今回も引き続き、富山県朝日町の地域人へ取材。個人的にも何度も通う内に町の魅力に取りつかれ、そこで活動している地域の人たちを深堀りして行きたいと考えていた中で出会った徳田聖一郎さん。
泊漁協で漁師として生活する一人のプレイヤー。移住して2年経ち、地域へ初めて来た時の気持ちの変化、そして地元との人との関わり方から将来考えていることをお話いただくことで、綺麗ごとだけではなく現実的な感覚で地域に溶け込む人間らしさを知ることができた。
漁師 徳田聖一郎さん
愛知県豊田市出身
漁師。 2018年6月、富山県朝日町へ移住。
素潜り・料理が趣味。
大手製造業を経て富山県朝日町に移住して JF 泊(富山県朝日町泊漁業協同組合)で漁師と して働く中、空き時間を利用して自分で獲ったモノを加工から販売まで手掛け、人々に「美味しい」形で幸せを提供していけるよう自走化に向けて漁協と共創しながら日々邁進中。
泊漁協 HP :https://www.tomari-gyokyou.com/
instagram:sei_toku_maru(https://www.instagram.com/sei_toku_maru/)
-愛知県から移住して2年目になる徳田さん。最近は地元出身の奥さんを迎え、この地に住むんだという気持ちが伝わってくる。その中で新たに分かったことはなんだろう。難しいこととか、ぶつかった壁や乗り越えるべき課題はないのだろうか?-
徳田さんとしては直接的には課題はないという。パートナーの生活はどうなんだろうか。 おそらく道も分からなければ近隣の人たちの地域との関わり方は気になるところだ。
「そうですね、例えばコロナ渦の影響で行く所がない。この前のGWも2週間ぐらいあったんですけど、何もできなくてずっと家におったから。働くところも近場が良かったんですけど中々見つからなくて。結果的に少し離れてはいるけど就職が決まって良かったですよね」 (徳田さん)
なるほど。しかし、徳田さんのように都市部の人は近所をあまり気にしない傾向が多い。そんな人たちが地方へ移住すると隣近所や自治会の活動に配慮して行くといったコミュニティーを重視する必要も出てくる。今までなかった気遣いで疲弊するような話も聞くが、その辺はどうだろうか。
「うちのところは、周りの人は逆に気を遣ってくれているのか、そう思わせたくない感じがあって、気にしてくれてるんですよね。そもそも近所付き合いも奥さんも含めて嫌じゃなかったので、敢えてアパートではなく一軒家に住むことを選んだんですよ。
うちで獲った魚を近所の人にあげてお返しに野菜をいただくようなこともよくあるんです。そうですね、あとは家の周りのことは気にかけています。例えば草刈りしないで放っておくと、草ぼうぼうになってあんまり見た目も良くないので。」 (徳田さん)
職場の人間関係はどうだろうか。地域に入り込んで新たに働く先、しかも漁師といった職業は上下関係もあり、一般的に見れば怖いイメージもあるが。
「最初は、漁師というのは先入観から怖いそうだなって思ってましたけど(笑)、今は普通に気遣いすることなく普通に話せるし、オフのときも遊んだりするようになりましたね。一緒にいても別に困ることはないというか。
まぁ、見た目は怖くて時折デカイ声を出すことはありますけど(笑)。それでも矛盾していることを言われることもないので。他に陰湿な人もいないので楽しいです」
-自分で獲ったものでみんなに喜んでもらえる形を創りたいと言っている徳田さん。とても印象的でさらに最近、狩猟免許も取得したが、なぜ活動域を広げようと思ったんだろうか。-
「誰かから『やりな』って言われたわけでもなく単純に興味があったんですよね。ジビエを味わってみたい思いはありました。
最近増えてきてるイノシシも食べてみたかったし、元々やりたくって漁師もできて山の狩猟もできる場所を探しててマッチしたのが朝日町だったんですよね。実はここに来る前も別の地域で狩猟の体験もしてたんですよ」 (徳田さん)
やってて楽しいことに挑戦する姿は輝いている。逆に楽しいからやれるんであって、つまらないことを続けるのは面白くないものだ。
一般的に大企業に行けば個人のやりたいことが尊重され続けるのは難しい。自分の個性が活かされるのがこの地域での徳田さんの暮らしのような姿なんだろうと思う。
しかし今、アフターコロナ、ウイズコロナと言われる大変な世の中、自分の方向性について考えることは変わったんだろうか?
