先日、岡崎市のシティプロモーション事業の一環として行われている地域にスポットを当てて発信するローカルフォト活動「岡崎カメラがっこう」に参加し、その会場として使用された場所にて出会った店主の中根利枝(なかね りえ)さん。それは地域の母親たちの幸せになるための場づくりをコンセプトに様々なイベントやお話し会を通じ、無理をしないでいい、がんばらなくていい、みんなの力でみんな幸せになるように思い続けていると気付かないうちに地域を巻き込んで幸せで楽しい空間を生み出しているwagamama houseという不思議なネーミングのお店。
「岡崎カメラがっこう」課程修了後、早速岡崎へ足を運び、お店で営業中であるにもかかわらず取材を受け入れて下さった中根さんに幸せとは何か、子育てとは何かを学び取ることができた。
中根利枝さん
愛知県岡崎市在住。農家で長い間働き、二児のお母さんでありながらリノベーションスクールに参加し、熱い思いを地域に語り、空き家管理者からの信頼も得て2016年秋にwagamama housu(ワガママハウス)をオープン。平日のみの基本営業だが地域内外の利用者も多く、土日にもイベントを企画。みんなが幸せになれる場づくりを行っている。現在は地方からの講演依頼も多く、自身の思いを伝える活動を行っている。
ーお店名前の由来は、「我がママ」と「わがまま」の意味だそうですが、
あえてローマ字にした理由はー
「わがまま」をひらがなやカタカナだと意味が強すぎちゃうのと、「我がママ」とか「わがまま」というように、いろんな意味に捉えてほしいからローマ字にしたんですよね。そういう私の率直な気持ちや想いはお店の黒板にも書かせてもらっています。手書きは凄く大切にしていて料理教室をやったときもお話し会をしたときも自分の等身大を伝えたい気持ちは大きいですね。
wagamama house店主の中根利枝さん。
ーお店のオープンから3年経ちました。お母さんたちが幸せになるための場づくりをコンセプトに頑張ってきたようですが、3年経って改めて思うことは?ー
三年前に思い描いてたのはきっとこんな感じはなかったのかなぁ、っと。その当時は試行錯誤しながらメッチャ苦労してましたね(笑)。結果的にお菓子を作れる人や色んな仲間が集うようになったとのも3年という年月が必要だったのかなと感じるし、思い描いてたものを形にするのって自分で経験してきたことがないと活かせないんじゃないかなって思います。
例えば、当時私は家事を行いながら子育てだけでなく農業もやっていました。母親としてお嫁さんとして頑張ってて、楽しくて勉強にもなったけれども、私らしさが欠けてて、あの時は暗黒時代でした (笑)。でも、私、なんで農業やってるのかなって思ってても、あのときの経験が今振り返って見ればやってて凄く良かったと思うんです。
経験の積み重ねがあってその中で色んな人がいたから私たちが今ここにいるんだなって。農業と子育も何か一緒で体で感じることは多くてもコントロールができない。子供たちが自然体でいる部分を、大人たちが縛りつけようとしようとしている間違った部分があり気付かないことが多い。世の中の常識を子供に押しつけてコントロールしようとしているのが私だった。というように、農業や子育てを通して学ぶことができたのかなっと。
この日はオススメのwagamama 秋カレーをいただいた。辛さはあるが食材にこだわり、メニュー表も温かい手作りだ。
ーなるほど。リスクを背負わずして得られるものはいし
自分から飛び込んで行かないと答えは出ないですよね。ー
そうです。私が苦しんでたのはとても狭い視野で物事を考えていたからなんだなぁとか、そういうのを伝えたくてこういう場を設けたかったんですね。お惣菜屋さんをやりたかったわけでもなく、お店を開きたかったわけでもなく、やっぱり私自身がみんなで幸せになりたいなって思ったからこの場を設けたかった。だから、いろんな経験をしてこないと、ここは作れなかった。
うまくいかなくて愚痴ばっかり言ってた時に、思春期の息子がなんで勉強ばっかりしなければいけないのか分からないって言われても人生論なんて語れない。そんな時に、あっ、私、ちゃんと生きなければ駄目だなって思って、リノベーションスクールに挑戦したんですよね。
