地域コーディネーターの役割~消えゆく駅を背景にふるさとを大切にするカタチ~
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堀川風花さん

​北海道清里町

地域コーディネーターの役割
​消えゆく駅を背景にふるさとを大切にするカタチ

取材のきっかけは弊社代表が、堀川さんに伺ったお話からでした。

 

「南斜里という駅を利用していました。何年も前から私たち姉弟が高校に行く際に使っていて、私たちしか使わない駅です。一番下の弟が今年から大学へ進学するので、いよいよ誰も使わない駅になります・・・」(堀川さん)

 

とても寂しい気持ちで少しづつ不便になってしまうと話される堀川さんは、いずれは地元にUターンし、地域振興に取り組もうと思い、しっかりと現実と向き合っていきたいと話す中、堀川さんや清里町周辺の地域を伝えて行くことが弊社メディアとしてもできることと思い立ち、今回の取材が実現しました。

 

国内外の様々な地域を見てきている堀川さんが見つめる「清里町」の今と昔、そして未来。多くの地域と人とをつなぐ役割を担いながら、その視線の先には常に、守りたい愛すべき郷里の美しさや人と人とのコミュニティがある。そんな姿が見えてきました。

「人」が「地域」に関わりしろを作れるようにコーディネートすること

​堀川 風花さん

堀川風花さん

堀川 風花(ほりかわ ふうか)さん  NPO法人ETIC.(エティック ローカルイノベーション事業部所属/北海道斜里郡清里町出身。ノルウェーの農業に対する男女共同の在り方に共感を覚えて高校生の時にノルウェーに1年間留学。明治大学農学部食料環境政策学科に在学中は、地域が抱える課題や町おこしの事例を学ぶために様々な地域を訪れる。卒業後、農業コンサルティングの会社で経験を経て、現在はNPO法人ETIC.で地域コーディネーター*1 として活躍中。

 

*1 地域コーディネーター(http://yokohama.etic.or.jp/archives/1192

中野:まずは現在の『NPO法人ETIC.(エティック)』での堀川さんの取り組みからお聞かせいただけますでしょうか?

 

堀川さん(以下、敬称略):昨年の3月に入社して関わっているプロジェクトのひとつが地域ベンチャー留学です。都市部の学生と地域経営者を繋ぐインターンシップのコーディネートをしています。

 

重要であるものの、なかなか手を付けられていないプロジェクトに、都市部の学生をマッチングすることで、事業が加速したり今までにない視点が加わったりと、様々な化学反応が起こることが、このプロジェクトの魅力です。


受け入れる地域には必ず地域コーディネーターという存在を置くことを条件にしており、プロジェクトの伴走やサポートをしていただいています。

中野隆行

中野 隆行(なかの たかゆき)町おこしロケーションタイムス ファウンダー/愛媛県松山市出身。地域での写真活動を機に出会った地域の人たちの素晴らしい価値観に触れたことがきっかけで、自身の好きな旅をテーマに、全国の地域で暮らす人たちの何気ない姿を価値として発信する地域メディア「町おこしロケーションタイムス」を立ち上げる。

中野:地域コーディネーターというのは、地域づくりコーディネーターなど様々な場所で呼び方があるように思いますが、堀川さんはどのように捉えているのでしょうか。

 

堀川:全国各地で、やりたいことがあるけど、なかなか賛同を得られなかったり、どうやったらいいのか分からなかったりという話がよくあります。

 

私たちは、地域と人との間に入って、必要な情報や知識、人材をつなぐことで、地域の活性化につながる挑戦を応援したいと考えています。その存在こそ地域コーディネーターの役割だと考えています。

 

中野:中間支援組織的な役割は今後さらに必要になりますよね。地域で挑戦するためにはお金も必要ですので、地方銀行の存在も重要ではないでしょうか?

