​今回は今川 和哉さんに
お話を伺いました
093A2435.JPG

増え続ける所有者不明土地問題でできること
~まちになかった不動産会社を立ち上げ
未来を見据える姿~

北海道夕張市

北海道夕張市が「衰退した原因」は何でしょうか?その答えは「観光事業に失敗したことではなく、北海道の石炭産業の歴史を築き、夕張の盛衰とも密接に関わってきた北海道炭礦汽船(以下、北炭)の膨大な借金を市が肩代わりしたこと」にあります。


炭鉱を主要産業に、北海道で人口6番目の都市として栄えた夕張市。しかし、炭鉱産業が衰退し、かつて使用していた建物が空き物件として数多く放置されています。


本記事では、増え続ける所有者不明土地問題でできることをテーマにその夕張市の今川和哉さん(夕張開発株式会社 代表取締役/司法書士・行政書士いまがわ事務所 代表/夕張市議会議員)と、弊社インターンによるトークをお届け。


夕張市でまちになかった不動産会社を立ち上げ、増え続けている空き物件問題に果敢に挑戦し、未来を見据える姿に迫ります。

司法書士の実務経験を活かして長年、空白地帯だった地域に飛び込み、本当に困っている人たちに寄り添うプレーヤーとして事業を創出


平野(モデレーター:以下、省略):今日はよろしくお願いいたします。まず初めに自己紹介をお願いできますか?


今川さん(以下、敬称略):夕張市で不動産会社や司法書士をしている今川 和哉と申します。札幌生まれ札幌育ち、大学も札幌でした。最初は札幌で司法書士を始め、債務整理や裁判、会社の登記をやっていました。


写真左>今川 和哉(いまがわ かずや)さん:夕張開発株式会社 代表取締役・司法書士・行政書士いまがわ事務所 代表・宅地建物取引士・夕張市議会議員/札幌市出身。夕張市唯一の不動産会社の経営にとどまらず、『司法書士・行政書士・宅地建物取引士』の専門資格の連携で、様々な不動産相続ケースに対応しながら夕張市の空き物件の処理や物件の紹介などを行う。また、まちの人口減の危機感と自分が夕張市で住居や事務所を探すのに苦労した経験から市議会議員に立候補し、平成27年の統一地方選挙にて初当選。平成31年の統一地方選挙にて再選、現在市議会議員2期目。


平野:なぜ夕張市で事業を始めようと思ったのでしょうか?


写真右>平野 彩音(ひらの あやね):大正大学 地域創生学部2年 町おこしロケーションタイムス インターン/三重県松阪市飯高町出身。三重県立飯南高等学校在学中に空き家片付けプロジェクトなどに取り組み、卒業後も地域と関わりを続けて空き家問題などの地域課題に取り組んでおり、その活動が注目され、「地域人(地域構想研究所 地域人)71号」で取り上げられる。最近は地域の特産品に関わる仕事にも携わるほか、web「空き家活用特集」での情報発信も行いながら、町おこしロケーションタイムスの空き家に関わるプロジェクトに参画中。


今川:札幌は司法書士が多い地域なので、いかに業務を取ってくるか営業力が試される世界でした。ただ、実務能力よりも営業能力が評価されてしまうことが自分の思っていた専門家像と異なると感じ、独立するタイミングでこのまま札幌で司法書士を続けるか悩みました。


そんな中、夕張市は25年間司法書士がおらず、また、不動産会社もなかったため賃貸物件の取り扱いもなく、それぞれの受け皿が不足している話を耳にしました。


不動産会社や金融機関からの紹介ではなく、本当に困っている末端の依頼者から直接いろいろな業務を受けられることに専門家らしい魅力を感じ、不動産会社と司法書士事務所を開業するに至りました。


平野:札幌から夕張市に移住するときに迷いや不安はなかったのでしょうか?


今川:そうですね。あまり先入観を持たず、迷うタイプではないですね。現地でやっていけるか考えていたら夕張市には来ていなかったと思います。


石炭産業が残した地域課題から見る物件の所有者と探し手のマッチングの難しさとは


平野:なるほど。今川さんが思う夕張市はどのようなまちですか?


今川:夕張市はかつて帯広市や釧路市を超える北海道6番目の大都市でした。そこから産炭地としての役割がなくなって衰退し、人がいなくなったという全国的にもかなり特殊な街だと思います。まちとしての機能もシュリンクし、残ったコストを少ない住民で負担し合うような難しい点も多いのです。


平野:それは地域を盛り上げることや、まちづくりにおいても他の地域と違うやり方を考えていく必要があるのでしょうか?


