インタビュー | 山根大和さん
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農業を通じて地域を元気に!
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人って順風満帆な生き方を出来る人はほとんどいないのではないかと思う。少なくとも私が今まで出会ってきた人たちはそうであったし、自分も然りだ。必ずどこかで壁にぶつかり、もがいて乗り越えようとする。あるいは成功者の事例を自分に当てはめて同じように生きようとするだろう。しかし、それはとても窮屈なもので大抵はうまくいかない。
一番良いのは等身大な生き方ではないか。今回は家族の支えが大きな原動力となって前に進むことができるとそう確信した山根さんの生き方を紹介したい。

農業 山根 大和さん

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石川県加賀市出身

農業。やまと農園代表 。

料理が特技。

若いころから食に興味を持ち、飲食の修行を経て学問よりも自分で学びたい学業を信念に持ち、食に関わり人に喜んでもらいたいと思い立ち、25才で農業大学校に。

現在は家族皆で大地に立ち、地域の心強い支援を受け、農園を創っている。多くの方から農地を託される事になった今、食を通じて地域を盛り上げようと日夜頑張っている。

 
やまと農園 HP :https://yamatonouen.stores.jp/

instagram:yamatonouen(https://www.instagram.com/yamatonouen/

​Facebookページ:https://www.facebook.com/yamatonouenkaga/

-料理が好きであるということですが、そこから今に繋がっているお話を聞かせて下さい-

「そうですね。元々、料理は好きでケーキとかはそれまで何回か作っていたんですが、ちゃんと食事を作ろうと思ったのは小学校5年生の時で、うっすらと記憶にある感じなんですけど、5月か6月ぐらいだったかな。あしらいにソラマメを使ったのでそうだったと思うんですが、自宅のキッチンが空いているときに、サンマだったかな。焼き魚を作ったんですよ。

それまで毎年、自然農法で作られた食事を食べられる宿に家族で泊まりに行っていて、朝食に魚が出てきたんですね。そこから刺激を受けて自分でもやってみようと実行したら母親に喜ばれて嬉しかった。そこからこれからも料理を作りたいって思ったんです。

人に食べてもらって喜ばれたいっていうのがきっかけで農業大学校にも進んだんですね。その後、割烹料理店で働いていました。カウンター式なので向かいに見えるところでお客様をもてなすという形なので、出してすぐに食べてもらって反応がもらえるのが良かったですね。」

なるほど、山根さんの父もボースカウトをされていたが、キャンプではカレーを作っていて、母と味付けは違うが、周りからとても喜ばれたそうで、そういう中々深い内容が今の山根さんの姿に繋がっているのだろう。

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-地域で農家さんとして体験農業者や消費者との接点で形描いていきたい未来の構想についてお聞かせください-

「これまでは一般的なJA出荷という経営体だったんですが、そのままでは後小作という小作の下にいる状態で完全に独立ができない。土地代も払いつつ賦課金徴収だったりと経営的にも自由度がないし販路もやっている意味がない。そういうのを全部切り替える形にしたんですが、2年ぐらいは結構苦労しました。

でも今では僕が農家になるために地域の方々から色々ご支援いただいたおかげで、農地として耕作管理できるようになりました。自分の努力だけではここまでは来れなかったと思います。

農業の収穫や摘果体験は以前からもしていたんですが、ただ、食べるんじゃなくて畑へ行って農家さんと触れ合いながら収穫するっていうストーリーが凄く楽しいですよね。これからはさらにそこを掘り下げて体験としても衛生的なものや休憩所の充実、そして収穫体験から食材の料理の作り方とかをパッケージにしていけたらと思うんです。」

山根さんは取材当日、収穫体験の方と共に作業されていたが、暑い中、水分補給や休憩を促すなど自分よりも体験者の健康に対して常に気を配っていたのが印象的だった。そして何よりも休憩していただくために長椅子や飲み物を用意したりと周囲への配慮が行き届いている所が忘れられない。その点を充実させることでより楽しい「農」を感じてもらうことに繋がるのではないか。

 

この日はジャガイモの収穫体験を行っていたが、土の中に埋まっているどこにあるか分からないものを掘り起こす楽しみは見ていても面白そうで、自分としても機会があれば是非参加してみたいもの。山根さんはこう切り出した。
 

