガニック農法をこれから農に関わりたい人へそのノウハウを提供することが、明るく、かつ、人間が健康でいられる未来を創っていくことになるんだと改めて思いました。
そんな自分も、今では網本さんの玄米食を取り入れるために毎月購入させていただいています。みなさんにも是非、オススメしたいです。これからもMerci Marcheを応援していきます!
企画・制作:NAKANO TAKAYUKI
町おこしロケーションタイムス創設者。
写真や映像を通じて地域を発信し、地域と地域を結び、人と人を繋ぐ活動を展開。
【取材データ】
2021.05.29 オンライン
【監修・取材協力・資料提供】
・ビオファーマシー 代表 金田 恵美様
・有限会社 アールキューブエコ 網本 朝香 様
取材にご協力いただきました関係各諸機関のほか、関係各位に厚く御礼申し上げます。