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鹿児島県 大島郡 和泊町(沖永良部島)
豊かな島ぐらしに触れながら、今の時代に合ったチームをつくり、あらゆる知識を活かして地域でチャレンジすることが、課題解決への糸口

最近、離島に移住して地域活動を行いながら暮らしている移住者が最近増えています。今回は、鹿児島県沖永良部島の和泊町(わどまりちょう)で、地域を盛り上げようとしている移住者のお話を伺いました。

和泊町地図

その中で見えてきたのは、地域の若い世代の担い手不足を何とかしたいと思い、3年間、行政の中で役場職員と関係性を築きながら信頼を積み上げてきた姿でした。

 

そして今もなお、地域課題を解決するために、あらゆる知識を活かし、今の世の中に合ったビジネスの在り方を追求するチームを創ろうと奮闘し、地域で豊かな暮らしを楽しんでいる様子を感じることができました。

人口が多く、地域資源が豊富で豊かな暮らしができる離島でも、若い担い手不足が地域の課題

「オンライン移住交流会を主催したんですよ」と、そう話す金城さん。毎年恒例の「沖永良部島移住体験ツアー」。今年はコロナ禍のためオンラインに切り替えて移住交流会という形で開催したが、大いに盛り上がったという。

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参加者は参加費を負担することで、観光協会から島の黒糖焼酎など、有名な特産品が自宅に届く。当日はWeb会議サービス「ZOOM」で現地とつないで、お酒を飲みながら移住者の話を聞いたり、特産品の紹介もあったりと、島で一緒に飲んでいるようなゆるい雰囲気で交流。


「沖永良部島は全体で人口12,000人と規模も大きいので、一通りの行政サービスはあります。ただ、担い手に関しては20代~30代がごっそり抜けちゃっているんです。仕事が限られているので、高校を卒業すると島から出てしまい戻ってくる人が少ないのが現状です」(金城さん)

金城真幸さん

金城 真幸(きんじょう まさゆき)さん:えらぶ島づくり協同組合 事務局長/鹿児島県和泊町在住。神奈川県出身。総務省の地域おこし協力隊制度を活用し、奄美群島沖永良部島の和泊町に移住。2020年3月まで役場で集落支援・古民家改修、そして移住者支援、また、観光による地域活性化や農家支援に取り組んできた。現在は島の人材不足の事業者に対して必要な時期に人材確保ができる特定地域づくり事業共同組合制度を活用し、組合設立に向けて準備を進めている。

島では農家が多く、そこを継ぐか起業するかを選択するしかないが、飲食店、美容師といったように、手に職を持っている人以外はUターン後に起業を目指す人は少ないという。そう話す金城さんは、この島に飛び込んでいった。地域の人はどう感じていたんだろうか。

 

「この地に来て、初めに島の人から『何もない島だけど来てくれて嬉しい』と言われたんです。地域の人たちは、都会と比較して便利なサービスが少ないので引け目を感じていると思うんですね。

 

でも、都会からここに来る人に関しては、農作物や獲れたての美味しい魚がたくさん得られるので、生活が豊かで自然が素敵で凄く贅沢だなと。でも地域の人たちはそれが当たり前と思っているんです」(金城さん)

 

そんな暮らしに少し触れるだけでも、どんなに楽しいことだろうか。美しい朝焼けや夕焼け、そして夜は満天の星空や月が日常的に見れてとても充実感があると話す金城さん。

島周辺はサンゴ礁が綺麗で魚も多くいる。海へ行けばほとんどの確率でウミガメにも会えるそうで、聞いているだけでワクワクしてくるではないか。


どの地域でも、住んでいると地域の良さが分からないことがあり、外からくる人たちによって地域の良さを実感することが多いので、地域を何とかしたいとか、盛り上げたいという人は、まさに金城さんたち移住者によって行われているといってもいいだろう。

あらゆる知識を活かしながら、地域の理解を求めて「特定地域づくり事業協同組合制度」という新しい挑戦に向けて一歩踏み出す

「僕は以前から、農家さんの支援もしているんです。この島には海外からの技能実習生が100人近くいるんですが、いろいろ課題があって、新聞にも取り上げられていてショックを受けていたんです。


そこで、いろんな農家さんから課題などのヒアリングを行い、解決するための制度を探していて、色々試行錯誤しながらたどり着いたのが地域人口の急減に対処するための特定地域づくり事業の推進に関する法律特定地域づくり事業推進法)を活用した特定地域づくり事業協同組合制度 *1なんです」(金城さん)

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*1特定地域づくり事業協同組合制度

2020年6月に施行された制度で、地域人口の急減に直面している地域において、農林水産業、商工業等の地域産業の担い手を確保するもの。例えば地域の企業が時給600円出すと、もう半分を地域と国が出すもの。現在、和泊町(わどまりちょう)では、全国中小企業団体中央会と鹿児島中小企業団体中央会で行っている(2021年2月現在)。

 

総務省ホームページから

https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/jichi_gyousei/c-gyousei/tokutei_chiiki-dukuri-jigyou.html

