食や農を通じてエンターテイメントを提供し地域に恩を返したい! ~シェフが自らプレーヤーとなって創り出すプラットフォームとは~
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農と人-Interview-

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食や農を通じてエンターテイメントを提供し地域に恩を返したい!
~シェフが自らプレーヤーとなって創り出すプラットフォームとは~

神奈川県秦野市

今回は白井 寛人さんに
お話を伺いました
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白井 寛人(しらい ひろと)さん:torois point(トア ポイント)代表

神奈川県横須賀市出身。同市と秦野市の二拠点居住。長きに渡り、シェフとして料理を提供する中で、自らが生産者となり環境問題を考慮した食材を消費者に提供したいと思うようになる。土壌をしっかりと作っている秦野市で、2022年、初めての米を栽培、11月出荷。

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私たちの命をつないできた農とそれに携わる人。近年は食の安全が叫ばれるなど、農に対する見方も変わってきたように思います。特に自然栽培や有機農法で作られた農作物には注目が集まっているのではないでしょうか。


今回お届けするお話は、地域住民と関係性を築きながら自然栽培を行っているお話です。


まちの人たちと関係性を築きながらチャレンジを続ける白井 寛人(torois point代表)さんは、自分の地元で農地を探すも求める場所が見つからず神奈川県秦野市で深く根を下ろし、自身が自然栽培の農業のプレーヤーとして活動しています。そして、そこで採れた食材を使って今後は農家レストランをオープン予定。


以前はご自身の事業のブラッシュアップのために神奈川県の事業の「好きなまちで仕事をつくるin三浦半島」の起業プログラムで試行錯誤された後はOBとしても後輩をアドバイスしながらチャレンジすることの大切さを訴えています。本記事では、そんな白井さんの取り組みにクローズアップしながらパーソナルに触れる部分を掘り下げていきます。

自分で育てた食材を提供できる強みを活かすことで、顧客から最大の信頼を得ることができる


飲食のシェフという肩書きを持ちながら、農業のプレーヤーとしても活躍する白井さん。どんな想いで農作物を育てているのだろうか。


「今の時代、エビデンスが求められてきていると感じています。例えば、どんな種を使っているか、どんな育て方をしたか、いつ農薬を撒いたかなど、そういう情報がこれから先どんどんオープンになっていくんですね。


お肉だと個体識別番号検索ができるように、野菜などの食材に対してもそのプロセスが可視化されていくでしょう。


それを真っ先に問われるのが飲食店です。どこで何を仕入れているか全部はっきりしてしまう時代が必ず来るでしょうから、自分で作った食材で食事を提供できるのは強みだと思っています」(白井さん)


消費者の立場からすると、「顔の見える関係」は安心につながるだろう。白井さんは、これからは生産者が顧客と信頼でつながるシステムが必要だと話す。



「自分でレストランをやりながら、食材も自分で育てる。もちろん生産者としても含めてやっていることを公開します。それは地域で最大の信頼が得られますし、私の世界観をしっかり伝えられると思います」(白井さん)


飲食店経営者は、食材を仕入れた先の農家の顔は基本的に知ることはない。更に、それを口にする消費者に関しては、より生産者との距離が離れてしまう。そういった問題を白井さんは試行錯誤しながら解決へと導いているところだ。


循環をさせていくためには、良いものを適正な価格で提供していくことと、コミュニティの仕組み作りをしていくことが大切


丹精込めて育てた農作物を使って、自ら料理という作品を提供する。自然栽培で育てたものは高いイメージがあるが、価格設定はとても気になるところ。


「設定値をどこにするかすごく悩みました。価値を安売りするものでもないし、やはり良いものを適正な価格で提供することが一番だと思います。


昔、水戸でお店をしていた頃のエピソードなのですが、比較的安価な価格で料理を提供していました。その価格で回転率を上げてお店を回していたのですが、やり方には常に疑問を持っていたんです。


自分でマネタイズを考え、その結果客単価を1万円以上上げました。それにより毎日来て下さっていたお客様はびっくりしていて。でも、そんな人たちと夜中まで語り合いながら自分の目指す方向を真摯にお伝えし、理解していただいたことは次のステージへの大きな足がかりとなりました」(白井さん)