今川全国一律の地域創生のやり方はないと思います。他の地域と違うのは、元々、主力だった石炭産業が丸々なくなったことで、例えるなら自動車産業がなくなった豊田市のような感じですね。


ですから、残された負の遺産を残された人で負担しなければならない状態でした。課題も多く、例えば衰退していった集落の維持をどうするのか。また、元々炭鉱に依存していた経済状態だったので、新たな産業創出か、それとも撤退かを選択をしなければならない状態でした。



平野:そうですか。自動車産業の例えが身近に感じられてとても重みのある言葉ですね。今川さんの夕張市での不動産事業についてお伺いできますか?


今川:夕張市の空き家や戸建てを扱える業者が少ないので、そういう相談も受けるように努力をしていますが、実際に事業として取り扱いが多いのは賃貸物件です。自分が夕張市に移住する際、住居の相談先がなくて、どこから通えばいいか悩んでいたことが大きいです。アパートの管理と仲介、転勤してきた人への住まいの提供が仕事としては多いですね。


平野:私の地元の三重県松阪市飯高町では、空き家を賃貸として出すことは少ないのですが、夕張市ではどうですか?


今川:私が一番最初に行ったのが空き家の貸家化でした。家族で転勤してくる人がいたのですが、3LDKや4LDKのアパートは夕張市にはありませんでした。家族連れに紹介できる物件がなくて困っていた時に、たまたま売買が中止になった戸建てを私が買い取って、修繕して貸し家にしました。


これまで家族連れやペットがいる人への戸建ての貸出を何件か行いましたが、戸建てとは言え家賃収入を多く得られない上、物件の修繕費もかかるなど維持管理が大変なので、なかなか広がりません


平野:つまり、戸建てでの賃貸を増やすのは難しいということでしょうか?


今川:増やすことはできるのですが、空き家でも冬は除雪の必要があり、管理コストをオーナーさんは負担しなければなりません。管理コストや家賃のことを考えると、住む人が増えるかは疑問です。


また、夕張市や他の人口減少地域でも同じだと思いますが「最初から物件を買うのはハードルが高い」と言う人が多いです。将来的に土地の値段が上がっていく地域なら、所有することのリスクも低く、購入につながるケースが多いですが、夕張市では、移住者の立場になると物件購入や(それらリスクをオーナーが負担することによる)高い賃貸物件を躊躇するというミスマッチが起きかねないので、難しいところではあります。



産炭地特有の住宅事情と物件相続放棄を勧めるワケ


平野:ありがとうございます。夕張市の産炭地特有の物件事情はありますか?


今川:昔、「北炭」が持っていたアパートや社宅を夕張市が引き取り、市営住宅にしました。そのため、民間の戸建てや民間のアパートよりも北炭関連の社宅や市営住宅といった場所に住んでいる人が多く、民間の戸建て住宅や民間の賃貸住宅が少ないのが夕張市の事情です。


また炭鉱住宅は浴室がついていないことがあるのですが、そもそも浴室付きの物件は炭鉱で働く人の中でも上流階級の人の家で、普通の鉱員住宅にはない背景や、元々浴室がついている場合は人気の高い物件になります。


今でも風呂がない市営住宅に住んでいる方はまだたくさんいますし、そのような方は地域にある公衆浴場を利用されています。しかし、そこから住民がいなくなればそのような物件は解体して建て替える形で市は動いています。



平野:ありがとうございます。夕張市では所有者が不明な土地に家を建てて、その後住民が居なくなってしまった物件があったり、相続があっても不動産価値が安くて売買が事実上できず、費用を負担してでも登記をそのままにしている物件があると聞いたのですが、そういう物件は実際どうされているのでしょうか?


今川:さわりようがない物件に関しては、夕張市では相続放棄することが多いです。司法書士の立場上、相続人がいなかったり所有者が行方不明になった物件を扱うことがあります。ただ、いざ本当にやるとなるとあらゆる面で莫大な費用がかかります。特に解体する金額の方が絶対的に高いのです。


平野:そういう物件への対策はあるのでしょうか?


