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山口県萩市
アーティスト・イン・レジデンスを取り入れ、面白くて多様性のある地域の拠点を築きたい

空き家という地域課題は、全国的にも深刻な問題となっており、その課題解決方法が今注目を浴びてきています。

 

今回は、山口県萩市の事例にスポットを当てて取材を行いました。空き家問題だけではなく移住、地域創生・地域活性化という幅広い観点からお話していただきました。

 

取材にご協力いただいたのは、萩市役所の釼物 佳代子(けんもつ かよこ)さんと萩市に移住されて地域で活動する秋山 光里(あきやま みつのり)さん。

 

また、大学で空き家課題についても学んでいる大正大学 地域創生学部2年の平野 彩音(ひらの あやね)さんも交えて、ご意見をいただきながら弊社代表と4名で語りました。

 

空き家問題や移住者のサポートなど、萩市ではどのように工夫されているのでしょうか。早速お話を伺っていきたいと思います。

萩市に移住し、地域で活動するプレーヤーは県内最多。その人数に関しては首長の判断によるものが大きい。

中野(モデレーター:以下、省略):萩市には現在、総務省の地域おこし協力隊制度を利用して移住された方たちがたくさん活躍されていると伺っているのですが、規模としては山口県では最大なのでしょうか。

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中野 隆行(なかの たかゆき)町おこしロケーションタイムス ファウンダー/愛媛県松山市出身。地域での写真活動を機に出会った地域の人たちの素晴らしい価値観に触れたことがきっかけで、自身の好きな旅をテーマに、全国の地域で暮らす人たちの何気ない姿を価値として発信する地域メディア「町おこしロケーションタイムス」を立ち上げる。地域で、やりたいことに挑戦するひとを応援するために、地域と行政や団体の間に入り、必要な情報や知識、人材をつなぐことにも取り組んでいる。

釼物さん(以下、敬称略):そうですね。県内最多で現在、萩市役所の会計年度任用職員として活動している方は20名です。

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釼物 佳代子(けんもつ かよこ)さん:山口県萩市役所 地域政策部 おいでませ豊かな暮らし応援課 課長補佐/移住定住促進、移住者の支援を行う。行政情報だけではユーザーにとって重く感じることから、官民連携しながら、地域外の人が興味を持つような情報発信を行うコミュニケーションづくりにも力を入れている。

中野:それだけ多くのプレーヤーを呼び込んでいるのには、何か目的があるのでしょうか。


釼物:そうですね。総務省の地域おこし協力隊制度を活用して、会計年度任用職員という形で外部人材を取り入れて地域活性化にどれだけ力を入れるかが目的ですので、自治体の首長の判断なのだと思います。萩市としては、平成27年から毎年8名ずつ採用してきました。

さまざまな人を巻き込みながら、魅力ある地域資源・コンテンツを活かすミッション

中野:それでは秋山さんの萩市での取り組みについてお伺いできますか?

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秋山 光里(あきやま みつのり)さん:山口県萩市役所 産業戦略室 会計年度任用職員/広島県三次市出身。2019年9月に総務省の地域おこし協力隊制度を活用し萩市に移住。萩市では、地域の人材育成や地域資源のブランディングなどに取り組む。

秋山さん(以下、敬称略):私は地域の人材育成と、地域資源のブランディングというミッションで入ってきました。実際やっていることは大きく2つありまして、1つは人材育成という観点から、萩市で長期滞在しながら何か制作活動できるようなスペース作りを行っています。

 

空き家を改修しながら鶴島邸として、アーティスト・イン・レジデンスの受け入れや、旅人・クリエイターなど多様な方と交流しながら、同時に希少性も持ち合わせた宿も始めようと考えています。

 

2つ目が、地域資源のブランディングです。地域資源・コンテンツがたくさんある中で、地域の旅行会社と一緒にそれらを結べるような、サイクリングツアーなどをコーディネートしています。

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萩市では家財が残っていても空き家バンクに登録できるため、登録件数が多く、転入者も家財処分を希望しないケースが多い

中野:ありがとうございます。萩市の空き家の状況について、戸数や、空き家の利活用にはどのように取り組まれているのかお伺いしたいのですが、いかがでしょうか?