「植え付けから収穫までのストーリーが繋げれば面白いんじゃないかと思うんです。そして調理して食べるっていう形と言いましょうか、ただ作って食べるというのもいいんですけれど、農という形で健康になれるプランが描けたらと思うんです。

あと、地域にもカムバックしないといけないので、そのためにもどんどん挑戦して行かないといけないなと思います」

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-家族の支えと父と地主さんとの接点、そして地域の後押しもあって今の形にたどりついた点についてお聞かせください-

「僕は今の形になるまで別の仕事をしていまして、自身の方向性を変えようと思ったのが昨年の10月頃で、どうするか考えていた時に他の業界に行っても今の自分の農業を伸ばした方がいいなって思っていたので、様々な過程を経て今年の春から思い描いていた農業に向かうことになって行ったんですね。

でも課題は多かったです。例えば収入源であったりとか作業的な負担とか、さらにコロナとかも入ってきて、父も妻もその辺りが大丈夫かなって不安に思っていたのですが、色々やってきたことが逆にプラスに転じているので、今この状態でいるってのは奇跡的ですよね(笑)。

 

じゃあ、やるならとことんやろうということで、作付けとか生産量を変えて、品目的にも具体的に単一品目ではなく多品種を作って。

基本販路はホテルや旅館の他にもネット販売をいくつか持ちながら、そのパッケージやシステム的なものは前職が広告代理店だった妻に、そのノウハウを活かすという彼女なりの特技に支えられている部分が大きいです。あと、母もポップが得意なので母なりの柔らかさで伝えたいことを伝えたりとか農作業を手伝ってくれたりとかしてくれますね。

それから忘れてはいけないのは、父に助けてもらっている部分が大きいことです。彼は色んな仕事をしてきたし、地域との繋がりも深いんですね。ここの土地も父の親戚がお茶屋さんの地主なので周辺一帯の土地を貸して下さって頑張れているんです。

 

僕としてもお米や茶園の手伝いに来ていた時期もあったんで繋がりも深いんですね。そういう地域の連携も考えて、やりたいことのために何か手伝うことで向こうの力になることも大事にしていかないと。農業の中ではそこが一番濃い部分で、草刈りや溝掃除などに参加することによって、関係性が気付けるんですよね。

 

農地が拡張できたのは、自分がやろうという思いだけじゃなくて、地域から理解してもらえたからで、空いた農地に草生した状態になって管理に追い付かなくなるくらいなら使ってもらえると『感謝』の気持ちが入ってきて地主も僕も有難いというお金以上のやりがいがあるなって。他の産業にはあまりないんじゃないかなっと。おかげで今は10人ほどの地主さんから土地をお借りできている状態です」

山根さんのお金ではなく協力し合うことによって地域との関係性が深まる。そんな素敵な言葉が心に響く。

「あと、子供も今日も暑かったんですけど、収穫とか手伝ってくれたりとかしてくれます」

お子さんはまだ1歳8か月。言われたわけでもなく自ら歩いて畑の手伝いをされていたがワガママをいうこともなければ泣くこともなく、本当にしっかりした印象を受けた。妻の美紗斗さんによれば野菜の袋詰めも普通にこなせるという。将来も楽しみではないかと聞くと意外な答えが返ってきた。

​「う~ん、いやでも、農業としてはそこまで押し付けはないです。農業通していろんな分野に行くし、結構ムダなことも多いんです。次の産業に繋がることが結構あるんで、農学でもいいし、農業の分野から色々な可能性を見極めて行って欲しいです」

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-農園での山根さんの姿。土づくりから収穫までの全てにおいてこだわりを持たれていることについてお聞かせください。-

「完全な耕作放棄地からのゼロベースで考える場合と、継承して既存で使われている農地を使う場合とでは土づくりが違っていて、場所によって草が生えやすかったり排水性が悪かったりと違うんですね。

 

今やっているのは小さな輪作体系で、三反という30m×100mという形が標準なんですけれど、そこにブロッコリーを植えたら次はお米、その後は大豆というもので土づくりが行われるんですけど、もっと細かな輪作体系で狭い面積で一列二列の品目だけを早期で『葉→根→実』の順に入れ替えるんです。例えばキャベツ→大根→トマトやナスといった果菜類を入れて行くことによって土が作られていくんです。