 

堀川:実際に地方銀行の中には、地域コーディネーターとしての役割を担いたいと、弊社のセミナーを受講される方も多いです。

私は、ETIC.で3〜4年程経験を積んで清里町に戻り、地域コーディネーターの役割を担いたいと思っています。清里町に観光に来て楽しんでもらうのも嬉しいのですが、より当事者として町との関わりしろを持っていただけると嬉しいです。

 

例えば、地域の課題を解決するために訪れるという方が、必要とされているとか、「自分が関わった企業はどうなったんだろう」とか、そんな思いが生まれて関わりしろが深くなるじゃないですか。そのようなつなぎ方ができればいいなと思っています。

なくなってしまうものの先には新たな地域再生の期待も秘められている

中野:なるほど素敵ですね。この取材のきっかけとなった 「南斜里駅 *2」の廃止についてお話を聞かせてください。

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*2 JR北海道 釧網本線 南斜里駅は2021年3月13日をもって廃止となった。調べによると、南斜里駅の過去5年間の利用者数は1日平均2.6人(写真提供:堀川様のお父様)

中野:この駅は清里町の隣町にあって、毎朝、高校へ通学するために堀川さんと弟さんが利用していたそうですが。

 

堀川:私は3人姉弟なのですが、南斜里駅は姉弟が全員がお世話になった駅です。むしろ私たち以外の利用者はほとんど見たことがないので、勝手に私たちのためだけに停車してくれる駅なのではという感覚を持っていました。
 

南斜里駅までは2キロ程度なので夏は自転車でも行けましたが、駅が廃止になってしまうと清里町駅まで車で送ってもらわなければいけません。このように少しづつ不便になっていくのを実感していくのかもしれません。

 

中野:駅が廃止になったのは堀川さんたち姉弟の影響ではなく、JR北海道の鉄道利用の需要変化に応じた輸送力の適正化や鉄道事業を継続するため経費削減といった合理化によるものだと思われます。

 

このように公共交通機関の問題は、今後も地域にとっての課題となる部分ですが、堀川さんはどのように思われているのでしょうか。

南斜里駅ホーム

堀川:率直な感想を言うと、寂しい気持ちが大きいですが、人口が減少している中で、交通が不便になり住みにくくなるのは仕方のない部分もあるのかなと感じています。でもその代わりに生まれるビジネスもあるのだと思います。

 

乗合バスや地域全体で見守る仕組みなど助け合いのシステムができていくのではないでしょうか。

地域コミュニティの中で育まれる地域愛で地域の人が先生になれる場づくり

中野:なるほど。地域全体で見守るというと、堀川さんの幼少期に地域の人たちの見守ってくれていたエピソードにも通じますね。その中で印象に残ったのは小学校の頃のお話で、学校や近くの森で過ごされていた思い出です。

 

堀川:そうですね。学校の隣にある森は防風林 *3なんですが、小さい頃に地域のお父さんたちが遊歩道を整備してくれたんですね。


当時は、よく基地にして遊んでいました(笑)。釘、トンカチ、ロープがあれば誰でもなんでも作れて、たまに、小学校の高学年生が作った基地みたいなものを見て、「やっぱり高学年すごいなー」なんて言ったり。近くの知っている人の畑なんですけど、作物とかちょっともらってお店屋さんをしたりと思い出が深い場所です。

防風林

*3 防風林や防雪林は風や雪など自然被害から田畑を守るために設けられた森林で、清里町の田畑は防風林によって500m間隔でサイコロのように四角く区画分されている(googleストリートビューより)。

堀川:私の通っていた小学校は、当時は全校生徒で20人ほどしかいなかったので生徒や保護者とも非常に濃いつながりがありました。

 

生徒が少ないので、運動会は子どもたちだけの競技だと午前中には終わってしまうんです。楽しみのお弁当も食べれないので、大人たちも競技に加わって盛り上げていました。

 

リレーや地区対抗の綱引きなど競技が多彩になると、誰々のお父さんは足が速いとか、どこの地区の綱引きが強いとか特徴が分かるんですよね。

 

他にも私の地域では、小学1年生から剣道をやるのですが、保護者が先生なんです。スピードスケートのリンクも保護者たちが徹夜で校庭に作ってくれて、地域の人が先生になって、子どもたちの場づくりをしてくれます。

 

中野:地域の人が先生って素敵ですね!地域と密接につながって子どもたちを見守っている感じが伝わってきます。

 