 

釼物:移住者の方が「空き家バンク」の空き家を活用して移住された場合に、改修費の補助やリノベーションに対する助成を行っています。

 

また、空き家バンクで現在情報公開中のものは建屋で100件ほど、土地が30件ほどありますが、萩市の空き家バンクには、常時100件ほどの物件が載っています。

 

中野:多くの地域では、空き家バンクに登録するためには、家の中を空にしないといけないということを伺いました。萩市はどうなのでしょうか?

 

釼物:萩市は家財や家具が残っていても、そのまま空き家バンクへの登録を認めているんです。ですから、登録件数が多いというのはありますね。


平野さん(以下、敬称略):私の地元である三重県松阪市は、空き家バンクに登録される件数がすごく少ないというのが課題です。

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平野 彩音(ひらの あやね)さん:大正大学 地域創生学部2年/三重県松阪市飯高町出身。三重県立飯南高等学校在学中に空き家片付けプロジェクトなどに取り組み、卒業後も地域と関わりを続けて空き家問題などの地域課題に取り組んでいる。最近はweb「空き家活用特集」での情報発信も行っている。

平野:その理由として、仏壇や家具などが残っているという課題があって。萩市では、家具があることによって「この家は家具があるから諦める」というような移住者の方はいらっしゃいますか?

 

釼物:引越ししてくる時にあまり荷物を持ってこない方も多く、全部空にして欲しいという方は意外といない印象です。一応家財撤去に上限10万円の補助金を出しています。

 

中野:なるほど。こういう萩市の空き家バンクのやり方というのは、他の自治体からも視察が入ったりするのでしょうか?

 

釼物:全国的に空き家バンクの登録件数が少ない自治体さんが多いので、萩市に行政視察が入ることは結構あります。

 

家財がない状態がベストだと思いますが、そこを所有者さんに求めすぎないということをよくお話しています。

 

相続を受けた所有者さんは大抵、子や孫の代になってしまっているので、お金をかけたくないという気持ちが強い方が多いですね。そこをうまく売買価格の調整などを行い、登録推進を行なっています。

 

中野:手入れや管理も行政の方がやっていらっしゃるのでしょうか?

 

釼物:管理はしません。基本的に、成約者が決まるまでは自己管理です。それは所有者さんの方にきちんとお話して、風通しなどを継続してやるようにお願いしています。

 

遠方で難しい方には、代行サービスを紹介しています。また、1ヶ月に1回は案内希望の依頼が入ってくる物件が多く、それが結局管理という形になっています。

アーティスト・イン・レジデンスの活動を通して、人と人や地域と地域、さらに地域と社会をつないでいく

中野:空き家の利活用という観点から、秋山さんの活動についてもう少し詳しくお伺いしたいのですが。


秋山:そうですね。空き家を改修しながらアーティスト・イン・レジデンスの受け入れなどを行なっています。

映像や音楽、写真をメインに制作活動されるアーティスト(学生や団体を含む)が、現在改修中の空き家に滞在しながら制作活動するという内容です。


このことから地域資源の再発見を行ったり、人と人や地域と地域、あるいは地域と社会をつなぐコミュニケーションツールとしてのアートを探求していけたらと思っていて。

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秋山:このレジデンスを通して萩市に関係してくれる人が増えてくれると嬉しいです。そんな仲間が他の地域でも似たような面白いコミュニティを醸成して、またいつかどこかでつながってくれたらいいなと思っています。

地域移住サポーターという中間支援者と行政が連携して、移住者のサポートを行う

中野:空き家を見学し、実際に移住を希望される方も多いと思うのですが、その移住者希望者に対して、どういう人なのか不安を抱いている地域住民の方もいらっしゃると思います。

 

行政のところに話が来た時に、審査とは言わないまでも、どういう目的でこの地域に住みたいのかというお話を伺ったりはされるのでしょうか?