今日、収穫した畑の根菜のジャガイモの後は果菜類のズッキーニを千本ほど植えていく感じです。土壌の地上部だけでなく地下部も含めてやっていかないと何を作ってもダメなんです。あとは排水性を良くするために高畝にして物理的に改善してみたり籾殻を入れて透水性・排水性を上げて行くような工夫が必要ですね。

 

この辺りの土のベースは火山灰土壌なんですね。肥沃という黒ボク土で(ひどけ?)もあったりとか保水性もありますが土壌が出来上がってない状態には腐食をどんどん入れたりとか有機物の水温によって変わるんですが単年でなく結構長い時間がかかるので。表土が80~90センチは黒い土なんです。その下が砂地→赤土→砂地と三層になってるんです。

赤い部分はミネラルが豊富なんで、サツマイモもそこに触れることによって色が凄く綺麗で美味しいイモになると昔から聞いています。下が砂地なので排水もしっかりされるんですね。

昔からサツマイモは痩せ地で作ることが基本だと聞いたことがあるが、赤土でイモ自体に色がついてくるということは詳しく知らなかった。農業に通ずる人は基本的なことかもしれないが、僕のような人間からすれば目から鱗が落ちる話ばかりである。山根さんはさらにこう続けた。

「田んぼとかは基本的に山砂系か痩せ地の砂系か粘土なんです。お米の後に大豆を植えて行くのが土づくりのベースなんですが、お米の後に大豆を作ることによって粘り気のある土になっていく。そうなることによって根張りが良くなるんですね。またそれによって草が生えない状態にできるというのが最近の輪作の流れですね」

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-今後やってみたいと考える農業と地域を有機的につなげるコミュニティの形成や、農の活動努力を発信する取り組みについてお聞かせください

「有機JAS認証事業者を今年の9月に取得の方向でおります。これによって農業体験などを通した独自のコミュニティー、農業ではなく『農』に迫る部分でもっと楽しいものを創り出せたらと思います。コミュニティーも観光農法とJA主体や有機的なグループとでは全然違ったものになるので、それによってさらに次のステージで繋がる部分を見出せればと考えています。

今日体験で来られていた方も、農に触れることで普段仕事の疲れから解放してくれると言っていたように、土に触れる事って癒しになるところがあるというか、見えない力があると思うんです。妻も、ヨガとかウエルネスツーリズムとかミュージックピクニックとかプログラムを組んだことがあるんですが、そういうコミュニティーの形成をしていくことも楽しいのではないかと思うんです。」

将来的に、畑の一角に家を建てたいという山根さん。田んぼの真ん中にホテルがあり、農を通した地域との触れ合いに力を入れている地域の話を聞いたことがある。

それと同じようにいつでも畑が間近に感じられるだけでなく、そこで採れた食材をいただいたり農業に触れる楽しさを味わうことによって、またそこに行きたい、人に会いたいという思いが増していくのに違いない。

何かを建てることで幅も広がるのでは、と話す山根さん。奥さんの美紗斗さんも直売所がないのでどこで買えばいいのかという問い合わせをいただくことがあり、建物があるともっと人が集まり、コミュニティーの場になるので場づくりも必要と夫婦で話したこともあるそうだ。

「色々考えていることがあって。畑と住まいや販売所が別だと、移動時間とかでもロスが大きいので、畑の近くにそれらが一緒にあると管理面でもスマートになるんじゃないかと思うんです。」

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-これからチャレンジしたいと思うこと、大切にしていきたいと思うことは何ですか?-

「やっぱりこれからの未来を見据えて子供たちのためにも食育を考えて行きたいです。農業大学校にいたときは、あらかじめ食育担当を月ごとに決めておいて、自分たちが作った野菜を収穫後、栄養士の方に栄養価を出してもらって、子供たちと進めて行くんですけれど、そのような動きを今作っている秋作の野菜を使用して今年の9月以降からやっていければと。

ビジネスではなくて農をきっかけとした楽しみを生み出すこと、例えば畑に虫がいるとか絵を描いてみるとか、そんなことをやっていけたらと思います。もちろん食べることもダイレクトに伝わる部分なので、その点についても深堀りして挑戦していきます。

 

経営的に見ると観光で行ったらいいのか、減農薬で行った方がいいのか、あるいは特別栽培をやってみるのか色々考えられますが、有機JAS基準で作って行く方が明るいと考えます。

