空き店舗を活用し、
地域内外から人を呼び込み人と人をつなぐ
~好きなまちで地域を盛り上げ楽しく暮らす姿とは?~
愛媛県伊予市(双海地区)
今回は上田 沙耶さんに
お話を伺いました
上田 沙耶(うえだ さや)さん:愛媛県伊予市役所 未来づくり戦略室 会見年度任用職員(地域おこし協力隊)
愛媛県出身。青山学院大学卒業。昨年より祖父母の住む愛媛県伊予市双海町へ移住。双海町の人たちに焦点を当てて紹介するローカルメディア「ふたみ図鑑*1」を立ち上げ、webだけでなく成果物としても制作。また、地域の地場産品を販売するサイト「ふたみおうち便」を立ち上げ、全国へ双海町を売り込む。また直近では、地域銀行のビジネスコンテストでシード部門(起業前)ではトップ、スタートアップ部門(起業後)を合わせても2位を獲得。地域を盛り上げるために日々奮闘中。
*1 ふたみ図鑑
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シリーズ「空き家に関わるプレーヤーたち」。今回は、愛媛県伊予市会計年度任用職員(地域おこし協力隊)の上田沙耶(うえだ さや)さんを取材。
彼女が愛する愛媛県伊予市双海町(ふたみちょう)。そこでの空き家利活用に関わる活動や移住された経緯やその他の活動内容をお届け。
今回も、大学で空き家課題などを学んでいる大正大学 地域創生学部2年の平野 彩音(ひらの あやね)さんをインターンとしてお招きし、ご意見をいただきながら弊社代表と3名で語りました。
双海町を良くするチャンスを実現するために、大学在学中に地域おこし協力隊制度を活用し、観光施策活動に地域の地場産品開発、そして、遊休施設活用に力を入れる
中野(モデレーター:以下、省略):まずは上田さんの現在の活動内容をお伺いできますか?
上田さん(以下、敬称略):今いろいろな事業をやっているのですが、1つは、ふたみおうち便という地域の地場産品をオンラインで送ったり、それに紐づいて送れる商品の開発を行なっています。他には、観光施策として双海町を満喫する周遊きっぷの開発をしています。
あとは私の祖父母がかつて経営していたお店「ポパイ」を、週末限定で喫茶店として使い始めました。また、そのお店の奥の空き部屋をリノベーションしてゲストハウスにするため準備を進めています。
中野:ありがとうございます。上田さんは大学に通いながら、卒業を待たずに双海町に来られたと伺っておりますが、その経緯を教えていただけますか?
中野 隆行(なかの たかゆき)町おこしロケーションタイムス ファウンダー/愛媛県松山市出身。地域での写真活動を機に出会った地域の人たちの素晴らしい価値観に触れたことがきっかけで、自身の好きな旅をテーマに、全国の地域で暮らす人たちの何気ない姿を価値として発信する地域メディア「町おこしロケーションタイムス」を立ち上げる。地域で、やりたいことに挑戦するひとを応援するために、地域と行政や団体の間に入り、必要な情報や知識、人材をつなぐことにも取り組んでいる。
上田:双海町には祖父母が住んでおり、小さい頃からよく遊びに来ていたんです。私が元々住んでいたのは、どちらかというと都会だったので、海と山しかない田舎という印象がまた良くて、昔からずっとここが好きだったんです。
大学生になってからは、1人でも休みの時に双海町へ行くようになりました。その頃になると従兄弟たちはもう町を出てしまって寂しいなと思い始めたんです。
また、おばあちゃんには「帰ってきてくれて嬉しいけど、この町は過疎が進んどってつまらなくなっとるんよ」と言われて、とても残念で。この町が衰退するのは嫌だから、私が何とかしないといけないとその時に思いました。
どうするか1年ほど迷った時期があったのですが、ちょうどその頃、愛媛県伊予市双海地区で総務省の地域おこし協力隊制度を活用した移住者を募集していたんです。このチャンスを逃すと3年間枠が空かない。当時まだ大学在学中でしたが、待つ時間がもったいないと思い「応募してしまおう」と思い立ち、大学4年の時に双海町にやってきました。
ふたみおうち便をPRするイベントより(写真提供:中村 克史さん)>左から中村さん(愛媛湘南化プロジェクト)、上田さん、冨田 敏さん(愛媛県伊予市移住サポートセンター「いよりん」 代表)
コロナ禍でも双海町の地域や生産者の魅力を全国に届けるプロジェクト“ふたみおうち便”を始動
中野:先ほどもお話しされていたのですが、地域のものをオンラインで販売されていますよね。これは、どこかの事例を参考にされているのでしょうか。
上田:最初ここに来た時は、観光をやりたいと思っていたのですが、昨年4月の着任当時はコロナ禍中で、このまますぐに観光施策をしてもうまくいかないと思いました。
何をするか考えた時に、宮城県気仙沼市にいるゲストハウスに詳しい方からヒントを頂きました。着任時に「何かこっちの美味しいものを送るよ。1人暮らし始めたばかりでしょ」と、気仙沼のものを送ってくれたんです。
それをきっかけに「町の魅力は来ることができなくても、送って伝えることができる」と思いました。双海町も美味しいものがたくさんあるし、そういうものを詰め合わせて送るようなサービスをしたらいいのではないかと思い、ふたみおうち便を始めました。
中野:なるほど。現地になかなか行くことができない時代だからこそ、生まれた発想だったわけですね。
休業状態の喫茶店を復活させることが、人が集って地域の食材の魅力を知るだけでなく、関わる子どもたちのやりたいことを引き出す楽しい場所に
中野:ありがとうございます。空き店舗を利用した喫茶店の復活プロジェクトについて詳しくお伺いできますか?