それが白井さんにとって大きな転換期になった。そんなこれまでの経験をこれからの事業にどのように活かしていくのだろうか。


「私は今農業のプレーヤーとして活動していますが、実は農作物で利益を上げるのはすごく大変なことなんです。自然栽培で育てたものを、普通の農作物と同じような価格で販売してしまうと続かないですし、循環もしていかないですよね。


それなら、農業だけではなくコミュニティ活動にも力を入れていくべきではないかと考えました。例えばお客様の中に写真が趣味の方がいて、撮影依頼をしたとします。そうするとそれが一つの事業になるわけです。


そのようにコミュニティの仕組み作りをして、私たちがそのハブとなる役割を担っていく。結果的には育てた野菜もそこで販売できますし、誰もがwin-winの関係になれますよね。それこそが循環だと思っています」(白井さん)


料理だけではなくさまざまな分野のエンターテイメントを農業と絡めて提供することで、人々が共存し合える世の中を創る


白井さんの事業には「農業エンタメ」というコンセプトがある。とのことだが、果たしてどのようなものなのだろうか。


「コンセプトである”農業エンタメ”は、料理だけではなくさまざまな分野のエンターテイメントを農業と絡めて提供する内容となっています。


例えば私の兄は瞑想、姉はヨガを教えられるので、自然を感じながら体験できるようにしたいと考えています。農家レストランのある場所をリトリート施設としても利用できるようにしていく予定です」(白井さん)


リトリートのように、現実から離れて自然を感じられる時間が昨今より一層求められてきている。その活動がどれだけ自然と直結しているかが重要だと白井さんは語る。


そんな白井さんが自然の中で目指すものは「共存」。それはどのようなイメージで思い描いているのだろうか?



「自然派の人たちと、それとは正反対の生活を送っている人たちがいますが、私自身はその人たちが”共存”できる世界観をイメージしているんです。


例えば、土の上を裸足で歩いて大地を感じる健康法”アーシング”がありますが、毎日パソコンを触っているような自然派ではない方には、理解できないものだと思います。


それをここで体験して気持ちよさや癒しを得ることで、自然派の方とそうでない方が、お互いの理解を深められると思うんです」(白井さん)


ここで色々な人たちが出会い、お互いに理解し合い、共有財産は何であるか考えることで、必ずどこかでマッチするポイントが出てきて、それが「共存」につながるのではないか。


白井さんが作り出す場所で生まれる「共存」という価値観。どちらかが良いわけではなく、お互いの良いポイントをチョイスしていくことで、ブレない軸が出来上がっていくに違いない。


よそ者を受け入れる体制が整っている地域を選んだことで芽生えた当事者意識。一生涯かけてこの地域に恩返しをしていきたい


新しく事業を始める上で土地選びは重要だが、白井さんが選んだのは神奈川県秦野市。なぜこの地域を選んだのだろうか。


「ここの土地を手に入れるまでの経緯ですが、その辺を歩いているおじいさんやおばあさんに一人一人声を掛けながら歩いていました。それをしながら、その人たちの困りごとを聞いていったんです。


そして”私もここが大好きになったので、ここに住みたいです”と話すと、皆さんとても親切にしてくださいました。”じゃあ◯◯さんに聞いてきなよ”と教えてくださったり、一緒に声掛けを手伝ってくれました。そこで門前払いになる可能性もあったのですが、私のことをしっかりと受け止めていただけたのは、秦野市の人々の温かさのおかげだと思っています。



また行政に関しても、土地を守ることや、そこに新しいものや人を受け入れる体制が整っているんです。色々な行政を見て回りましたが、秦野市の方々には本当に頭が下がる思いです。こちらの目線に立とうとしてくれて、受け入れていただいて大変嬉しく思っています」(白井さん)


よそ者を受け入れるのは簡単なことではない。だが、秦野市には白井さんのために行政に一緒に掛け合いに行ってくれた人もいるから驚きだ。そんなよそ者を受け入れる文化はどのようにして根付いていったのだろうか。


「私が思うに、地域を守っていこうとする人たちが昔からここにいたからだと思います。生き物が多様に生息している中で、どうやって人間と共存していくか議論をした結果、共助の精神が生まれたのではないかと推測します。そんな中で暮らすうちに、人を助けることで自分も豊かになることに気づいたのだと思います。


