何もない贅沢が美しい自然環境と豊かな営みを見い出すカタチ ~森の暮らしに触れながら、ワ―ケーションができるカフェ&ゲストハウスとは~
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何もない贅沢が美しい自然環境と豊かな営みを見い出すカタチ
~森の暮らしに触れながら、ワ―ケーションができるカフェ&ゲストハウスとは~

北海道遠軽町(白滝地区)

今回は杉山大輔さん、杉山智恵さんに
お話を伺いました
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コロナ禍の影響で働く場所を選択できるようになった中で、注目されるようになったワ―ケーションですが、その場所に悩む人も多いのではないでしょうか。


本記事では、大阪府から森に囲まれた地域である北海道紋別郡遠軽町・白滝地区に移住し、2022年4月にカフェ&ゲストハウスの開業に向けて活動されている杉山 大輔さん(合同会社 北大雪ファーム)と杉山 智恵さん(北海道遠軽町役場 地域おこし協力隊:2022年3月現在)ご夫妻と、空き家の利活用に対して情報収集や研究をされている弊社インターン、平野彩音さんによる三人のトークをお届け。


「何もない贅沢が味わえる」と語る、杉山さんご夫妻の「森に囲まれた暮らし」から生まれる同町内、旧白滝地区でのカフェ&ゲストハウス開業の背景に迫ります。

​机上の空論ではなく、実践するための就農が「観光と農業を結び付ける」一つのテーマに農業の多様化を訴える


平野(モデレーター:以下、省略):本日はよろしくお願いいたします。まずは自己紹介と、現在の取り組みについて教えてください。 杉山 大輔さん(以下、苗字敬称略):現在は、遠軽町白滝で農業を営みながら、内閣府のテレワーク交付金を活用し、4月にカフェとゲストハウス開業に向けて動いています。 こうして北海道に移住・就農がしたいと思ったのも、前職で観光と農業の結びつきを一つのテーマにして働いていたからです。それを机上の空論ではなく、実践するために就農しました。 杉山 智恵さん(以下、苗字敬称略):遠軽町役場の地域おこし協力隊として、白滝地区を中心とした情報発信をしています。人が好きで、写真が得意分野でもあることから、前職は子供写真館でカメラマンをしていました。 現職員就任時に「よそ者視点から見たまちを情報発信しつつ、写真を撮って欲しい」という話をいただきました。


写真左>杉山 大輔(すぎやま だいすけ)さん:合同会社 北大雪ファーム 代表社員/大阪府出身。2019年に北海道遠軽町白滝地区に移住し就農。2021年に独立し、ビート、加工用のとうもろこしなどを栽培している。2022年4月、内閣テレワーク交付金を活用してカフェ&ゲストハウス「森の暮らし」を開業予定。

写真右>杉山 智恵(すぎやま ちえ)さん:北海道遠軽町役場 地域おこし協力隊>2022年3月現在/大阪府出身。2019年に総務省の地域おこし協力隊制度を活用して北海道遠軽町白滝地区へ移住。役場での地域活動を行いながら、夫と新規就農に向けて取り組んでいる。得意分野である写真を通じてSNSや広報により地域の情報発信も行っている。

Instagram>https://www.instagram.com/morinokurashi.2022/


智恵:そのような経緯から写真・動画共有を主体とするSNSに投稿を始めました。北海道や遠軽町に来てみたい方や農業に興味のある人を巻き込んで、欲を言えば私たちのファンづくりもしたいと思っています。

具体的には北海道初心者で、かつ農業初心者の私が楽しんでいる様子を発信することで、共感を得ることを目標に活動しています。私たちが愛する白滝に関わる人が増えたらいいなと思っています。

平野:杉山さんご夫婦が移住を望まれたきっかけは何だったのでしょうか?



平野 彩音(ひらの あやね):大正大学 地域創生学部2年 町おこしロケーションタイムス インターン/三重県松阪市飯高町出身。三重県立飯南高等学校在学中に空き家片付けプロジェクトなどに取り組み、卒業後も地域と関わりを続けて空き家問題などの地域課題に取り組んでおり、その活動が注目され、「地域人(地域構想研究所 地域人)71号」で取り上げられる。最近は地域の特産品に関わる仕事にも携わるほか、web「空き家活用特集」での情報発信も行いながら、町おこしロケーションタイムスの空き家に関わるプロジェクトに参画中。


大輔:前職の観光業と、農業の結びつけをしたかったのです。農業というと、農作物から収入を得るのが一般的ですが、農業をもっと多様化したいと考えていたので、そのためにまずは自分で始めてみようと思いました。

大規模農業を志望していたので、土地が広い北海道に決めました。就農する農地は農業を始めたい人と、経営を委譲したい農家さんとをマッチングする機能を持つ公益財団法人北海道農業公社のサイトから探しました。