上田:元々、私の祖母がやっていた商店なのですが、そこの2階で週末限定ではあるのですが、喫茶店を開いています。「レストラン喫茶ポパイ」という名前です。
3月末に始めたばかりですが、今では有り難いことに、アルバイトを雇わないと手が回らないくらいお客様に足を運んでいただいていますが、近所の子供たちが「お手伝いしたい」と毎週自発的に来てくれるので、少しずつメニューも増やしつつ、楽しくやっています。
中野:すごいですね。子供たちはメニューの開発にも関わっているのですね。
上田:彼女たちは頭が良いんです。アドバイスをお願いすると、私よりも素敵なアイデアをいただけるので、とても参考になるんです。
中野:誰かと協力してやっていると、自然と人が寄ってくる印象を受けました。
上田:そうですね。私がウェルカムな性格だからかもしれませんね。1人で作業することが嫌いで憂鬱になってしまうタイプなんですよ。同じ作業でも、みんなとやればとても楽しく笑顔満開でできるんです。なので「皆で一緒にやろうよ」というのが口癖なんです。
中野:メニューの中華そばの出汁も地域で獲れた「いりこ」を使用していると伺っておりますが?
上田:そうですね。双海町の上灘で獲れたいりこをふんだんに使ったお出汁を作って、提供しています。
空き店舗を地域交流の拠点にすることや、遊休スペースを活用したゲストハウス構想で、地域のみんなが集える場所に
中野:ありがとうございます。上田さんが今の活動拠点として使用されている「上田屋」という場所は元々、町長が営まれていた店舗を活用されていますね。空き物件だったと伺っておりますが、これはどのぐらい利用されていなかったのでしょうか?
上田:そんなに長くはなくて。昔、町長さんが塾と商店をやっており、それを辞めた後に会社の事務所が入って綺麗に改装されていたんですよ。だから、水道もあるし壁紙も綺麗な状態でした。
そのあと撤退されて倉庫になったのですが、何もしないですぐに使える状態だったんですよ。空き家になって5年くらいでしょうか。
ここを地域の人が集まる交流の場にできたら面白いなと思っていて。みんなが気軽に集える憩いの場所にしたいです。
双海懐浪(ふたみかいろう)のイベントの様子。これは双海町の商店街の空き店舗などを再び町に開くべく、移動式映画上映会やイベント等を行う取り組み。上田屋にて。
中野:そうでしたか。いちばん知りたかったことなんですが、ゲストハウスをやろうと思ったきっかけは何でしょうか。
上田:ひとり旅でよくゲストハウスに泊まっていたので、いつかは人が集まる場所を自分が持つことも面白いだろうなと頭の片隅で思っていました。それと、双海町で何かをしたい思いが頭の中でマッチした時があって。祖父母の家でゲストハウスをすれば良いのではないかと思いつきました。
中野:場所としてはレストラン喫茶ポパイの部分を活用するということなのでしょうか。
上田:そうなんです。ポパイの奥に空いている部屋があるので、そこを使う予定です。元々は住居スペースだったところです。
進捗としては補助金が採択されるので、いよいよ動き始めるところです。今、建築家の方に図面を依頼しており、11月着工して12月のクリスマスくらいにオープンの予定で取り組んでいます。ゲストハウスも週末限定で検討中です。
空き店舗を地域交流の拠点にすることや、遊休スペースを活用したゲストハウス構想で、地域のみんなが集える場所に
中野:地域商社を作りたいとお話もされていたと思うのですが、設立に向けて今後動いていく中で、どういったビジョンを描かれていますか?