堀川:そうなんです。剣道の大会の日は小学校の図書館が飲み会会場になるんですよ。保護者たちも先生も酔っ払っていましたね。

 

子どもたちは夜11時でも学校に残れる貴重な日なので、真っ暗な校舎で肝試ししたり、体育館の電気をつけてもらってドッジボールをしたりと楽しかったです。

 

中野:それはすごくおもしろそう。大人が聞いてもワクワクします。


堀川:保護者も先生も仲良くなれて、地域全体で子どもを指導してくれる。そんな風土が好きなんです。それが地元愛の源ですし、清里町で今後活動したいという思いにもつながっています。

豊富な地域資源を活かし、情報発信で挑戦する土壌を創ること

中野:なるほどなるほど。地域全体に育てられたというのは素敵ですね。そう言えば飲み会でお酒とありますが、清里町は日本で初めてジャガイモを原料として作られた「じゃがいも焼酎 *4」が有名ですね。地域の人も飲まれるのですか。

 

堀川:じゃがいも焼酎は地域の人も、私の両親も飲みますね。ひとつのアイデンティティみたいなものかもしれません。

じゃがいも焼酎

*4 じゃがいも焼酎の製造は清里町を代表する特産品を開発したいという思いから昭和50年に町全体として事業をスタートした。2015年にはGOOD DESIGN AWARDも受賞している清里町を代表する特産品(写真提供:清里焼酎醸造所)。

堀川:私も、じゃがいも焼酎や清里町の野菜を知って欲しい思いがあって、大学生のとき、アルバイト先のイタリアンバーを貸し切って「風花の清里ナイト」というイベントをやりました。そこでじゃがいも焼酎も提供しました。

 

中野:おいしそうな郷土料理が思い浮かびます。清里町の野菜はネットでも購入できるのでしょうか?

 

堀川:個人ではネットでも販売をされているかもしれません。清里町では、 パパスランドさっつるという道の駅があり、そこでは野菜や特産品などが販売されています。キャンパーの利用も多く、ドッグランもあるのでいつも車がたくさん停まっていますね。

 

中野:車中泊や、キャンプする人も増えていると聞きますしね。お話を伺っていて、とても地域愛を感じます。清里町を紹介する 動画『清里町の大好きがつまったPV』も拝見しましたが、いつ撮影されたのですか?


堀川:見て下さってありがとうございます!在宅勤務なので、昨年3ヶ月程清里に帰って撮影しました。Instagramで公募していた  『キヨサトピクス』というイベントに投稿するためです。

パパスランドさっつる

コロナ禍で地域での可能性は増し、ふるさとを思う人の流れは加速する

中野:なるほど。在宅勤務と言えばコロナ禍でリモートワークは増えていますね。堀川さん自身が変わった事や思いはありますか?

 

堀川:この約1年間ほとんどリモートワークで、会社に出社したのも両手で数えられるほどです。どこでも仕事ができるので、清里町に戻ったとしても、活動が本格始動するまではこの仕事も続けられると思っています。

 

いろんなとこで言われていますが、なんのために東京にいるのかが分からない。仕事や学校のためだったものが、リモートで可能ならばより住みやすいところで過ごしたい

 

私も自然が豊かでのびのびと暮らせる清里町が良いです。 今後は、移住や二拠点居住などの流れが加速し、地域の可能性が広がることを期待しています。

スクリーンショット (9).png

中野:堀川さんの場合は、海外や東京などの居住歴もあるので客観的にも故郷を見ることができる利点もあり、強い思いが働いているのではないかと思います。

 

堀川:そうですね。離れてみて思うことは、田舎は可能性にあふれているということです。

 

真っ暗で電灯のない道は星が綺麗に見えて、そこに価値があったり、車を走らせて5分ほどで終わってしまう町の小ささをおもしろいと捉えてくれる人がいたり、真っ直ぐな道が珍しいと言われたり、そういうのをうまくビジネスに展開している事例もあります。

 

