農を通した持続可能な副業から複業へ視点を向ける秘訣が「楽しい」こと 〜時間をかけてクレジットを獲得することがビジネスモデルを築く真髄〜
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農と人-Interview-

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農を通した持続可能な副業から複業へ視点を向ける秘訣が「楽しい」こと
〜時間をかけてクレジットを獲得することがビジネスモデルを築く真髄〜

愛媛県松山市(北条地区)

今回は鈴木 隼人さんに
お話を伺いました
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鈴木 隼人(すずき はやと)さん:農業団体 きりぬき代表

愛媛県松山市出身。柑橘ソムリエ。普段は一般企業で交替勤務をしながら隙間時間を通して、農業関係の地域活動を展開。その名も「きりぬき」。根っからの柑橘好きで、きりぬきの活動は趣味の延長線上とも話す。

きりぬき
web>https://peraichi.com/landing_pages/view/r7gv1/
instagram>https://instagram.com/kirinuki.mikanyama
lit.link>https://lit.link/en/kirinukiehime

仕事を一つの会社で勤め上げるのではなく、自分自身のキャリアを描く選択肢が増えた昨今。「副業」という言葉は「複業(パラレルワーク)」と呼ばれるようになり、働き方の多様化が加速しつつあります。


中でも今回は、愛媛県で柑橘産業を中心としたローカルビジネスを展開している鈴木 隼人さん(農業団体 きりぬき)のお話をお届けします。


若者を人財として巻き込みながらビジネスを継続するにあたって、当たり前に捉われない柔軟な活動方針とは?

学生団体の活動から発展し、複業やプロボノなど幅広い選択肢で若者が集まって農を主とする社会課題に挑む活動


2023年、年始めのある平日。カフェのテラス席である若者から話を伺った。寒空の下のオープン席であるが、屋外ストーブがテーブルに座る若者や取材する私たちを温めてくれていた。


若者の名前は鈴木 隼人さん。結婚して最近元気な赤ちゃんが産まれて幸せに包まれながらも、柑橘類を中心とした農の課題解決のために団体を立ち上げ、仕事の隙間時間を通して日夜奮闘している。


「団体の名前は”きりぬき”といいます。不思議な名前ですよね。この名前の由来は、僕たちの活動拠点である松山市・北条地区で地域の人だけが呼んでいる山から来ています。元々はその山を切り拓いて峠を超える坂道を作ったからだそうで、そこから呼び名を取って活動しています」(鈴木さん)


地域のビジネスモデルにおいても道を拓くきりぬきには、個性あふれる若者たちが自ずと集まってくる。彼らの写真を見るとどれも楽しそうで見ている側も面白そうだと思ってしまうが、人が集まる根本的な理由はなんだろうか?


左から鈴木さんと副代表の福井さん


「僕たちの団体の平均年齢はだいたい25歳で、農業団体としてかなり若いほうだと思います。元々は大学生の頃に入っていた農業系サークルがきっかけで、一緒に活動していた後輩が社会人になった後もきりぬきのメンバーとして活動をしています」(鈴木さん)


普段はメンバー全員が本業を持っており、休みの日や空いている時に手伝える人が集まって活動している。きりぬき本来の活動目的である規格外の柑橘を販売する際の受付や、箱詰めの作業などはアルバイトとして来てもらったり、イベントやマルシェ開催時はボランティアで来てもらったり、活動内容によって自由な参加スタイルにしているそうだ。


市場に流通できない規格外品を消費者の理解を得ながら食品ロス問題を継続して流通させるための黒子的な存在


「基本的に僕らの活動は、規格外の柑橘を農家さんから預かり、高い値段で流通させることで、農家さんの収益を底上げすることがミッションです。


しかし農家さんに対して営業は基本的にはしません。既存取引先の紹介が100%という形が一番やりやすく、点と点が線で結ばれることにより信頼関係を築いています。今の取引先は48件ですが、今後より他の地域も開拓していきます」(鈴木さん)


地域で根付きながら活動する様子から若者が牽引するイメージを持つかもしれないが、どうもそうではないようだ。鈴木さんはあくまでも黒子的存在でありたいと次のように話す。



「僕たちの活動は目立ちすぎないことも大事だと思っています。規格外の柑橘を流通させることは、農家さんにとって一見良いように見えるのですが、規模が拡大しすぎると本来の製品価格が下落する問題があります。


価値を安売りするのではなく、僕らのビジョンからきちんとブランディングして消費者に知ってもらうことが大切になってきます」(鈴木さん)


多くの生産者が集まって多彩な味を楽しめる団体の強みはサンキューレターによりさらにコアなリピートを生む


消費者への周知方法としては手紙を送ったという。現在の団体になる前から販売活動を続けて8年目。当初から商品にサンキューレターを添えて消費者へ活動目的や収益の使途を伝えている。


最初は興味本位で買った消費者が、一度手紙を読むことにより、リピーターが増えたという。昨年の年間販売個数は6,000箱。その約半分が毎年同価格帯で買っていたリピーターだというのだ。さらに鈴木さんはこう続ける。


「また僕たちの団体の強みは、生産者さんが多く集まっていることです。同じ品種でも購入する月や生産者・製品が変わると味や糖度が全く異なるので、消費者が生産者の違いを楽しむことができることに優位性があります」(鈴木さん)



ただ売れればいいというわけではなく、自分たちの思いを明確に消費者へ伝える。一見簡単なように見えて、なかなか真似することができないのではないか。


この強い想いを形にしていくことが、新規顧客からリピーターへ繋がり、信頼を得て活動を継続していくために、とても重要で大事なことだと言えるだろう。


時代の流れと共に農家の在り方も変化し、事業の継承は可能性を秘めている中で若者が持つ活動の原動力とは?


