よそ者が地域に入ることで、地域課題に対して今までなかった視点や気づきが得られることもあると思います。特にフレッシュな若者が、地域へもたらす影響は多いのではないでしょうか。
中でも、大学生が地域へ一定期間入り込んで、現地の受入先や住民との交流を深めながら地域事例や課題解決を行う活動に関して、耳にしたことがある方もいると思います。しかし、コロナ禍で地域へ足を運ぶことが厳しい状況が続いている中で、いかにそのような実習を継続していくか課題もあります。
今回は、東北地方で実際に現地で活動していた鈴木里奈さん(大正大学 地域創生学部 4年生 2022年3月現在)と、弊社インターンとのトークを通して、現地でこれまでどのような活動を行い、地域との関わりしろを築いてきたのかをお届け。
鈴木さんが南三陸町でのフィールドワークを通して得た学びや気づきとは何か、また南三陸町への想いについて迫ります。
長期間の地域実習で地域の課題を見い出し、主体的な活動を通して解決の糸口を掴むことと地域の魅力を引き出すことの先に見えるもの
平野(モデレーター:以下、省略):本日はよろしくお願いします。初めに南三陸町での活動についてお伺いできますか?
鈴木さん(以下、敬称略):まずは1年次の実習に関してお話ししていきます。
写真左>渡邉 蛍都(わたなべ けいと)さん:東洋大学4年生(2022年2月現在)・NPO法人ETIC.事務局 インターン・隆勝丸アンバサダー/名前の「蛍都」は「蛍」のように小さくても自分で光を放ち、その光で仲間と一緒に「都」 を作りたいという願いが込められている。大学では情報を収集・デザインし、発信力を身に着けてイ ベント等を開催することで地域の情報発信に繋げる取り組みをしている。学生ボランティアサークル(通称:学ボラ)に所属し、地域活性化につながるイベントを企画・運営に携わる。大学卒業後はエティックに就職する。
蛍都:1つは、大学時代に株式会社 隆勝丸のもとで、ボランティア活動やインターンシップに参加しました。そこで、人とのつながりを大切にしたことからご縁につながり、今ではホタテアンバサダーとして、全国にホタテの魅力を届ける活動をしています。
もう1つは、NPO法人 ETIC.(以下、エティック)が運営している地域ベンチャー留学の事務局で長期インターンをしていて、全国の学生に地域の課題解決に挑戦する楽しさを伝えています。
地域ベンチャー留学というのは、学生が春休みと夏休みに地域に1ヶ月間住み込みをして、経営者の右腕として地域に貢献していくプログラムなのですが、実際に大学3年生の時に私自身も経験しました。
地域ベンチャー留学は、日本全国の挑戦を続ける地域企業やNPOの経営者の右腕となり、新規事業や商品開発などにチャレンジする実践型インターンシップ・プログラム。1か月間現地に住み込むプロジェクトから、オンラインがメインで一部現地訪問を行うハイブリッドインターンなど、それぞれの関り方で経営者・地域が抱える課題の解決を目指す(出典・引用:https://cvr.etic.or.jp/)。
蛍都:学生の私が地域で活躍できたことや、第二の故郷ができた喜びを次の世代につなげていきたいと思っています。
平野:私も現在、ここでインターンをしていますが、蛍都さんのインターンに参加されたきっかけについてお話しいただけますか?
写真右>平野 彩音(ひらの あやね):大正大学 地域創生学部2年 町おこしロケーションタイムス インターン/三重県松阪市飯高町出身。三重県立飯南高等学校在学中に空き家片付けプロジェクトなどに取り組み、卒業後も地域と関わりを続けて空き家問題などの地域課題に取り組んでおり、その活動が注目され、「地域人(地域構想研究所 地域人)71号」で取り上げられる。最近は地域の特産品に関わることにも携わりながらweb「空き家活用特集」での情報発信も行う。
蛍都:高校2年生の時に参加した被災地ボランティアがきっかけです。瓦礫撤去の活動を行ったのですが、本当に役に立っていたのか、お客様になっていないか、すごく後悔が残ったんです。そのことから大学でも東北に貢献していきたいと思いました。
大学1年生の時に、東北応援プロジェクト(TOP)に参加した中で「復興庁の復興・創生インターンシップ事業があるよ」と教えていただき、もっと自分の挑戦を広げたい思いから、ホタテ漁師さんのもとでインターンシップに参加しました。
非対面でのインターンシップにおけるメリットと課題を意識しながら、継続的に地域と関わるための信頼関係を得ること
平野:オンラインでの地域活動の良さと課題をお伺いできますか?