しかし、当時は施行されたばかりの制度ということもあり、町の担当者やいろんな関係者を巻き込んでいかないとできない。町役場や町長にも事業説明をしたりとかなりの時間がかかったという。

 

「農家さんの話を聞いたりして信頼関係を築いてきたんです。役場も同様で、いい制度だからすぐにやるというわけにはいかず、結構時間もかかりました。

 

役場としても、町としてお金を出す事業なので、本当にいいと思わなかったら乗って来ないんですけど、まちの未来を見据えたときに地域の担い手不足は大きな課題ですよね。みんな何とかしたいとは思っているんです」(金城さん)

 

ここ30年間で島の20~30代の若者が50%も減っている。地域の学校も維持できなかったり、地域の祭りや行事もできなくなるレベルと言っても過言ではない。

 

このまま何もしない状態で5年後どうなっているかを地域の人たちは薄々感じているようではある。その中で、地域で事業の説明を行う際、島の人口の統計を取ってリアルなデータを示して理解を求めたという。

 

しかし、人によっては今の状態から変わることを望まない人もいると思うのだ。そんな人たちとの向き合い方についても気になるところだが、それについてはどう思うのだろうか?

資料1

「確かにそうですよね。だって、何もしないほうが楽なんですから。特定地域づくり事業協同組合制度は法人が4事業者以上集まって自治体が認めてくれればできる事業なんです。ただ、無理には巻き込まないことを大切にしながら、当事者意識を持っている人たちと事業を進めることを前提として取り組んでいます」(金城さん)

地域おこし協力隊制度で定住率を向上させるには、移住者のサポートをする中間支援組織が必要

自ら変わろうとすることはとてもしんどい。だが、変われなければ生き残ることすら困難な地域も出てくる。変われない地域は今後消滅していくのではないかと。そんな疑問を金城さんに投げかけてみた。

 

「確かにそう思います。この島でも例えば、公共バスの問題もあって、全然利用されていないんですよね。本数も少ないし、高齢者の方は本当に困っていると思います。路線をどうやって維持していくか、大きな問題だと思います。

 

また、自治体によっては運営しているホテルなどの施設が赤字であるところも多く、維持するためにさらに赤字が膨れ上がるんです。コロナ禍もあって、国も手を差し伸べることが難しい中、ふるさと納税などで民間のように利益を追求していかないと機能不全に陥るでしょう」(金城さん)

 

そんな金城さんは、元々は神奈川県出身。他の地域で、自治体ではない民間が総務省の地域おこし協力隊制度を活用して面白い取り組みをしている事例を落とし込み、かつ、イメージしながら今の沖永良部島での地域づくりに活かしたいと話してくれた。


従来は自治体主体で取り入れている地域おこし協力隊制度は、最近は民間も積極的に導入している事例も増えてきていることから、民間が行政の役割を担うようになってきたのではないか。

えらぶゆり

沖縄や奄美諸島に自生するテッポウユリ。沖永良部島では「えらぶゆり」と呼ばれ、春先に花をつける。お盆の頃に花が咲く本州に見られるのはタカサゴユリで本種とは異なる。

「やっぱり自治体だけでは、制度をうまく活用するのは難しいし、カバーしきれないのではないでしょうか。行政と民間では考え方が根本的に違いますし、その中に入り込んだ人たちも疲弊すると思います。

 

とは言え、ずっと行政から離れたところで地域活動をしていると役場の情報が全く入って来ない部分もあるんですよね。僕は任期満了までの3年間役場にいたので、各担当者のことや国の動きなどの情報も得られて、結果として色んな事業がやりやすかったですね。このことから僕としては、役場と民間の間の中間支援が必要だと思います」(金城さん)

 

行政と民間の間に立つ中間支援の立場が必要と話す金城さん。行政の立場にいながら民間の発想で地域活動を進めて行くことの重要性を改めて感じ取った。

 

2020年4月より、自治体が地域おこし協力隊制度を利用する場合、それまで特別職非常勤職員という扱いから会計年度任用職員 *2 として採用することが義務付けられた。

 

さらに、一般職地方公務員と見なされることから、地方公務員法で規定された公務上の義務・規律、人事評価が適用される他、上司の命令に従う義務、信用失墜行為の禁止、守秘義務、職務専念義務や政治的行為の制限などがあり、フルタイム会計年度任用職員には、副業・兼業も禁止される。こうなってくるとかなりプレッシャーもあるのではないだろうか。

 

*2 参考:総務省 地方公務員制度等 会計年度任用職員制度等

https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/jichi_gyousei/koumuin_seido/kaikeinendo_ninyou.html

地域で根付いていくためには、何事も当事者意識で接することが、結果として地域で信頼関係を構築する

「そうですね。例えば、農水省の農泊推進事業 *3 も1,700万円というかなり大きな金額を協力隊だった僕が、予算を取ってしまったんです。役場としても慌てますよね。

 

上司である課長の公認を得ていたので問題はないだろうと思っていたんですが、実際には違っていましたね。他の職員からは疑問の声も上がってきて。なので、全員にどんな事業をやるのかをプレゼン資料を作って理解を求めていきました。

 

このときの経験で民間と行政での進め方の違いを明確に認識しました。行政では、全員の承認を得る合意形成が最重要であり、丁寧に物事を進める必要性を理解しました」(金城さん)