「たくさんの幸せがひろがりますように。」そう書かれた文字が心に響いた。
ーお客さんの利用者層は?課題についてもお聞かせください。ー
ママさんが多いですね。男の人は打ち合わせとかで来られるんですが、やっぱり入りにくいって言われるのでそれが課題だなって思うんだけど、でも、ご夫婦で来られる方や、夕方とかお客さんが減ってくるとお茶を飲みにくるお客さんもいらっしゃしますね。
あと、営業の男の子が来たことがあったんですが、それがきっかけで自分一人で仕事の疲れを癒しに来るようになったんですよ。一応営業で来てるんですけどねって言いながらお茶を飲んで、「最近仕事大変なんだ」ってお母さんたちに愚痴を言いながら帰って行くという(笑)。
店内に置かれたsnow peakのテントは子供の遊び場。キャンプごっこもできそう。
ーこれからやってみたいことはありますか?ー
wagamamahouseを今後2号店3号店とか出そうというような思いはなくって、運営の仕方とか、スタッフの働き方だとか、女性だからこそやれることとか、そういうのは3年やってきて分かってきたから、そういうのはシェアしてこういう場所が他でも広がったらいいなって思います。それが今一番やりたいことかなって。
結果的に今幸せだからもっと幸せな人が育てばいいなって思うので、このお店のやり方を伝えていけるような仕組みができたらいいなって思いますね。勝手な想像かもしれませんが講演会でもお話はさせていただいています。
私が凄いわけじゃない。そう話し、幸せな人が育って行って欲しいと願う中根さん。
ーその講演会ですが、お母さんの場づくりやリノベーションを通じた
まちづくりをテーマにされていますね。その中で地域の方々に伝えたいこと、
大切にしていることはありますか?ー
そうですね、講演会には私が行こうと思って行っているのではなく、呼ばれて行っているんですが、まずこれだけはお話しておきたいのは、私が凄いわけではないってこと。
みんな一緒だから、ホント等身大の話。アドバイザーとしてではなく、一般市民の目線に立ってお話させていただいていることです。私たちのようなヘッポコでもやれるんだよ、みたいな(笑)。
講演会でお話していることですが、デコはデコ、ボコはボコでいいっていうこと。私たちはみんなデコボコなんです。今の学校教育は決められた形、「正方形」にしようとしている。要するに完璧じゃなきゃいけないわけで、体育もできて数学もできなきゃいけない。でも、私としては数学が得意な子がいれば体育が得意な子もいていいわけで、私たちもそういう人たちの集まりなのでお互い足りない部分を補いながら暮らしを創っていく。私が私らしくあるときは必ず「デコボコ」というパズルがカチっと合わさってくるんですよね。
でも無理をしてしまうと違う形になって歪みが出て来るんです。このお店でも無理をしていたために揉め事が起きていました。完璧を求め過ぎていたんですね。でも人は完璧なんてありえないし、私が頑張りすぎるとみんな疲弊してくるんです。私が等身大でいることが大事なんです。ホントこれも子育てと一緒で、子供ができて親になった瞬間に立派になろうとするじゃないですか。でも、私は一人の人間なんです。旦那さんも同じ。等身大で子育てしていいんですよ。子供はそれを結構求めてくれてたのに、一生懸命完璧を求めて家族を創ろうとしてたことが凄く苦しかったことがいっぱいあった。
私、出産のときに父親が事故で亡くなったりして死生観が変わってきたりとか、お父さんが亡くなったことで私たち夫婦や実家の家族にも歪みが出た。そういうことって、本当助け合わないと生きていけない。そういうときに完璧を求めるとダメなんですよ。弱音を吐いたっていいんです。いくら家族とは言えコミュニケーションを取らなければ分かりあえない。
社会的な動きが女性が頑張って働ける時代にしていった。もちろんそれは大事だけど、弱音を吐くことも大事かと思うんです。ここでもスタッフにそんなに頑張らなくていいよ、私がやるよってお互い補い合っているから今があるんですよね。まずは「弱音を吐こうよ」って頑張ってる女性に伝えたいですね。
