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ものづくりに関わる人が集うことでまちの個性や魅力を創造する
〜地域住民目線でのプロモーションの先に見えるものとは〜

北海道夕張市

今回は菅原 もと代さんに
お話を伺いました
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菅原 もと代(すがわら もとよ)さん:monehouse 代表

夕張市出身。高校卒業後、夕張を離れ奈良の保育専門学校を経て鹿児島で保育士として就職。その後夕張に戻り、monehouseを開業。夕張の魅力を伝えるTシャツを制作。旧夕張駅で夕張のものを売るお店・Yubari Crafts&Goodsに携わり、夕張の作り手をつなげている。

「夕張市」と聞くと皆さんはどんなイメージを持ちますか?夕張メロン、炭鉱。多くの人がこのキーワードを思い浮かべるのではないでしょうか。

そんな夕張のまちで「ものづくり」に携わる人同士をつなげ、「ひとづくり」をしながら、人の魅力を通じて地域を盛り上げようとしているのがmonehouse代表・菅原もと代さんです。


菅原さんは、閉校となった母校の教室を作業スペースとして活用。自身でも夕張の魅力が詰まったTシャツを手刷りし、「新たなまちのイメージを作りたい」とエネルギッシュに活動されています。


また、夕張のものを売るお店Yubari Crafts&Goodsの活動を通して夕張の作り手同士をつなげています。本記事では、弊社スタッフの佐々木が菅原さんの地域を大切に思う気持ちを伺いました。


故郷を離れた場所でたどり着いたターニングポイントから変わっていった菅原さんの想いとは。

地域愛の強さと保育士の仕事を通して得たチャレンジ精神が故郷の原点に立ち返るきっかけに


高校時代まで地元の夕張で過ごした菅原さんは、奈良の保育の専門学校に進学した。当時の菅原さんは、夕張を出られることに喜びを感じていた。


「元々私は夕張に残りたくなかったし、北海道にも残りたくなかったんです。当時は夕張がこんなに魅力溢れる地域だとは、全く思っていませんでした」(菅原さん


そんな菅原さんが、ふるさとを見直す原点となった場所が、専門学校卒業後に住んだ鹿児島。そこでの出来事が彼女に衝撃を与えたという。



「夕張とはまちの歴史や食文化が違うのは当然のことですが、何よりもカルチャーショックだったのは、鹿児島の人が地域・土地に対する愛が強かったことです。それは、九州の他の地域の人から見ても分かるほどの地域愛の強さだそうです。


自分のまちが大好きという考え方に、とても驚きました。就職した鹿児島の保育園は子どもが大人に対してとても人懐っこかったんです。人の気質の違いは、どういったところからくるのか興味が湧きました」(菅原さん


それまでは、故郷である夕張に関心が向かなかった菅原さんが、鹿児島まで地元が知られていることを知ってさらに衝撃を受けた。


「鹿児島の人は夕張のことを知らないと思っていましたが、夕張出身であることを話すと”夕張メロンが有名”だと皆が知っていて、びっくりしました」(菅原さん


元気で人懐っこい子どもたちに囲まれ、楽しく保育の仕事をする菅原さん。受け持った生徒たちの成長が、夕張にUターンするきっかけとなったと語る。


「当時の私は何かに一生懸命チャレンジするのが恥ずかしいと感じる人間でした。ただ、子どもたちに”頑張れ!頑張ればできる!”と私が応援し、子どもたちがみるみるできるようになっていったんです。それなら自分も、成功するかは分からないけどチャレンジした方が良いと思いました」(菅原さん


“夕張メロンはなぜこんなにも有名なのか。なぜ自分は夕張のことを知らないのか?”その疑問を解決するべく、鹿児島で受け持った園児さんが卒園するタイミングで、菅原さんは夕張に戻ることを決意。その後気になっていた夕張メロン農家さんでアルバイトをすることとなる。


普段見慣れた農家の仕事に飛び込み、地域に共通する当事者意識に触れることで農に携わる人のカッコよさを知る


夕張に戻り、半年間夕張メロン農家のもとで仕事をした菅原さんは、そこで農業のイメージが覆されたのだそうだ。



「年配の方も多い農家さんから言われた中で印象に残っているのは『農業は外から見たら汚くてかっこ悪いだろ?だけど菅原さん。農業って博打みたいなもんなんだよ』という言葉です。ハウス一つ作るのにも100万円単位で掛かります。順調に良く育つときは多く売れますが、例えば、一つの苗に病気が発生したら一棟のハウスが全滅することもある、雨や自然災害などでも甚大な被害になります。


自然を相手に、経験と予測に基づき、それでも予測不能な自然を相手に腹をくくって農業に向き合う生産者さんを心底カッコいいと感じました。また、アルバイト先の奥さんが「私たち普段は仲が良いのに、メロンを作ることに関しては夫婦喧嘩になるのよ」と笑って話す姿には、お二人の仕事に真剣に向き合う姿勢を感じました」(菅原さん