今川:お客さんのことを考えたら「まちのためにやりましょう」とは言えず、「費用対効果もわからないですし、これは売れるかどうかわからないので触らない方がいいのではないですか?」と根本的な空き家問題の解決にはならないですが、相続放棄をするしかない場合もあります。


司法書士×不動産会社経営者の掛け合わせで、課題解決に向けて取り組めるまちづくり事業に


平野:夕張市の空き家、空き物件における課題は何ですか?夕張市特有の課題があれば教えていただきたいです。


今川:空き家の状態から使ってくれる人が増えれば良いのですが、土地を売って得るお金よりも、解体の費用が高くなれば空き家は歯止めがきかなくなることが多いと思います。そうなると相続放棄をする人も増えますし、崩壊するまで放置される空き家が増える悪循環が起きてしまいます。


そうなると不動産が動かず収益化もできません。課題解決のためには「土地の価格を上げるか、空き家を使える方法を考えて買う人を増やすか」のどちらかの方法しかないと思います。



平野:ありがとうございます。今後、空き物件において挑戦したいことは何かありますか?


今川相続物件をもっといろいろな地域から集めたいです。というのも、司法書士兼不動産会社の人がそんなにいないことと、相続人がいない物件の取り扱いが私はかなり多い方なんです。不動産会社が取り扱わないような相続物件の取り扱いをしていきたいと思っています。


札幌でいちばん行っていたのは債務整理関係なので、住宅ローン物件が空き家になる前、つまり住んでいる人が滞納した後も住み続けられる債務整理のやり方を考えていきたいです。


住んでいる方がそのような問題で困っている場合、住宅ローンを債務整理で解決できる物件でも不動産会社は、任意売却を勧めてお金を得ようとしますので、私は司法書士の立場で債務整理にもっていければ、司法書士と不動産会社の掛け合わせができると考えています。


課題先進地域で挑戦することよりも"地域の幸せづくり"が先決。「まちの人間になって何となく楽しむこと」がまちで楽しく暮らす秘訣


平野:まちに興味を持っている移住者や定住者の方に向けてメッセージをお願いします。


今川:夕張市はなかなか難しいまちではありますが、ここでやっていくことができればどこの地域でもやっていけると思うので、挑戦する意欲がある人はぜひ来夕(らいゆう)してまちを知っていただき、興味を持っていただくことから始めていただきたいです。


将来的に移住や起業をしたい人の相談は受けていたりしますが、、実際に移住しない人や、物件を借りたけどすぐに辞めてしまった人もいます。夕張で長続きするのはなんとなく楽しんでいる人です。「地域創生」と使命感を持ってくると現実に打ちのめされる人が多いので、地域のためではなく、本人が幸せに楽しく暮らすことがいちばんだと思います。


平野:楽しく暮らすのに、移住者定住者の相談相手がいるのも大事だと思うのですが、今川さんはどのように考えますか?


今川:自分の体感としてまちの中に入っていくのは大事ですね。最初の1,2年はまちの人たちは「すぐにいなくなってしまうのでは?」という雰囲気があります。


私も、移住して3年後にまちのことを手伝うようになったり、まちの事業者と積極的に関わるようになったり、まちの飲食店をなるべく利用したりして「そろそろまちの人間になれたかな」と思うところで、いろいろな話が来るようになりました


「まちの人間だ」と自他ともに認められる人間、つまり当事者意識を持つことが大事だと思います。また、事業の相談や不動産の相談なども、ご依頼いただければ中間支援において、まちの事業者とおつなぎできる部分もありますので、積極的に利用していただければと思います。



結び-Ending-

財政破綻をした、課題先進地域・夕張市。地域を何とかしたいと夕張市に来る人も多い中、今川さんは「住んで働くことが一番の地域貢献です」と語りました。地域の人と関係性を築き、楽しく暮らすこと。それが地域の人にとっては嬉しいのです。

難しく考えすぎず、地域で楽しむことを考えてみてはいかがでしょうか。「おせっかいな人が多く、炭鉱住宅で隣に住んでいたような人は家族みたいなものです」と今川さんが語る夕張市の人々は、きっと夕張市で楽しみたいと思うあなたのことを受け入れてくれるはずです。

佐々木さん.jpg

■企画・著作
佐々木 将人 (Masato Sasaki)
就職を機に兵庫県から北海道に移住した社会人2年目。人好きで、人×地域をテーマにした記事制作が得意。

【取材データ】
2022.2.21 オンライン取材
【監修・取材協力】
・夕張開発株式会社
今川 和哉様
【企画コーディネーター】
・北嶋 夏奈
取材にご協力いただきました関係各諸機関のほか、関係各位に厚く御礼申し上げます。