「元々メインを漁師で仕事をして空いた時間に、イベント出店とかで自分で獲った魚などの食材を売っていたんですけど、それが全然できなくなってしまったんですね。その両者があったから良かったんです。
年間の出店プランを立ててスケジュールを組んで、両方でどれくらいの数字が出るのか計算していたんですけど、それがゼロになってしまったのがかなり痛いですね。
それが果たして元に戻るのかというと疑問なんで。そこをネットなどを通して「おうち」で食が楽しめる形を作ってカバーして行かないといけないなぁと」 (徳田さん)
富山県でもコロナの影響で「春の四重奏」、さらには「おわら風の盆」のような大きなイベントもなくなってしまった。これが元に戻ることを前提としてやっていては遅いのではないかと話す徳田さん。アフターコロナに期待するよりもコロナと共存して行く形で今後考えているのだろう。
「あと朝日町でも近所の直売所やシルバー人材による配達サービスもあるので、その方たちにもついて行って、その場にも魚とかを持って行ければなぁと。
地域の方たちともっと繋がって人脈も広げて行きたいですね。買いに来られたおばちゃんたちと話をするのも俺好きだし、美味しいものを持って行ってあげたいなぁって」 (徳田さん)
コロナ渦の中で様々な可能性が潰されてきた中で、ネットショップを利用して家でも楽しめる刺身系とかはやって行きたいと意気込む徳田さん。
地域で獲れた美味しい海の幸を家でも楽しめるよう、地域外の人にもすぐ食べられる状態で提供し、満足してもらうことで、 おうち時間、stay home あるいはテイクアウトという形態を通じてソーシャルディスタンスの醸成に繋がって行くのではないか。
-移住して2年経ち、すっかり地域に溶け込んでいる徳田さん。自分が楽しく暮らしている姿がとても印象的に思えるのだが、どの地域でも地方創生に尽力するだけでなく地域内外への発信も積極的にしている人が多くみられる中、地域の中には変化を望まない人も多く、結果的にそれらのプレッシャーに押されて疲弊し、静かにひっそりと暮らすことに舵を切るプレイヤーもいる。取材を受け入れてくれる人がいる反面、そっとしておいて欲しい地域もあるという側面もあるのは、残念なことなのか、それともそれが幸せなら触れぬ方がいいのかと葛藤することもある。徳田さんはどうやれば信頼を得ることができると思うのだろうか?-
「自分がやりたいことに対してどうしても向き合わないとダメなら考えるけれど、漁業が盛んな漁師町によっては変化を望まない他のよそ者を受け入れない場所もあると聞いています。
漁場の関係で、よそ者がそこへ行くと注意を受けることもあるみたいです。クセが強い人もいるだろうけれど、だいたいそういう人は周りからもそんな感じで見られているはずですから」 (徳田さん)
例えば10人いたらすべての人が理解してくれるとは限らない。周囲の考えを気にし過ぎてもいけないし、無視し続けるのも難しい。杓を考えるのは悩むのだろうが、一人で抱え込むほど思い悩む必要はないのでは、と思うのだ。これが正しい答えというのは存在しない。
チャレンジして自分なりに納得の行くやり方を見つけるしかないのだろう。その人が否定的な考えであってもそうなんだと思う程度で特に影響を受ける必要もないだろうと徳田さんは話してくれた。
-「楽してカッコ良ければ幸せか?」という言葉がある。徳田さんは企業の安定した生活を捨てて、朝日町へ移住された。色んな地域で、自分を試されここに着地したが、当初不安や自分がどうあるべきかとか思っていたことはなんだろうか?-
「確かに最初はやっていけるのかなぁって思いました。今までここに来るまで嫌々仕事をしていた中で、やってて楽しい仕事ってすごくいいなぁって思ってたんで、こっちに来て不安もあったけどワクワク感がおっきかったなぁって」 (徳田さん)
不安もあるが期待の方が大きかったと話す徳田さん。何事もリスクのない挑戦はないものだとも聞く。考え事をしていてもしょうがないし、やらなければ前にも進まない。チャレンジして頑張ってもダメだったらそこで考えればいいのと思うのだと。失敗を恐れずにチャレンジする人は輝いている。そんな側面を徳田さんに見た。
-よく聞く「地域活性化」という言葉があるように、志高いチャレンジは地元にとって大きな変化が求められる。周りを巻き込んで行こうとすると、その分反発も出てくることも予 想されるが、それらに対する向き合い方はどうだろうか?-
「俺は別に地域を活性化することをメインとしているわけでもないし、地域を盛り上げなければいけないとか使命感を帯びているわけでもないんです。一緒に盛り上げていければいいと思うんですけれど。
ただ俺は自分がやりたいことを自走化できるように頑張っているだけなので(笑)。良くなればいいなぁとか、美味しいもん食べて町の人に喜んでもらえればいいなぁとは思ってます。
なので特にプレッシャーとかもないんですよね。いろんな人と飲みに行って打ち解けて仲良くなって行ければそれでいいって思うんですよ」 (徳田さん)
よく聞く話として地域に移った者たちが自分たちが楽しく仕事して幸せに暮らして行くことを追求した結果、地域活性化に繋がった。地域を何とかしようという目標に集中しすぎて大切なものが見えなくなってしまうんじゃないかと思う。