蛍都:学生ボランティアやインターンシップは、学業との両立が難しく、一過性になってしまうことに寂しさを感じていますが、オンラインでの活動であれば学業との両立がしやすくなり、一過性ではなく継続的に関わることができると思います。
私自身、社会人になってからも地域に関わっていきたいと思っているのですが、課題に関しては、信頼関係を築きづらいことで、人と信頼関係を築く上ではやはり対面に勝るものはないと考えます。
平野:おっしゃる通りですね。オンライン上で人と関わる時に気をつけていることや、心がけていることがあれば教えてください。
蛍都:新しく会った人と、二度目に会った時にも覚えていただきたくて、初対面の段階でしっかりお話を伺い「またお話を聞きたいです」「今度ぜひご一緒させてください」と自然に伝えられるように心がけ、「二度目まして」の関係性を築くように意識しています。
一緒にボランティア活動した東洋大の学生と
ボランティアに対する自らの想いを伝えることで、周囲に共感者を生み、夢をかなえたり成長できる場を生むことができると新成人の誓いで確信
平野:ボランティア活動に深く関わるきっかけとなったお話をお聞きできればと思うのですが、いかがでしょうか?
蛍都:実は、以前までボランティア活動は「お金にならないのに面白いのですか?」とお声をいただいたりすることもあり、主体的に関わっているにも関わらず、隠してしまっている自分がいたんですね。
その転機となったのが、地元の静岡で成人式の時に新成人代表の一人として発表した「新成人の誓い」で、私はボランティア活動をしています。静岡の活性化のために貢献したいです」と伝えたところ、たくさんの人に共感いただいたんです。そこから、発信していくこともボランティア活動だと学びました。
また、正しいボランティアの魅力を学生たちにも広げていきたいと思うようになり、「ボランティア活動は、人のためでもあるし自分のためにもやっても良いんだよ」と伝えているんです。
平野:ボランティア活動は、人のためだけではなく自分のためとお話しされていましたが、自分のためだと思った瞬間とはどういう時だったのでしょうか?
蛍都:一つは、夢が叶えられることだと思います。ボランティア活動に参加していなければ、今こうして取材を受けることもなかったですし、春からの就職先であるエティックにご縁もなかっただろうと思っています。ボランティア活動を通して、私のいちばんの夢だった「地域の活性化に貢献すること」が叶えられるのではないかと思っています。
もう一つは、私の恩師が「ボランティア活動は、まだここになかった自分や他者、社会との出会いが生まれていく」と教えてくださったことから紐解いて申し上げると、新しいきっかけをいただけることです。
私が東北ボランティアやインターンシップのことをお話しすると「次はラジオに出演してみるのはどうですか?」とか、「店頭に立って東北の食材を使って販売してみるのはいかがですか?」と背中を押してくださったこともあり、自分ができると思っていなかったことも経験させていただきました。
地域での挑戦は現地の人たちの想いに寄り添う大切さを学ぶだけでなく人との絆を強くすること
平野:インターンを通して、地域の関わりしろを築いた上で学んだことは何でしょうか?
蛍都:人とのつながりの大切さと、地域で挑戦する楽しさを学んだと感じています。株式会社 隆勝丸でのインターンシップの時に、「隆勝丸ホタテを全国に届けること」が漁師さんの本気で叶えたい夢だったのですが、そこへ私も参画して本気で挑戦したら、今ではそれが私の夢にもなりました。
インターン終了後にも近況報告を行うなど、現地との交流を大切にしていたのですが、「これからも一緒に夢を叶えていきたい」とある時に漁師さんが言ってくださり、今ではインターン生ではなく、複業として関わり続けられています。
地域の関わりしろを築いて学んだことは人とのつながりで強い絆ができることだと思っています。
平野:おっしゃる通りで、私も将来は地元のため、自分のため、色々な人のために活動したいと思っているので、たくさんの人とつながりができたらいいなと思い、今は地域の紹介や特産品を扱う業務に携わっています。
平野:大学卒業後の進路や将来のビジョンをお話しいただけますか?