先人たちのおかげで私はその恩恵にあやかれたと思うので、一生涯かけてこの地域を守っていきたいですし、その魅力を色々な人に伝えていきたいです。それが恩返しになると思っています。


ただ地域が発展することが良いわけではないですが、地域の人々やその先祖に”あー良かったね”と言ってもらえる活動をしていきたいです」(白井さん)


お話を伺う中で、白井さんの地域の人々に対する感謝の気持ちが伝わってきた。秦野市の人々と良い関係性を築いていくことで、今後の活動が更に発展していくだろう。


お金で買えない豊かさがあると気づいたことで、人生が変わった。そんな自身の活動を広めるためには熱量を持って動くことが大切


さまざまな事業を手掛けられている白井さんだが、大切にしている考え方はなんだろうか。


「かつて私は、都会の真ん中のとても華やかな世界で料理の仕事をしていました。当時は収入だけの世界観で生きていたような気がします。でもそういうことを全て投げ打ってでもやるべきことがあると気づいたんです。それよりも大事なもの、お金では買えない豊かさがあることに気づくことができたんです。


ただ、ソーシャル的な方向に進んだからといって、お金が必要ないとは思っていなくて。これから自分の活動をするには大きなお金も必要になってくることもありますし、共感してくれる人を増やす必要もあると思っています」(白井さん)


何事も、活動するにあたって自分一人だけでできることには限りがある。共感者の存在は、活動を後押ししてくれるはずだ。そんな人たちを集めるにはどうしたら良いのだろうか。


「共感者を集めるためには、私たちの活動を実際に見てもらう必要があると考えています。農家の活動をプレーヤー目線で見てもらうことはすごく重要ですし、そうすることで可能性を感じてくれたり、”それ良いね”と言ってくれる人たちがだんだんと集まってくると思います。



ただ、そういった活動のことはなかなか情報としてすぐには広まらないですよね。広めるためには、大義名分のもと熱量をもって活動することが大切ですよね。やっぱり周りの人はどれだけ熱量を持っているかどうか見抜きますから」(白井さん)


「この人を応援したい!」と思うきっかけは、その人の持っている想いの大きさを知ったときかもしれない。白井さんは、人生をかけてこの地域に恩返しをしていきたいと話す。その想いは間違いなく地域の人々にも伝わっていくだろう。


最大の農業エンタメとは、食に関する一連のプロセスを一緒に踏んでいけること


白井さんの夢は尽きない。地域を良くしていきたい想いが強い存在になるだろうし、ぜひ今後の活躍にも注目していきたいもの。



「ゆくゆくは畑をやりたい人に対して、貸し農園をやろうと思っています。私はこれまで料理の仕事をしてきましたが、農家さんが作った農作物があったから仕事ができたんですね。ですから、農家さんには本当に感謝していますし、何か自分が農業界に貢献できないかと常日頃から考えていました。


そこで私が今後やっていきたいのは、現に今農家をされている人や、これから農家になりたい人のサポートなんです。それを第一に考えて今動いています。


また、6次産業の施設を作って農作物の加工も進めていく予定です。本業の飲食の傍ら、食に携わるものを生産して、加工までしていくプロセスを一緒に踏んでいくのが、最大の農業エンタメになると思っています」(白井さん)

結び-Ending-

飲食をやりながら、農業のプレーヤーとして食材までも自分で作ってしまう白井さん。またそれだけに止まらず、農業と絡めてさまざまな分野で事業展開されていくお話を聞いて、私自身もワクワクしました。


取材中にもお話があったように、なかなか飲食をやりながら農業の方にまで手を伸ばす方は多くはないと思います。食や農を通じて地域に恩返ししたい想いが、終始白井さんの言葉から溢れてきていたのが印象的でした。


これから白井さんが展開されていくフィールドは、間違いなく面白い場所となっていくでしょう。

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■企画・著作
町おこしロケーションタイムス編集部

【取材データ】
2022.10.8 ※現地取材
【監修・取材協力】
torois point
・白井 寛人 様

※現地取材においては感染対策を徹底の上、取材を行っております。

取材にご協力いただきました関係各諸機関のほか、関係各位に厚く御礼申し上げます。

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