仕事中はいくつもあるハウスを動き回り、ベテランの出面(でめん)*1さんも含め、皆さんパワフルに効率よく働かれていて驚いたという。農業の世界を自分の目で見てみて”こんなに手間暇かけてお金もこんなに掛かるんだ。”と、気づくことができたそうだ。普段見慣れた当たり前の農業の世界に飛び込んだことで、夕張の知らなかった世界を体験。そこで得たものは農に携わる人のカッコよさだった。


*1 出面

出面とは、建設工事現場に出た労働者(鳶をはじめとする大工・左官など職種別労働者を含む)の一日当たりの人数のことをいう北海道では、農作業の仕事の手伝いをしてくれるおばさんを出面さんともいう(出典:建設ITnavi


求めるべきはシビックプライド。まちを離れて俯瞰して学んだからこそできることにチャレンジ


故郷から少しでも離れたかった菅原さんの価値観は、まちのブランド品の原点である「農」を通して変わっていく。夕張に戻って気づいた「まちのプロモーションができる部分」を聞いてみた。


「私にとって一番の気づきは夕張の人は地域愛がとても深かったことです。この前、夕張で市内の飲食店さんに協力を得て子ども食堂を開催した時、50年以上喫茶店を経営している方が『昔はこうだったんだ』と夕張の昔話を1時間以上してくれたんです。その時の活き活きとした表情を見ると、夕張が好きなんだと実感しました」(菅原さん


夕張を愛する人たちに影響を受け、もっとまちを知ってもらえる取り組みをしたいと話す姿は臨場感にあふれ、まちに暮らす人を誇りに思う様子が伝わってくる。


「自分のふるさとが衰退し、統合される話もありました。やむを得ないでしょうが、それならばたくさんの人にまちをもっと知ってもらって足を運んで欲しいと思うようになったんです。夕張メロンは売れる時期が決まっているのに対して、観光グッズなら年中ずっとあるものですし、それらを作ろうと思い立ちました」(菅原さん



夕張に興味を持つきっかけとなるようなワード「好き」「カッコいい」 「かわいい」が浮かぶような観光グッズのひとつとして菅原さんが興味のあったデザインの分野を活かせるものとして、Tシャツを作り始めた。


閉校となった小学校が、ものづくりをする作家たちで教室をシェアされることで、まちのプロモーションとブランディングを担うことに


その後、菅原さんは手作りのTシャツを販売する「monehouse」を立ち上げる。炭鉱や夕張メロンなど、まちをモチーフにしたTシャツを作り始めた菅原さんは、自らの理想を具現化していく。


2019年にまちに走っていた主要鉄道が廃止になったタイミングで作ったTシャツは、こだわりのシルクスクリーンを用いて制作。2022年、リニューアルした道の駅にTシャツを置くことになった。


Uターンした菅原さんにも心境の変化が訪れたのは、今は閉校となったかつての母校でもある小学校が工房となったこと。ここからさらに地域活動を進めていくことになる。



作業をしていて一番癒されるのが自然で、その環境がすぐ目の前にあることは凄く贅沢なことだと思っています。ぼーっと外を見ていることが、こんなにもリラックスできるのは自然があるからで、夕張が、そして北海道が良いところだと改めて思えるようになりました」(菅原さん


菅原さん以外にも、夕張でものづくりをする方々のスペースを教室ごとにシェアすることで、閉校となった小学校が息を吹き返した。


「私が作業する隣の部屋を、夕張駅近くで営業していた作家さんのお店に改装。さらに隣の部屋では、知り合った作家さんが部屋を借りて制作場所にしていたり、2階のアトリエではワークショップをされる人もいるんです」(菅原さん


菅原さんの周りに集まるものづくりに携わる人たち。その人たちが関わり合うことで刺激が生まれ、未来の過程で新たなコトが創発されていくに違いない。


菅原さんは自身のTシャツ作りだけにとどまらず、夕張のものづくりに携わる人の中間支援を行っている。それが夕張のまちの人が作ったものを売るお店「Yubari Crafts&Goods」である。


「地域鉄道の廃止前、当時の夕張駅は案内センターが閉まっていたのですが、駅待合室としての機能も担っていたので多くの人が利用していました。ですからここでお店ができればいいなと思っていたんです。


ちょうどそのタイミングで、夕張でものづくりをする人たちが並ぶマーケットが開催され、夕張に作り手さんがたくさんいることを知りました。そこで、駅の管理者の方ともご縁をいただき、ここで商品を販売したいと話しました」(菅原さん