サイトには農地の大きさ、売り上げ規模が一覧になっているので、自分の目指すべき経営規模の大きさを考えて、遠軽町農業担い手対策協議会へ相談をしました。

そして、遠軽町の農家の方の農地を2年間の修行の過程を経て引き継ぐことになり、2021年に独立をしました。そこにたどり着くまでは、大阪や東京で開催されていた全国の自治団体と交流する農業フェアに行って情報を集めていました。



平野:都会から地域に移住を決められたきっかけは何だったのですか? 大輔:きっかけは二つあります。一つは地域での暮らしに興味があったこと。もう一つは、大阪の都会のサービスを使いきれていなかったので、何もないところに行ってもさほど困らないと思ったことです。 僕は仕事を辞めてからその後のことを考えました。サラリーマンをやりながら深く考える時間がなかったので。退路を断てば必死になりますから。 智恵:私は大阪といっても都市部から離れた自然豊かなまちに住んでいました。その影響からか、都会に住みたい希望は一切なく、静かなところで好きな写真が撮れて、好きな人たちに囲まれて暮らしたいと思っていました。同じ地球だし、両親には会えるし、連絡も取れるじゃないですか。


移住者に寄り添い、親身になって接してくれる風土が根付いていることが成功者を生み出す


平野:お住まいになられている旧白滝地区についてお話しいただけますか? 智恵:旧白滝地区は、白滝地区の中でも人口が少ない9世帯の地区です。静かな環境が魅力的で、人に会うよりも野生動物に会う確率の方が高いです。でも高規格幹線道路も通っているし、列車もバスも通っているので生活には困りません。 田舎暮らしや、観光地ではないリアルな北海道の生活がしたい人にとっては本当に素敵な場所なので、私たち夫婦はとても気に入っています。



平野:私の地元、三重県松阪市飯高町も人口が少ないまちなのですが、そのようなまちは人があたたかいイメージがあります。白滝もそのような場所ですか?

智恵:そうですね。地域の方は「大丈夫かい?」と、よく声をかけてくださるんです。私が風邪をひこうものなら電話をくださり、雪が降ろうものなら心配して来てくださいます。「北海道には第二第三の親がたくさんいる」そう思える場所ですね。

平野:白滝地区に移住されて3年目ですが、移住された当初と現在の想いについて、心境の変化をお伺いできますか?

大輔:3年間住んでようやく地域の特色や環境が理解できるようになり、親方から農地を引き継いで独立することができました。

次のフェーズでは、地域のためになることをしたいと思っています。前職の旅行会社での知見も活かしながら、何か地域に貢献できることをゲストハウスとカフェを開業させることを通じて実践することにしました。

地域の人がほっと一息つける場所や、観光している人が立ち寄れる場所になったらいいなと。また、お店があることによって、少しでも地域にお金が落ちる仕組みになればと思っています。


譲渡元農家の親方たちと北大雪ファームのメンバー


平野:地域の特色を知る上で工夫したことはありますか? 大輔:僕はほとんど畑仕事をしているのですが、妻が役場の立場として地域の人との人脈を築いてくれているので、すごく助かっています。 智恵:よそ者が入ってくると警戒する地域も実際にあります。でも、白滝はよそ者が入ってきても「あいつ誰だ」と排他性がなかったため、10年、20年前に移住されてきた方々はここで成功している人ばかりなんです。 「また新しい人が来たから受け入れていこう」「ここに住んでくれるから助けていこう」と、伴走する風土が根付いている地域なんです。


農業の多様化させ、体験を通じたサービスや観光業の知見を活かし、国の予算も取り入れて地域が盛り上がる仕組みを


平野:近年、農業参画者が増加しています。大輔さんが考えている農業の将来におけるビジョンはありますか? 大輔:農業をきっかけにさまざまな取り組みで地域が盛り上がる仕組みができると思うんです。農地があって農作物を植え付けるだけが今までの農業でしたが、都市部の人には農業景観が非日常的に映るんです。 例えば休みの日に農地に来て、子どもたちに農業体験をさせたい人や、トラクターに乗ってみたい人、また、作物を収穫したい人もいるんです。自分で作ったものを人に売るだけではなく、体験を通じたサービスが収入源の一つにもできると考えており、農業の多様化を非常に重視しています。