 

*3 農林水産省の農泊推進事業

「農泊」とは、農山漁村地域に宿泊し、滞在中に豊かな地域資源を活用した食事や体験等を楽しむ「農山漁村滞在型旅行」のことで、地域資源を観光コンテンツとして活用し、インバウンドを含む国内外の観光客を農山漁村に呼び込み、地域の所得向上と活性化を図るための支援制度で、そのソフト対策事業の一つ。

地域でお手本となるような既成事実を創り上げることは難しい。地域で根付いていくためには、行政があらかじめレールを敷いておくことも必要だと、金城さんは話してくれた。


「通常の業務とは関係のないことだったんですが、台風による停電で課にかかってくる電話を僕が応対したり、体育祭や海のレースといった課が担当する地域行事を手伝ったりと、役場の当事者として対応したことが結果として、信頼関係を積み上げることにつながったと感じています」(金城さん)

資料2

地域おこし協力隊制度は本当に奥が深いし、地域によって活動方法も多様だ。移住者を呼び込むことによって地域が変わることを期待する行政。しかし、地域で根付いて暮らしていく中で最も重要なのは、パイプ役的な立ち位置の地域のキーパーソンと関係性を築くことであると思っている。

 

それは酒蔵の創業者であったり、会社・団体のトップリーダーなど、古くからそこで生活し、地域住民からも信頼されている人たちだ。そういう人たちに信用を得て、かつ、相談相手にもなってくれる関係性が築けると地域での可能性が広がってくる。

 

総務省も今後は、地域おこし協力隊制度を利用して移住する人たちをサポートする体制づくりに力を入れるとしており、今後はこのカタチも変化していくだろう。

 

その中で、任期満了後も地域で暮らしていけるよう仕事を見つけたり起業できる形へ導けるようになって欲しいものだ。金城さんの地域で移住・定住された人はどんな職種に就いているんだろうか。

 

「地域にすごく溶け込んでカフェをやっている人もいれば、役場にそのまま留まって移住担当という形で、自らポストをつくって仕事をしている人もいます。でも、このような形で仕事をしていくのは、なかなか難しいですよね」(金城さん)

試行錯誤しながらチャレンジし、これからの時代に合ったビジネスの仕方を追求するチームを形成することが、地域を盛り上げていく

離島や過疎地域で、持続的に仕事をして食べていくことの難しさを改めて思い知る。ハードルの高い地域でチャレンジしている金城さんは、なぜ敢えて厳しい道を選んだのだろうか。

 

「和泊町に移住したのはタイミング的なこともありますが、僕自身、試行錯誤しながらチャレンジすることが好きなんですよね。誰でもできる簡単なことは、自分にとって面白くないんですよ。難しいと思うことにやる気が出るんです。変態的なところがあるかもしれないんですが。笑」(金城さん)

 

以前は海外で20年間住んでいた経験もあり、色んな地域で仕事をしていた金城さん。日本に帰ってきても知らない地域に行くことに全く抵抗がなく、世界中どこでも適応できるという。言語の壁があったとしても楽しく生活していけるとも。そして今、新たに取り組んでいることも話してくれた。

 

「任期満了後に最初にやりたいと思っていたことが、コロナ禍で厳しくなったので、方針転換して特定地域づくり協同組合制度を活用した事業の取り組みを行いつつ、ECサイトの運営や特産品づくりもやっているんです。


島の有名な「桑茶」を、お茶以外に食事でも取り入れるという発想を考えていて、クラウドファンディングから先行予約販売をしてECサイトにつなげたりと、新しい視点で島の特産品のPRをしていこうと考えています」(金城さん)

資料3

桑の葉を収穫している様子(クラウドファンディングに掲載されている写真から引用)

本当にいろんなことに挑戦しつづける金城さん。特定地域づくり事業協同組合制度の活用は、事業者の人材不足を補うことが目的だが、これからの時代に合ったビジネスの仕方を追求するチームを形成したいと意気込んでいた。その姿からは当事者意識で地域を変えていきたいという思いにあふれていた。

編集後記

地域でビジネスを起こそうとしても規模が小さいので収益を上げるのは難しい。スタートアップとして国と自治体の財政支援をうまく活用しながら自走化を遂げて、地域をおこしていくことの大切さを訴えている金城さん。

 

地域おこし協力隊を任期満了され、今は大きな事業に取り組まれているという事例は個人的にも聞いたことがなかったので、お話を伺うことが自分自身にとっても学びのある時間でした。でも、大事なのは地域で楽しく暮らしていくこと。その中で課題に取り組んでいくことが持続可能な地域づくりにつながるのではないでしょうか?

NAKANO TAKAYUKI
企画・制作:NAKANO TAKAYUKI

町おこしロケーションタイムス創設者。

写真や映像を通じて地域を発信し、地域と地域を結び、人と人を繋ぐ活動を展開。

【取材データ】

2021.01.24 オンライン

【監修・取材協力・資料提供】

・金城 真幸 様

取材にご協力いただきました関係各諸機関のほか、関係各位に厚く御礼申し上げます。