「活き活きと生活している人、それこそがまちの魅力」菅原さんの思う夕張の魅力だ。


ものづくりを行う作家の誰もができるまちのプロモーションが、結果として活き活きと暮らしてこのまちをずっと誇れる場所に育てる


おこがましくも夕張市に人口を増やしたかったと訴える菅原さん。そのために何が良いか考えた結果、まちに住みながら活き活きと生活していることで、結果的にこのまちがずっと誇れる場所になって、それがまちの魅力にもつながるはずだという。


ものづくりをしている作家たちは、今までまちのプロモーションをやったことない人たちだったが、作るものはクオリティがとても高い。


彼ら彼女らにとっては趣味かもしれないが、作品が売れれば個々の誇りも強くなり、自分自身にも魅力を感じるはず。それはそこに作り手がいる限りどのまちでもできる。だからこそものづくりをやればやるほど、夕張のお土産としてまちをプロモーションする手段となって、新たなまちの価値も創造できるのではないか。


「どこでも買えるものかも知れないけど ”夕張で制作したお土産です”と言えば、それをきっかけに誰かとつながったりするかもしれない。


たまたま知り合いの飲食店の人に頼まれて、編み物が得意な保育士の先生が作ったメロンの形のニット帽子を商品として販売したら、飛ぶように売れたんです。冬に夕張のスキー場に来た人が”誰かが被っているのを見た”と言われるぐらい広まっていました」(菅原さん



夕張のものづくりをテーマにつながりの環を広げる「Yubari Crafts&Goods」。今ではSNSを通じてものづくりなどまちの発信を続けている。大切にしていることは”ものすごく笑顔で、会話が生まれるこのタイミング、夕張で起きたぞ!”と伝えたくて撮ることで、これには菅原さんも手ごたえを感じている。


そして忘れてはならないのは、掲載されるまちに訪れる人たちの表情だ。本当の笑顔とは作るものではなくこぼれだすもの。それがまちを訪れる全ての人たちから自然にあふれているのだ。



「財政破綻した時の報道では、シャッター街や杖をついて腰を曲げて歩くお年寄りのイメージが流れていましたが、実際夕張に来たらびっくりするぐらい高齢者の方は元気です。建物は老築して悲惨に見えるかもしれませんが、その中にいる人のポテンシャルの高さは計り知れません。私たちが活動していることを通してそういうところを地域内外に広く伝えていけたらと思います」(菅原さん


その人らしい"まちと関わるきっかけ"を見い出すことが、まちを楽しむ場づくりの裾野を広げていく


Yubari Crafts&Goodsを通して関わっている人たちが今、店構えや売り方などプロ並みに変わっている。まちの中にはそんな担い手はまだまだたくさんいると実感していて、持続可能な活動にしていきたいと菅原さんは語気を強め、関わっている誰もが”楽しい!次はこうしたい!”と協働できるよう伴走していきたいと意気込む。


取材時、最初から最後までエネルギッシュな菅原さん。そんな菅原さんに、夕張に興味を持つ人へのメッセージで締めくくりをお願いした。


私ができるのは”きっかけづくり”でしかありません。夕張に興味を持つきっかけは多様性があってどこにあるか分かりません。夕張メロンだけしか知らない人がTシャツを知り、そこから夕張のことを調べたらカレーそばが有名だと知る。それなら食べに行ってみよう、と興味を持つきっかけをづくりをしてまちとの関わりしろを築いてほしいです。


関わりしろを深めて夕張に移住してくる人もたくさん出てきてほしい!あなただけのつながるきっかけはたくさんあるはずですので気になったら足を運んで下さい」(菅原さん


地域愛、夕張の人への愛に溢れた菅原さんなら、きっと夕張を活気付けるだけでなくレピュテーションを高めてくれるに違いない。




結び-Ending-

夕張のことが大っ嫌いだった菅原さん。そんな菅原さんが今や夕張の未来に想いを馳せている。まちに興味を持ったり、まちで活動するきっかけはどこにあるのか分からないな、と思いました。菅原さん自身も「まちのことに携わるなんて思っていなかった」と振り返ります。


でも、ふと気づいた時に行動をしてみる、そんな些細なきっかけが人を、まちを動かしていくのかもしれません。


「なぜだろう?行ってみたい」そんな純粋な心を大事にしてみてはいかがでしょうか。僕もこれをきっかけに夕張を訪れてみようと思います。

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■企画・著作
佐々木 将人 (Masato Sasaki)
就職を機に兵庫県から北海道に移住した社会人2年目。人好きで、人×地域をテーマにした記事制作が得意。

【取材データ】
2022.07.25 オンライン取材
ライティングアドバイザー:北嶋 夏奈
【監修・取材協力】
monehouse
・菅原 もと代 様
取材にご協力いただきました関係各諸機関のほか、関係各位に厚く御礼申し上げます。