 

釼物:公的機関で相談窓口を設けている以上、案内して欲しいと言われたら断りはしません。

 

各地域に移住者と地域をつなぐ地域移住サポーターという方がいるのですが、その方と連携して、地域の決まりごとを詳しくご説明させてもらいます。その結果、合わないなと感じられた方は自然と離れていかれますね。

 

中野:地域移住サポーターというのは、行政ではない中間支援的な機関なのでしょうか?

 

釼物:そうですね。行政ではなく有償ボランティアで働いてもらっています。そこにずっと根付いて住んでいらっしゃる地元の方です。

 

行政主導で移住者支援を行うと、3年周期で異動になってしまうので、せっかく培ったスキルや蓄積されたノウハウ、人の繋がりも切れ、さまざまなことが3年後にゼロになってしまいます。また、私の場合、市街地のことはわかっても、中山間地域のことはほぼ分かりません。

 

そこで、地域移住サポーターに協力していただき、移住者の方へ事前に地域のことをお話していただいて、引っ越して来た時に、自分の思っていた地域と違ったということがないような取り組みはしています。

 

中野:そういう中間支援的な機関が全国的には不足しているので、この事例はとても興味深いと思いました。平野さんはどう思われますか?

 

平野:地域移住サポーターを地域の方が自らやるということに感心しました。地域の方がやるからこそ、事前にコミュニケーションが取れることで移住者側は安心すると思います。

 

また、住んでみないと分からない事柄についても分かると思うので、すごく良い形だなと思います。

 

中野:将来的にはNPOのようなものを立ち上げて運営していきたいという解釈でよろしいでしょうか?

 

釼物:地域移住サポーターは市街地にはいないんですが、将来的には市街地にも中間支援的な機関を作って、ここに行けばいつも同じ人がいて相談できるというような体制を作っていかなければと思っています。

 

次のステップとしては、萩暮らし応援センターという移住定住総合相談窓口が、令和4年4月に、市役所の庁舎外に出る予定です。そうすることで、遅めの時間まで開けたり土日も開けたりできるようになり、お客様も来やすくなると思います。

地域に暮らす人々と関わりを増やし、試行錯誤しながら学び、楽しく暮らしながら地域に溶け込んでいく

中野:実際に移住されてから、良かったことや苦労したことなどがあれば教えていただけますか。秋山さんお願いします。

 

秋山:試行錯誤は絶えないですね。地域といっても登場人物が多いので、全ての方とコミュニケーションを取るのがすごく難しくて。

 

苦労した点では、私の場合は居住地に地域移住サポーターの方がいらっしゃらなかったので、最初はどうやって入っていこうと思いました。

 

まず地域の困り事を探そうと思って、お年寄りだけではできない草刈りをしたり、大きい木を切ってあげたりとか。そういう小さなことを積み重ねて、地域に入っていきました。

 

あとは先輩のアドバイス通りにやったことなのですが、分かっていても聞くということをしています。

 

例えば、畑にはこの時期に何を植えたらいいのかとか、大体分かるのですがあえて聞く。そういうことでコミュニケーションを取ったりしています。これを3ヶ月ほど行うと段々と話せるようになりました。


中野:地域創生や地域課題の解決というと難しく聞こえますよね。地域に入り込んで、楽しく面白く暮らし、地域の人との関わりを増やしていくということが、ひいては地域課題の解決に結びつくのではないかなと思っていて。その面白いことの副産物が地域創生なのではないかなと思うんですよ。

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秋山さんと地域の人との交流の様子

秋山:僕もそう思います。イベントをやったり広告を打ったりして地域にきてもらうというよりは、そこでどれだけ面白い暮らしを作っておくかという方が重要だと思っています。そういうものを作っておけば、勝手に人が来てくれると思うんです。

移住に限定するのではなくファンを増やすことが、滞在時間を増やし、結果的に定住に結びつく。

中野:これから萩市を知りたい人がどんどん増えて、注目を浴びてくるのではないかなと思っていて。何か伝えたいことがあれば共有していただけますか?