平野:白滝地区の冬季は厳しい自然環境だと思います。そんな中でも地域資源の活用方法はあるのでしょうか? 大輔:北海道の冬の観光は下火になっているんですが、僕はチャンスだと捉えています。4月に開業予定のゲストハウス&カフェは年中オープンできます。トラクターを使って巨大なかまくらを作ったりと冬ならではの面白い過ごし方を提案したいですね。 平野:内閣府のテレワーク交付金を活用し、旧白滝小学校跡地をカフェ&ゲストハウスとして活用するお話をお伺いできますか? 大輔:もともと僕は観光業をやっていたので宿泊業に興味があったこと、夫婦ともにコーヒーが好きだったこともあり、カフェでくつろぎながら働くことや、畑で農業体験をすることは、ゲストハウスやカフェと親和性が高いと思い、ぜひやってみたいと思ったんです。 今やっている農業も継続しながら、好きなこともできるカフェ&ゲストハウスをテレワーク交付金を活用して始めることにしました。 平野:開業を決めたとき、地域の方の反応はどうだったのですか? 大輔:役場の方は特に協力的でしたね。任期が終わる3年後、まちとして何ができるかを一緒に考えて妻が役場の方とコミュニケーションを取っていたことは大きいですね。 役場としても外部の風を入れたかったんだと思います。よそ者視点だからこそ起こせる可能性を見て声を掛けてくださったと。 平野:ゲストハウスを開く場所が廃校の旧白滝小学校ですが、空き家などの選択肢はなかったのですか? 大輔:自分がやっていた畑が近かったこともありますが、もともとそこに住んでいた人がまちから出るため譲っていただいたお話が大きかったです。このように、普通は不動産屋で土地の話をするのですが、まちの人伝いで紹介されるのは地域ならではと思います。 平野:小学校の跡地はリノベーションが必要でしたか? 大輔:最初はリノベーションを考えていたのですが、建物の老朽化も考えられ、経費面でも基礎を補強する必要があることから、グラウンドに新しくカフェとゲストハウスを作ることにしました。


コワーキングスペースではない、玄関を開ければ四季折々の風景が広がるセカンドハウスを持つ感覚を味わえる宿「森の暮らし」


平野:カフェやゲストハウスのコンセプト・ターゲットを教えてください。 大輔:テレワーク交付金の助成を受ける際、どういったことに使おうか悩みましたが、コワーキングスペースにはしたくなかったんです。森の空気を壊さないような、森にひっそりと佇む喫茶店も併設し、屋号も「森の暮らし」にしたのです。 農業の体験を織り交ぜながら、テレワークでご自身の仕事をしながら自由に過ごしていただくことをコンセプトに、僕らが体現している森の暮らしに共感できる人に来て欲しいです。 智恵:近年は、生き方が選べる時代になりました。パソコン1台あれば、好きな時に好きな場所で仕事ができる時代になったからこそ、「森で仕事をしよう」という選択肢ができたらいいですね。


写真左上>宿から見える雪景色、写真左下>宿建設予定の旧白滝小学校跡地、写真右上>真っ白なジャガイモの花が咲く畑に囲まれた杉山さん夫妻、写真右下>建設中の宿


平野:ありがとうございます。最後に、まちに興味を抱く人へ向けて、メッセージをお願いします。 大輔:自然に囲まれて暮らすことはとても素晴らしいですよ。僕たちは大阪出身なんでまちにサービスが飽和状態でうまく活用できておりませんでした。だから白滝に来て、「何もないことって、すごく贅沢」だと思ったんです。 もちろん不便なことはあります。でも、今はインターネットがつながっていれば、買い物ができたりします。そうやって物質的なものはカバーできるので、何もないところを探すのが逆に難しい時代になっています。 智恵:何もないところですが、玄関の扉を開けて外に出たらジャガイモの真っ白な花が咲いていたり、四季折々違う畑の景観が見られます。森や野生動物に囲まれ、木々の揺れる音や雪の降る音、シカの歩く音を聞きながら静かに過ごせる場所が白滝です。 その場所に宿を建てて火を灯し、暖炉を置いたりと、優しい空間を創りながら静かな空気を守っていきます。 移住や北海道に興味がある人、1泊2日で農業を体験してみたい人は、北海道にセカンドハウスを持つ感覚で遊びに来てくれたらとても嬉しいです。ゲストハウス「森の暮らし」の今後の動向に注目してくださると幸いです。



結び-Ending-

僕は就職を機に関西から北海道に移住した社会人2年目。地域への移住に興味はありますが、勇気が出ずに都会の札幌に住んでいます。


杉山さんご夫妻は仕事を辞めて移住を決めたからこそ、まちも本腰を入れて手伝ってくれたそうです。今の仕事、都会を捨て、並々ならぬ思いを持って移住をされた杉山さんご夫妻なら、きっと移住に迷いがある人の力になってくれると思いました。


「何もない贅沢」が味わえるカフェ&ゲストハウス。開業がとても楽しみです!

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■企画・著作
佐々木 将人 (Masato Sasaki)
就職を機に兵庫県から北海道に移住した社会人2年目。人好きで、人×地域をテーマにした記事制作が得意。

【取材データ】
2022.1.24 オンライン取材
【監修・取材協力】
・遠軽町役場
​・杉山 智恵様
・杉山 大輔様
【企画コーディネーター】
・北嶋 夏奈

取材にご協力いただきました関係各諸機関のほか、関係各位に厚く御礼申し上げます。

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