そして地域の人って多才なんですよね。本業がちゃんとありながらも、上手にメロンを作って箱詰めして発送までしているおじさんとか、お花を上手に作るおばさんとか。エピソードを添えて発信することでより関心をもっていただける事例もたくさんありますし、可能性も感じています。

 

中野:なるほど。SNSでも発信されていましたが、なにもないけどなんでもあることって意識が変わっていきますよね。とても新鮮で大事にしていきたい事ですね。

 

堀川:自分が楽しく清里町ライフを送っていれば、それを見て、田舎暮らしっておもしろいのかもって思ってもらえて、そこからさらに仲間ができてつながりが広がっていく。おもしろい人の周りにはおもしろい人が集まるんじゃないかと思います。

地域で挑戦することが地域に貢献していく結果となること

堀川風花さん

中野:そうですよね!将来、清里町に戻ったらどんなことをしたいですか?

 

堀川:まだ考えている途中でまとまってはいませんが、実家が農家というのはすごくプラスになると思っています。農業には、いちばん可能性を感じていますし、好きな職種です。

 

先ほどの小学校の話にもつながるのですが、私は地域全体に育てられたと思っていて、地域と触れ合う時間が多かったから地域愛が強いと感じているので地域の人のためになる事をしたいんです。


その中で、清里町で何か挑戦したい人や、地域に思いを持っている人同士がつながって自由にやりたいことを語り合えるような場所を創りたいです。

清里町のみなさん

堀川:実はちょうど今、候補物件が1棟、町役場の目の前にあり、リフォームしてみようかという話になっています。私と夫で、人が集まれる場所ができないかなって思っています。

 

中野:とても素敵ですね。形になった際にはぜひお伺いしたいです。そういう新しい動きは周辺地域を巻き込んでひとつの事例ができれば、きっと注目されてさらに広がりますよね。

「地域の可能性」と「挑戦する人」をつなぐコーディネーターが思い描く持続可能なまちづくり

中野:最後に、まだまだ清里町のことを知らない人、行ってみたい、移住したい、関わりたいという人へ、清里町のPRと併せてメッセージをお願いします。

 

堀川:清里町は斜里岳や神の子池、さくらの滝に清里ストレートロード、そして、裏摩周展望台など、雄大な自然を満喫できる観光名所もたくさんあります。

神の子池

堀川:そして清里町は何かしたいという方にとって、挑戦しやすい環境だと思いますが、人づき合いが濃くなると思ってください。その分、お互いの子どもを見守ったり、モノを共有したりと、思いやりや優しさ、そして、温かみを感じることができます

 

土地も広くて、自然や食が豊かで人が温かい。そこに価値や可能性を感じて、来てもらえたらすごく嬉しいですし、私が清里に戻ったら、ぜひ一緒に何かできたらいいなと思います。清里町で挑戦したい人をサポートするコーディネーターになって、清里町でお迎えすることが私の夢です!!

斜里岳

結び-Ending-

地域には、もっとこんなことしたいけど本業が忙しくて体がもうひとつくらい欲しい!という人も多くいます。

 

そして、そんな思いに賛同して、インターンや複業兼業という形で、観光で行くだけではなく、深い関わりしろを作りたい人もたくさんいるのです。そこが引き合う事で、地域にまたひとつの動きが生まれます。

 

地域コーディネーターの役割は今後さらに重要になるのでしょう。清里町の景色や、思い出を話す堀川さんの言葉のひとつひとつからは地域愛があふれていました。

 

堀川さんが地域コーディネーターとして清里町で活躍する際には、さらにおもしろい清里町に出会えそうです。読者の皆様にも堀川さんと清里町の応援をよろしくお願いいたします!!

がのちゃん
Writer:がのちゃん

元地域おこし協力隊。現在は地域コミュニティの活性化や起業者育成、サテライトオフィス誘致などの事業に携わっています。好奇心旺盛な平和主義者です。

【取材データ】

2021.03.05 オンライン

【監修・取材協力】

・NPO法人 ETIC.(エティック)

ローカルイノベーション事業部

【資料提供】

・北海道清里町 清里焼酎醸造所

取材にご協力いただきました関係各諸機関のほか、関係各位に厚く御礼申し上げます。

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