蛍都:元々、将来は地元である静岡の報道機関に就職して地域のために貢献しようと、実は今年の夏までは考えていたんです。
しかし、これまでインターンとして関わってきた東京にオフィスがあるエティックには、私と同じ志を抱きながら挑戦を続ける憧れの先輩が多くいらっしゃり、その人柄も良くてどんどん惹かれていきました。
おかげさまで東北にご縁をいただいた一方で、まだまだ知らない地域がたくさんあることも事実です。東京にいながら全国の地域とつながることができるのが、エティックだからこそできることなのです。
地域で挑戦できる瞬間を作りたい気持ちがあり、インターン終了後も継続的に関わり続けられる場所を作りたかったんです。結果として私は大学を卒業してもエティックで先輩たちとともに歩むことを選びました。これからはさらに挑戦の幅を広げていきたいと考えています。
お互いの進むべき道は違っていても共通しているのは、地域で挑戦する当事者意識をもった“ホンモノ”であること
平野:先ほどは蛍都さんに将来についてお話しいただいたのですが、私としては、現状では地元に帰るつもりでいます。地元を離れた人が久しぶりに帰郷した時や、観光客が来た時に、いつでも「おかえり」と歓迎して迎えられる人になりたいと思っています。
そのためには、地域でやりたいことができる、いつでも皆が帰ってこられる、そしてネイティブな人たちが豊かで幸せに暮らせる環境を作る中で、地域課題の解決につながるまちづくりができればと思っています。
蛍都:平野さんのお話、私もとても共感できます。「よそ者・若者・ばか者」の言葉がありますが、よそ者扱いを受けたり、若者だから知識やスキルが足りないと思われたりすることもあると思います。
でもそれだけでは足りないと思うんです。要は本気で挑む当事者意識をもった人こそ地域を変えていくと思うんです。本気だからこそ出せるアイディアがあると思うし、平野さんのように一度地元の外に出た人だからこそ、地域の魅力に気づけるのです。
平野:社会人になっても挑戦し続けることの大切さをお聞きしたいです。
蛍都:私が憧れた地域の皆さんは、挑戦を続けていて楽しんで仕事をしている人たちです。その人たちと同じように、私もそうでありたいと願っています。
その人たちのように、社会人としての責任を持ち、新たなことにも挑戦する気持ちはずっと忘れずに精進していきます。
写真中央>平子 昌彦(たいこ まさひこ)さん:株式会社 隆勝丸 代表取締役/岩手県盛岡市出身。高校を卒業後、地元の製造業で6年間勤務した後、漁師を目指して宮古市へ移住。25歳の時にホタテ養殖業を開始。2018年に株式会社 隆勝丸として法人化。
※この写真はホタテの部位をボランティア活動を行う東洋大の学生に教えているところ
結び-Ending-
蛍都さんのお話を聞いて印象に残ったのは、やはり「人とのつながりの大切さ」でした。地域活動において、課題解決や魅力発信をする上で、人とのつながりは欠かせないものであると感じます。
また、社会人になっても挑戦を続けて楽しんで仕事をしている人に憧れを感じるということに関しても、心に響くものがありました。私も、今まで以上に楽しみながら仕事ができる大人でありたいなと、今回の取材を通して感じました。
■企画・著作
町おこしロケーションタイムス編集部
【取材データ】
2022.02.07 オンライン
【監修・取材協力・資料提供】
・NPO法人 ETIC.(エティック)
ローカルイノベーション事業部
・堀川 風花様
・渡邉 蛍都様
・株式会社 隆勝丸
取材にご協力いただきました関係各諸機関のほか、関係各位に厚く御礼申し上げます。