店内にはクッキーなどの焼き菓子屋も。隅に添えられた似顔絵が何とも可愛らしい。
ー中心市街地の空洞化が町の地域課題ですが、思われていること、
それに対してやってみたいことがありましたら伺いたく思います。ー
モノが買えたり、お金が稼げたりすれば幸せなのかっていう事なんですよ。空洞化が進んでしまうのは仕方のないことなんですよ。でも、多分、一人ひとりが自分にとって幸せは何かって考えれば、ショッピングモールとか大きい所に行く人もいれば、ここのお店や地域の商店街でも買い物をする人もいると思うんですよね。みんながみんなそういう所を求めているんじゃないと思うから、やっぱり自分の物差しで自分の幸せの価値観を考えて作っていくことが大事たと思うんですよ。
それは女性が一番主体だと思ってて、男性は男性的に考えながら行動していくものだと思うんですが、女性は感受性が豊かなので感じた心で表現することが多いのであまり理性的ではなくて感情で物事を表現するものだと思うんです。仕方のないことかもしれませんが私はとても良いことだと思っています。
なのでそう言った女性が取り戻せるようなお話し会だったりとか、私たちが働いているところを見るだけでも感じられると思うし、ここの美味しいお惣菜に使われている野菜を作っている家族の想いとかそういう裏側まで感じてもらえるような発信を大事にしていきたいです。
この日はママたちが集まって雑貨を販売するBaton Marketも開かれていた。
ー最後に皆さんへメッセージをお願いしますー
私は特別なこともしてなければ凄いこともしてないし、多分凄いことをしようとしている時が一番何もできないと思ってて、さっきのショッピングモールに買い物に行く時もそうですが、人は目の前の幸せに気付かないことが多いと思います。
遠くに何かを求めているんだけど、今日、こうやってお話しできたこととか、今日スタッフが元気に働いてくれているとか、パートナーに言葉を交わすとか、そんなことを幸せだと感じることから何かをスタートさせた方が絶対ハッピーだなって私は思うんです。
そういう意味で私は特別なこともしてなければ凄いこともしてないということを伝えたいですね。みんなできることだから。私のやり方がたまたまこういうことであった。そのひとによってそれぞれのやり方がある。答えは一つじゃないんだよって言いたいんですよね。
いろんな人のやり方を創発して今のwagamama houseがあるんです。自分の目の前の幸せに気付けるような心を取り戻すのが大事ではないかなと思います。
でも人はそれを多分忘れちゃってるんですよね、社会の波に飲まれて。課題にフォーカスし過ぎちゃってるし、私たちも地域課題を解決したくてやってるわけじゃないんです(笑)。問題は問題としてしょうがないこともあったりして課題に対してどう感じるかよりも向き合っている自分がどうであるかが一番大事だと言いたいですね。
wagamama house盛り上げ役のEMIさんと黒板前にて。
お店の情報
Writer:Nakano Takayuki
町おこしロケーションタイムス創設者。「旅するPhotographer」の名で「まちづくり人や地域の魅力」を写真で伝える活動を展開。
【日本旅行写真家協会 会員】
編集後記
お店に初めて入った時、大きなガラス窓から入る自然光と高い天井がとても開放的で癒しの空間。
来店する方々はベビーカーを引いた地域の子連れの母親が多く、店内はとても賑やかでした。
解放されたキッチンはその母親たちに見てもらえることで話し声やそこにある悩みや課題、そして全体的な空間をシェアし、みんなが幸せになる場所から地域の幸せになれる場所へ広がっていくことで、意識することなく自然と地域が活性化していくことに繋がっているのだろう。
自分らしく心地よい暮らしを見つけて欲しいと願うwagamama house。母親だけでなく、誰もが何気なく立ち寄れて幸せを共有することで日々の忙殺から忘れてしまっている大切な何かを取り戻すことのできるお店になって欲しいです。
【取材データ】
2019.12.3 愛知県岡崎市
取材にご協力いただきました
関係各諸機関のほか、
関係各位に厚くお礼申し上げます。
●ロケ撮影地
wagamama house