愛媛県内では20代を中心とした若い農家が増えてきている。理由は、農家をしていた祖父母から息子娘ではなく、孫が継ぐパターンが増えてきたからだ。


柑橘農家の在り方は、年配が抱いているイメージほど悪くはないと鈴木さんは語気を強める。今の若者は農業に憧れやかっこよさを感じている人も多い


しかも生産のみではなく、自分たちで加工する技術や販売する能力、いわゆる6次産業化できる人材が農家として参画しているというのだ。時代の流れによりきりぬきの取り組みと農家の関わり方も少しずつ変わってくるのではないか。 


「例えばジュースを絞れる施設や、殺菌して瓶詰めにする加工ができる場所をきりぬきで提供するとします。ただ規格外品を預かって販売するだけじゃなくて6次産業化の一助となる関わりを持つことで、これから農業へチャレンジする世代へ収益を通した貢献もしていきたいと思っています」(鈴木さん)



幾多の困難を乗り越えてやがてたどりつく未来を見据えることができるのは、過去の原体験から今にになってもなお思い続けて描き続けるビジョンがあること


とはいえ、農産業ならではの苦難や苦労などもあるはずだ。そこに直面しながらも活動を続けられる原動力とは何だろうか?


「大きく二つあると思っていて、一つは自分自身この活動が楽しいこと。もう一つは、事業承継者がいないことや収益性の理由で元々農家だった土地が荒廃する光景を減らしたいからです」(鈴木さん)


過去に遡ったお話として、鈴木さんの曽祖父がきりぬきと呼ばれる土地で柑橘農家をしていたが、事業承継できずに離農。その後周辺農家も後に続く形で山が荒廃してしまった。


それを鈴木さんは小さい頃に目の当たりにしており、農地に草木が伸びてみかんの木が枯れてしまったり、イノシシの被害などを受けて里山と人の住む境界線が分からなくなってしまった。


そう言った過去の原体験が今に贈られているギフトが自分の住んでる地域で荒廃していく土地を減らすことこそがきりぬきのビジョンなのだ。



地域に若者を巻き込む力は「共感」を生み共創し、そして共鳴させること。関わる人が各々の得意分野を活かし持ち寄って創るエコシステム


しかし、精力的な活動を持続可能なものにしていくには、やはり若い人のパワーが必要不可欠だ。こういったローカルビジネスに若者を巻き込んでいく地域が増えていけば、より活性化に繋がる場所も多いであろう。


きりぬきが実践している若い人の巻き込み方や、継続して参加する仕組みづくりのポイントはなんだろうか?


「活動メンバーを集めること自体は永遠の課題だと感じています。きりぬきの特徴はみんなが普段は仕事をそれぞれ持っており、そこからこちらに関わって活動していることです」(鈴木さん)



活動自体は純粋に楽しいから人が集まると話す鈴木さんだが、継続して活動するメンバーとのリレーションシップとして大きく二つのことを意識している。


一つは、メンバーが団結するきっかけを定期的につくること。最初のきっかけになったのはクラウドファンディングだった。きりぬきの活動拠点ともなる倉庫を作る時に一体感が得られてメンバーの団結力が大きくなったそうだ。そして、もう一つは、メンバーが得意分野を持ち寄ってエコシステムを構築していることだ。


「きりぬきはみんなが柑橘産業に関して詳しい人が多いわけではなくて、柑橘を販売する上で必要なデザインや文章作成、そして、営業活動が得意な人がいます。


それぞれが得意分野を活かし、パズルのピースがはまるように足りないものを補って一人ひとりの能力が最大限に発揮できる自立分散型を意識しています」(鈴木さん)


一人だけの力では成り立たないと話す鈴木さんは、メンバーそれぞれがお互い共助の精神をもって取り組んでいるから続けられるのだと話す。


新しいことに挑戦しながらも核とする事業を通して得られた収益を農家に還元することが、地域にも分かりやすいまちづくりに


それぞれの異質な個性を尊重することがきりぬきのビジョンにもなっているというのだ。今後の展開がとてもワクワクするところだが今後、鈴木さんのチャレンジを通して柑橘農家にどんな希望を添えていくのだろうか?


「これからは自社で販売できる農家さんが増えてくるでしょう。僕の将来のビジョンとしては、きりぬきが、自分たちの強みをさらに生かし、農家さんを全面的にサポートしていける立場であり続けたいです。


私たちの事業を通して得た収益を農家さんに還元する形を作ることで分かりやすいまちづくりにも繋げていきます。僕たちはまだまだ未熟なところはありますが、だからこそできることもたくさんあると思っています。


毎年自分たちの地域で“誰もやってこなかったことをやる”ことを心がけて状況に関係なく地域活性化の起爆剤になる新しいことをやりたいと思ってます。農業に関わらず地域社会を盛り上げていきます」(鈴木さん)



結び-Ending-

”きりぬき”で行う活動は、複業という枠に捉われない新しい働き方を提示しながら、より多くの人の居場所や役割を活力的に生み出す場所ではないかと感じました。


鈴木さんが常に新しいことへチャレンジしていく姿は、私自身の希望へも火をつけてくださる姿となる心動く瞬間となりました。

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■企画・著作
田中 美沙稀
兵庫県出身の社会人インターン。
ライターとして大切にするものは
「感動を多くの人に伝えたい」という想いで表現。

【取材データ】
2023.1.5 ※ハイブリット取材
【監修・取材協力】
public house はま
農業団体 きりぬき
・鈴木 隼人 様
【撮影協力】
・大西 穂波 様
【資料提供】
農業団体 きりぬき

※現地取材においては感染対策を徹底の上、取材を行っております。

取材にご協力いただきました関係各諸機関のほか、関係各位に厚く御礼申し上げます。

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