マーケットも視野が狭いんですけど、とにかくそこに意識を集中したいなと。農薬の基準値を一旦世界標準と同レベルにするのが有機JASなので、それによって販路開拓や農園としての活動も多分、位置付けもだいぶ変わってくると思うんです。

もっと可能性がある方が、海外の出荷基準にも適合するし、これから求められてくると思うんですね

奥さんの美紗斗さんも食育の他にも商品開発を前職の広告代理店の経験を活かし、顧客や飲食業の方にメーカーも巻き込んで何か作って行くのがチャレンジしてみたいことでもあると話してくれた。
 

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-加賀へ移住を検討されている方・就農検討されている方にメッセージをいただければと思います。-

「加賀って地域資源だけでなく就農においても豊富にあるんです!

その部分をうまく活かし切れていない部分もあるし、定住されている方も気づいていないところもあると思うんです。それぞれの感性で伝統、古くから培ってきたものが大きく根付いている部分もあるんですが、僕自身もそうであるように自然環境の豊富さに気づけてない人もたくさんいると思うんです。

 

例えば、橋立漁港や片野海岸などの海側の資源であったり、山中や杉水(すぎのみず)などにある山の資源、イワナ・ヤマメとかイノシシというジビエであったりとか。また、陸にも野菜やお米、そう言ったふるさとのギフトがそれぞれ存在しているんです。移住者はそういったものに触れて、それぞれの感性で何かを思い描いて欲しいと思いますね。

 

あと、移住したら気づく事として、僕も大都市にいたことがあったんで分かるんですが、加賀とかのローカルな地域は凄くスローに感じることがあると思います。人口密度も違いますし経済的発展とかギャップを感じることがあるかもしれないですけど、新しいことをしようと思っても中々前に進まないことがあるはずです。でも外から人が来ることによって新しい文化が生まれるし、そういったものがどんどん入り込んでくることが良いことなんじゃないかなって思うんですよね。」 
 

奥さんの美紗斗さんも東京から加賀へ来た移住者の一人。地元の人が新しいことを始めるよりも、移住された方の方が先入観に捕らわれず、しがらみなく始められる事の良さを大切にして欲しいという。地域で何かを始めようとしたとき、地域の人たちは話を聞いてくれるものだ。就農に関してはどうだろうか。山根さんは最後にこう話してくれた。

「就農に関しては甘くはないです。厳しいところも多いです。

設備投資の面でも費用がかかったりしますが、有機的農業でやるとかクラウドファンディングを活用するとか色々やり方はあって、自分の都合に合った方法を選択すると良いと思います。

悩みとか課題にぶつかることも多く、若い人がやろうと思っても中々甘くはないんじゃないかなと思います。ただ、そういう人がこれから増えてくれればいいと思います。

場所によっては野菜の品目で得意な分野の方もいますし、そういう人たちに出会い、どういう経営をしていきたいのかとか色々な考えを持つ人が増えて課題を共有していくベースを作って行くのがいいのかなって思います。

就農に関しては国を挙げての問題なので一人で抱え込まないことが大事だと思います」

編集後記

よそ者だからこそ自由に動ける利点をうまく活用して客観的視点でのモノのとらえ方を教えてくれた山根さん夫妻。コロナ渦の中、オンラインというデジタル化が進む中でも、現地現物や人に触れないと生み出せないものもある。例えば土の柔らかさや匂い、そして地域の人の温かさ。そういったことを自分としても今後も大事にしていきたいと思う。今回の取材で、農業ではまだまだ分からない部分もあって今回とても知識を自身に落とし込めた。これから盛夏へ向かう加賀。暑さはあっても時折吹いてくる風は涼しく、居住する愛知では感じられない心地良さだった。

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Writer:Nakano Takayuki

町おこしロケーションタイムス創設者。

「旅するPhotographer」の名で

写真を通じて地域を発信し、地域と地域を結び、

人と人を繋ぐ活動を展開。
【日本旅行写真家協会 会員】

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【取材データ】

2020.7.26 石川県加賀市

【取材協力】

・やまと農園

・Cafe Shokudo Lian リアン

取材にご協力いただきました関係各諸機関のほか、関係各位に厚く御礼申し上げます。

●ロケ撮影地

・やまと農園

・Cafe Shokudo Lian リアン

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