上田:双海町を守りたくてここに来ているというのが原点ですので、双海町の魅力を発信・PRしていくということが軸かなと思っていて。そのために「双海の」の名前が入った商品をもっと全国に出していきたいです。
魅力的な商品を作り、それを誰かが買ってくれて、そこを入口にして双海という町を知ることができる導線が作れたらいいですね。地場産品を使った魅力的な商品を作ってファンを増やしていくことができたらなと思っています。
中野:ふたみおうち便は購入者に届ける際、「ふたみ図鑑」という冊子を同梱していますね。
届いた商品の生産者方の情報だけではなく、さまざまな双海町の情報が得られて面白いと思います。
そういうものを成果物にすることによって、ネット環境にアクセスできない人たちにも情報が伝えられるので、すごく素敵な取り組みと感じています。
上田:ありがとうございます。成果物とした「ふたみ図鑑」はただ物を売りたいというよりは、双海町の魅力を知ってもらいたいと思って作りました。
大好きな町の人たちの様子を自慢したいし、知って欲しいのが原点です。ただ商品を送っても魅力は伝わらないので、丁寧に伝えるためには冊子を作ることにしたんです。
継続できる地域活動において大切なことは楽しむ気持ちで取り組むことであり、それが地域の信用を築くことにつながる
平野さん(以下、敬称略):私も空き家活用に興味があるので、レストラン喫茶ポパイとゲストハウスの活動についてお伺いします。
平野 彩音(ひらの あやね):大正大学 地域創生学部2年 町おこしロケーションタイムス インターン/三重県松阪市飯高町出身。三重県立飯南高等学校在学中に空き家片付けプロジェクトなどに取り組み、卒業後も地域と関わりを続けて空き家問題などの地域課題に取り組んでおり、その活動が注目され、「地域人(地域構想研究所 地域人)71号」で取り上げられる最近はweb「空き家活用特集」での情報発信も行いながら、町おこしロケーションタイムスの空き家に関わるプロジェクトに参画中。
平野:いろいろと活動されている中で、大変だったことと楽しいなと感じることがあれば教えていただけますか?私は何かやるとなった場合、完璧にやらないと気が済まないタイプで、それで自分の首を絞めている部分もあるので参考にさせていただければと思います。
上田:大変だったことは、最初にゲストハウスをやりたい思った時に、ゲストハウスが何か分からない祖父母に「突然何を言っているんだ」とすごく怒られて反対されたことです。「帰って来るな」と反対された時期もありました。
それでも1年間活動した結果を見てくれて、今では祖父母も「応援してやるぞ」と言ってくれるようになり、やっと前に進めるようになりました。楽しいことは、レストラン喫茶ポパイの営業ですよね。人にご飯を食べてもらう喜びも分かりました。
元々、喫茶店の営業をやるつもりはなかったのですが、銀行の方と話していた時に、ゲストハウスだけだと収支が厳しいのでは?という話になり、「喫茶店もあるのでやったほうが安定しますよ」と言われて。
今振り返れば、地域おこし協力隊制度を使ってここに来ると、仕事として課題解決をどんどんできて楽しいと感じます。やりたいことを形にできる環境がすごく楽しくて。
ですから行ったら行ったで必ず楽しい道が開けると思います。私は下積みをしないですぐに地域に飛び込みました。あまり難しいことは考えずに、楽しむという気持ちを抱いて頑張ってください。
結び-Ending-
ふたみおうち便、私も利用させていただきました。届いたのは「下灘の逸品晩酌セット」。中にはレシピが記載された紙も入っており安心。その名の通り、お酒に合いそうなお味。双海町からの美味しい便りに、舌鼓を打ちました。
さまざまな分野で活躍する上田さん。”地域への愛”や”楽しむ”という気持ちを持って、活動されているからこそ、周りからの信頼も厚いのだなと感じました。
■企画・著作
町おこしロケーションタイムス編集部
【取材データ】
2021.07.15 オンライン
【監修・取材協力・資料提供】
・愛媛県 伊予市役所 未来づくり戦略室
隅田 直軌 様
上田 沙耶 様
・愛媛湘南化プロジェクト
中村 克史 様
取材にご協力いただきました関係各諸機関のほか、関係各位に厚く御礼申し上げます。