目標という幅を決めすぎず、余白のような余裕を持たせて構えすぎない姿が大切で地域からも求められていくのではないか。
-徳田さんは地域おこし協力隊制度を利用して移住したが、任期は残すところ1年ほど。現在の状況はこの地域で活動を始めたとき、ここで何かをやろうと抱いていたイメージとして近いのだろうか?それとも全く違っていて別の方向性を見出してきているのだろうか?-
「例えば、俺は素潜りがやりたかったので、今では資格がもらえるように動いてもらっている部分があるので協力隊任期満了後に個人でも潜れるようになるだろうし、3年目で船も準備していくとか、やることはいっぱいありますけど、何となく目途は立ってきているんで、頭の中では形にはなってきて最初のイメージには近いものはありますよね」 (徳田さん)
自走化に向けた準備は着々と進んでいて、うまくいけば独立に向けて協力隊任期満了となる頃には一人でも漁師としてやって行けるようにしたいと話す徳田さん。
自分で魚を獲るだけでなく、それを販売するための形も整えて漁協の目指す持続可能な6次産業化に向けて動くことで結果として漁協自体の存続にも繋がっていくのだろう。
地域によっては漁協自体の担い手が不足して運営自体が危ぶまれていると聞く。このような流れが一つのロールモデルとなって1次産業のさらなる魅力化に繋がっていって欲しいものだ。
お店の情報
-地方都市では1次産業が衰退していく中、この泊漁協では持続可能な6次産業化を目指しているが、その核となる1次産業を確かなものに導いている。それは地方都市最大のポテンシャルだと思うが、徳田さんとしてはどうあるべきなんだろうか?-
「元々の考えとしては、海産物がたくさん獲れたので、面倒なことをしなくてもお金にはなっていた。昔の人から言えば、そんなこともやるの?とか、加工なんて大変だし『やっとられんじゃ~』っていう感じはありましたよね(笑)。
加工や商品の販売といった収益化に向けた考えはなかったと思うんです。でも変えていかないと生き残ることが難しくなっていく。大変なことだけど、俺は別に嫌じゃなかったし逆にそれがやりたかったんです」 (徳田さん)
これまでは獲ったものを市場に出したら、それで終わりだったので従来の考えを持つ者としては困惑するのかもしれない。サラリーマン経験があれば、ある程度は商売のあり方を知っている。
徳田さんもそういうものなんだと当たり前の意識があり、商いで人に喜んでもらえる形を提供する。例えば美味しいものを食べれば誰でも嬉しくなる。徳田さんは、そこに着目し、自分が獲ったものを提供して美味しいって言ってもらえたら最高だろうと考え、漁師よりもそこから得たもので美味しく食べてもらえる形を主体にし、市場を通してではなく、漁師から人に直接見える形で提供する流れを作りたいという。
「そういう話をすると料理人になれば良かったんじゃないかと言われるんですけど(笑)。 自ら得た食材で加工して店を出して人に直接見える形で提供したいと考えているんで、刺身といった料理とかも勉強しに行って良いものを出せるようにはしていきたいです」 (徳田さん)
悲願だった町の海産物を加工できる施設も立ち上がり、現在では稼働も始め、漁協としても最大限に活用できる場もできた。コロナの影響で、これまで集客性の高い頼りにしていた出店イベントが全てできなくなってしまった。
しかしここを含めてこれまで様々な可能性を広げてきた彼らの行動は評価すべきもので、頑張ってきた結果、大きなリターンが得られるようになったのだろう。いい方向に向かっていくと信じたい。
徳田さんのような都市部から可能性を求めて地方へ移住する地域おこし協力隊は増え続けている。現在の世の中の情勢を踏まえれば、それは今後も加速していくであろう。
しかし、現在では自治体も協力隊の選考を絞り込んでいる傾向があり、誰でも採用という形はなくなってきているようだ。その中でこの朝日町を選んでくるプレイヤーに対して徳田さんはどんな思いを抱いているのだろうか?
「まずは目的を持っていないと行動が無駄になるんじゃないかな。何をしにここに来たか、そういう思いがあるかないか。その場だけの楽しみではなく、自身のやりたいことが将来性に向けて繋がっているかどうか。地域の人たちと仲良くなるのももちろん大事ですけど、任期満了後にそこでやっていけるかということに繋がる形を作ることが重要ではないかと考えます」 (徳田さん)
地域によっては漠然とした思いでやってきて任期を全うしたらそこから離れてしまう話をよく聞く。徳田さんのように移り住んだ場所で何をしたいのかという目的を明確にし、地域を巻き込んで楽しく暮らしていく形を作っていくことが、結果として地域が良くなっ ていくのだろう。今回はそれが重要なんだと改めて認識した取材となった。
■企画・著作
中野 隆行 (Takayuki Nakano)
当メディア創設者
地域での写真活動を機に地域の人たちの価値観に触れたことがきっかけで、このメディアを立ち上げる。
【取材データ】
2020.6.11~6.13 富山県下新川郡朝日町
【取材協力】
JF泊(富山県朝日町泊漁業協同組合)
取材にご協力いただきました関係各諸機関のほか、関係各位に厚く御礼申し上げます。
●ロケ撮影地
JF泊(富山県朝日町泊漁業協同組合)
富山県朝日町燻製加工室