 

秋山:萩市の美しさ、彩り、人などの豊かさというのは一定期間滞在しないと分からないと思っています。


私も長くいればいるほど気づく豊かさというものがありました。メッセージとしては、数日ではなく1~2週間、1ヶ月以上ぜひ※滞在してみて欲しいですね。

※滞在クリエイターが制作した「新しい萩市地図」(以下写真)。滞在期間中に萩市中で写真を撮り、撮った写真をその場所にマッピングし、写真で萩市の地図を作成。

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中野:そんな中で取り組まれている活動が、先にも紹介したアーティスト・イン・レジデンスなのですね。釼物さんからも伺いたいのですが、どうでしょうか?

 

釼物:移住定住促進において、移住に限定してしまうのではなく、萩市のファンを増やすことが大事かなと思っています。

 

これまで萩市側としてはプレーヤーを43名採用しているのですが、十人十色ですね。それぞれが感じる豊かさや楽しさがあり、コミュニティもさまざまです。それに魅了された人が外からやって来ます。

 

滞在がどんどん長くなってくることで、最終的には「あの人、移住しちゃったよ」という感じで、勝手に移住者が増えていくようなことが起こってくればそれでいいと思っています。


あくまで民がベースじゃないと移住促進は長期的にはやっていけないので、そこの一部支援を行政ができればいいなと思っています。

プレーヤーの将来に向けたビジョンを把握し、地域に根ざすための支援を続けることで定住につなげる

平野:釼物さんに質問です。毎年8名ずつ萩市側としてプレーヤーを採用しているというお話を伺ったのですが、応募数は多いのでしょうか。

 

釼物:1~2期生までは多かったのですが、なかなか人が集まらない時期もありました。

 

どういうミッション・活動内容でプレーヤーを入れるかというところで応募数が変動しますね。昨年から今年にかけて、新型コロナウイルスの影響で移住希望者が増えたため、応募数も多かったです。

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プレーヤー(移住者)たちの団らんの様子

中野:プレーヤーの方の話を聞く中で、タイムマネジメントの管理ができずに、結局任期である3年間が過ぎて仕事が見つからずに地元に帰ってしまうという話を聞きます。これに関してはどう思われますか?

 

釼物:3年後、そのプレーヤーが定住できなかった場合に、また新しい人を募集することになりますよね。

 

そういう使い捨てのようなことは、萩市としてはしたくないので、3年後こういうことで活動していけるんじゃないかということをある程度考えた上で、ミッションを決めていきます

 

入って来られた方が自分のスキルで何がやりたいのか、将来的に何をやっていきたいのかというのをしっかり聞き取りをして、担当部署ができるだけその人が定住に向けた活動ができるように支援していくというのが萩市のスタイルです。

 

中野:素晴らしいですね。秋山さんも将来的にここに根付いて暮らしていきたいと思っているから、今一生懸命取り組まれているわけですよね。


秋山:そうですね。自分のスキルを活かして地域に根付いていこうと常に思っています。

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背景:萩のふるさと情報誌「はぎのね」から

編集後記

空き家の利活用において、家財がそのままでも空き家バンクに登録できるということはとても新鮮な発想だと感じました。移住支援制度も充実していて、移住希望者にとっては魅力ある場所だと思います。

 

萩市には地域資源や面白いコンテンツが溢れているのだろうなと想像を掻き立てられた取材でした。長くいればいるほど、その魅力がわかるという萩市。ぜひ私もいつか訪れてみたいなと思いました。

北嶋 夏奈
企画・著作:北嶋 夏奈(kitashima kana)

地域の暮らし・活動に興味あり。好きなことは文章を書くこと、写真を撮ること。

【取材データ】

2021.06.17 オンライン

【監修・取材協力・資料提供】

・山口県 萩市役所 地域政策部 おいでませ豊かな暮らし応援課

・山口県 萩市役所 産業戦略室

・釼物 佳代子 様

・秋山 光里 様

取材にご協力いただきました関係各諸機関のほか、関係各位に厚く御礼申し上げます。